コロナで苦しい時期もあった、それで
もnano.RIPEが音楽を続けていく理由
とは――デジタルミニアルバム『小さ
な祈りの書』リリース記念インタビュ

ミュージシャンとして数々のアニメタイアップ曲を手掛けてきたnano.RIPE。2020年9月にはベストアルバム『月に棲む星のうた〜nano.RIPE 10th Anniversary Best〜』もリリースした二人が2021年11月5日にデジタルミニアルバム『小さな祈りの書』をリリースした。Lantis主催の「MixUp!」にて公開した楽曲を収録した本作、二人は楽曲にはどんな想いを込めたのだろうか。nano.RIPEのボーカル、きみコに話を伺った。
nano.RIPE『小さな祈りの書』ジャケット
――デジタルミニアルバム『小さな祈りの書』がリリースされました。今回収録されている楽曲はもともとLantis「MixUp!」という企画で公開された楽曲ですね。
そうですね。「MixUp!」という企画自体がコロナ渦で世の中が止まってしまっている状況の中で、そういった社会情勢だからこそ届けるべき音楽があるんじゃないか、という想いで始まったものだったんです。
――そんな「MixUp!」にnano.RIPEとして参加をしようと思ったのはどうしてですか?
当時はぼくらも一切の活動ができなくなっていて、忘れられてしまうかもしれないという恐怖と同時に今だからこそ届けるべきメッセージもあるんじゃないかということを感じていたんです。そんなタイミングでいただいたのが「MixUp!」の話でした。聞いた時に参加しないという選択肢はない、そう思いました。
――そこで発表した楽曲を今回一つのパッケージとしてリリースしたのが今回の『小さな祈りの書』。
今はYouTubeで音楽を聴かれる方も多いと思うので、今回の楽曲はYouTubeにアップロードして完結するつもりだったんです。それがリスナーの方からリリースして欲しいというお話をたくさんいただいて。ぼくらとしても出来ることならリリースをしたいと思っていたので今回このEPをリリースをすることを決意しました。
――今回のEPはリスナーの方からの後押しで生まれたと。
そうですね。あたし自身、好きなアーティストの楽曲は一つのパッケージで持っていたいんです。そういう感覚を昨今のリスナーの方も持っているんだと思って少し驚くと同時に嬉しい気持ちにもなりました。今回収録している楽曲は全てコロナ渦だからこそ聴いて欲しい楽曲なんですよ。それをコンセプトとして4曲を一つのミニアルバムとしてまとめました。
――今回のミニアルバムのタイトルが『小さな祈りの書』となっていますが、このタイトルにはどんな想いを込めたのでしょうか?
「祈り」というのがまずキーワードとしてあったんです。あと、nano.RIPEのアルバムって『スペースエコー』以外は全てタイトルに「の」が入っているんですよ。なのでそれにのっとって最初に思いついたタイトルが「祈りの書」。ただこのタイトルだと壮大すぎてnano.RIPEっぽくないなと思って……(笑)。それで後から「小さな」をつけて『小さな祈りの書』。これでnano.RIPEっぽくなったぞ! と思って決めたのが今回のタイトルですね。

――なるほど。そして今回のアルバムの一曲目が「リリリバイバー」。こちらはコロナ渦を生きる人たちへの応援歌だと感じました。
コロナ渦で辛い人たちに向けて楽曲を書きたいという思いがやっぱりあってそこから製作がスタートしてるんです。ただnano.RIPEはこれまで「頑張れ!」や「大丈夫!」という言葉を使ってきていなくて。それなのにここでいきなりストレートな応援歌を作るのもちょっと違う気もしたんですね。それでnano.RIPEらしく応援のメッセージを歌うにはどうしようかと考えた時に、誰かに向けた応援歌を作って、その曲を通してみんなを元気付けられるような楽曲にできたらいいな、と思って制作しました。
――そんなメッセージを届ける相手として選んだのが野球選手だったと。
そうなんです。あの2020年は甲子園が中止になったじゃないですか。あたし自身も昔野球をやっていたのでそれがすごく印象的なニュースだったんです。それを考えながら周りに目をやったら野球に限らず学生の中には最後の大会がないまま部活を引退しなければいけない子がたくさんいることに気付いて。そういう子たちにメッセージを届けたいと思ったんです。
――野球を通しつつも、全ての人に届くメッセージが込められていますよね。
曲をリリースしてから何年経っても届く楽曲を作りたいという想いは常に持っているんです。なのでコロナ渦のことを歌いながらもコロナ渦に限らず届くメッセージになるように制作をしました。生きていく中で窮地に立たされた時をこの曲の9回の果てだと思っていつでも聴いてもらえればと思っています。
――あと「リリリバイバー」の歌詞を読んでいて非常に興味深かったのが、曲の最後まで逆転していそうで、していないという。この逆転していない、というのは重要だったのでしょうか?
やっぱり高校野球を見ていて思うのが、負けてしまった人の悔しさにも意味があるっていうことなんです。大人になるとあんなに悔しさを感じることってなかなかないじゃないですか。そういう悔しい感情だって尊いんだっていうことも伝えたくて。なので栄光を掴んだ子達だけの曲にならないように栄光を掴む過程の歌にしています。栄光がつかめなかった時は、また頭に戻って聴いてほしい。

――そんな「リリリバイバー」とほぼ同時期に公開されたのが2曲目「オーブ」ですが、応援している相手が違っていますよね。
「リリリバイバー」は前に進んでいる人の背中を押すイメージなんですが、「オーブ」は「もう大丈夫だよ、そこまででいいよ」というメッセージを込めたいと思って楽曲を制作しています。「オーブ」を製作する時に頭に思い浮かべていたのは医療従事者の方。当時誰かを助けるために自らを犠牲にしているのは見ていて感じていたので、その人たちに寄り添えるような曲を作りたいと思っていました。
――「リリリバイバー」「オーブ」ともにメッセージを届けたい相手が明確にあるということですが、これまでもそういった楽曲の作り方をされてきたのでしょうか?
実はこれまでnano.RIPEはそういう曲の作り方はしてきていないんです。コロナ渦だからこそ生まれた新しい曲の作り方でした。これまで作ってきた楽曲は受け手の人がどういった捉え方をしてもらってもいいと思って制作をしてきたんですよ。でも今回は違う。それで言葉のチョイスもだいぶ変わったと思います。
――そんな新しい製作方法をとった2曲、作曲は共にギターのササキジュンさんが担当しています。
最終的に仕上げているのはジュンなのですが、どちらも二人で話し合いながら作ってはいるんです。「リリリバイバー」に関しては高校野球で流れてもいいような楽曲というイメージで作っているので自然とアップテンポな楽曲に仕上がりました。「オーブ」はテーマが決まって、それに合う曲を考えた時にデモの中にワンコーラスだけ作っていたものでぴったりなものがあって、それを元に制作しました。
――そしてここまでの2曲を公開した後、ベストアルバム『月に棲む星のうた~nano.RIPE 10th Anniversary Best~』がリリースとなりました。ベストアルバムということで、制作への取り組み方に変化はあったのでしょうか?
意識的には変えたところはないですね。ただ、ベストアルバムを制作するために自分たちの作ってきた楽曲を改めて、客観的に聴く機会をもらったので知らず知らずに変化しているところはあるような気はします。「花に雨」もギターのササキジュンが作曲をしているんですが、これまでのnano.RIPEにはなかったコード進行なんです。それはジュンがこれまでの楽曲を振り返って、今までとは違ったアプローチで楽曲を作りたいという意識から来ているような気がします。

――「花に雨」は歌詞の面でもこれまでの2曲と視点が変化しているように感じたのですが。
「花に雨」を作っていた頃ってコロナ渦の生活にも少しずつ慣れてきて、その中でできることを前向きに探しはじめた頃なんです。なのでそこにある希望をメッセージとして込めた歌になっていますね。あと、「リリリバイバー」「オーブ」が誰かに向けてメッセージを届ける曲だったのに対してこの曲は自分たちの気持ちをストレートに歌詞に込めている。そういった意味でも視点の変化は感じられるかと思います。

――そんな新しい視点で製作された「花に雨」に続いてラストの楽曲「声鳴文」はどのような思いが込められているのでしょうか?

この曲は「花に雨」と同じ頃にレコーディングをしているんですけど作ったのはもっと前、2019年にはライブでもお披露目もしているんです。当時は「ライブで合唱する曲が作りたいよね」というコンセプトで作っていたんです。それを今コロナ渦で「みんなで合唱できる未来が来て欲しい」という祈りを込めてリリースしました。
――確かに、どんな状況でも音楽を続けていくんだ、という強い意思を感じられる楽曲に仕上がっていると感じました。
2016年にnano.RIPEが4人から2人になってそれからしばらくあたしもジュンも活動するのがすごく苦しかったんです。この曲を作ったのってそこから少しずつ元気になってきた時だったんです。その頃ってぼくら二人だけでnano.RIPEが出来上がっているんじゃない、脱退したメンバーが音を繋いでくれたおかげで、そしてこれまで関わってくれた全ての人のおかげでnano.RIPEがnano.RIPEでいられるんだと感じたんです。だからこそ、支えてくれた人たちのためにも今後も音楽を続けていかなければいけないという意思がこの曲には込められています。
――そういった想いから「ぼくだけで切り開いた未来じゃない」という言葉が出てきたんですね。
そうですね。特に最後の歌詞はすごく思い入れがあります。この曲を作る直前に、2016年まで一緒に活動していたドラムの青山友樹が亡くなったんです。その時に、なおのことあたしは音楽を続けていかなければいけないということを強く感じたんです。その時の気持ちがここの歌詞にはすごく詰まっています。あたし、歌詞を書くのが好きで、普段なら楽しく書くんですけどこの曲の歌詞だけは書きながら本当に苦しかった。普段出せないような本音がこの曲には詰まっていると思います。

――それだけのこの曲には強い想いが込められていると。
そうですね。なのでこの曲は出来上がってすぐライブで披露しているんです。それでライブでたくさん歌って、育てた上でリリースしたいと思っていましたから。
――そんな楽曲が満を辞して今回リリースされたわけですが、お気持ちとしてはいかがですか?
本当はもう少しライブで育てたい気持ちもあったんですけど、ただその一方でライブができない日々が続いている今だからこそ聴いて欲しいという想いもあって。それで今回リリースすることを決めたんです。
――歌い方もこれまでとは一味違う力のこもった歌声だと感じました。
あまり意識をして歌ってはいないのですが、ライブをイメージして歌っていたので自然とそう聴こえる歌い方になったのかもしれません。生々しい人間味みたいなのが歌に込められたらいいな、とは思っていましたから。
――ここまで今回のアルバムに収録される4曲を振り返ってお話を伺わせてもらいましたが、今回のアルバムについての思いを改めてお聞きしたいです。
コロナのことがあってしんどい想いをした方がたくさんいる、ぼくらもそのそのうちの一人ではあるんです。ただ、そういう状況に陥ることがなければ生まれてこない楽曲たちもあるんだということは感じました。ライブができない、そういった現状を切り取ることで生まれるnano.RIPEもあるんだな、と。とはいえコロナが憎いという気持ちは変わりませんけど。
――ここから次、どんな曲をnano.RIPEが発表するかも楽しみですね。
実はオリジナルアルバムを出したいと思って、既に色々と考え始めているんです。長らく出していないので、その間に曲のストックもたまっていますから。問題は作りたい曲が多すぎて、どんな曲を作るかでジュンと揉めそうだなってこと(笑)。ジュンは特に好奇心旺盛なので新しいことにどんどんチャレンジしたいし、その結果nano.RIPEの幅はどんどん広がっていていると思っていて、次のアルバムではまた新しいnano.RIPEの一面を見せられると思っているので楽しみにしていて欲しいですね。
――そして間も無く久々のツアー『ようせいのホルン』も控えています。こちらへの意気込みを聞かせてください。
バンドでのツアーができるのが2年ぶりなので、自分でもどんな気持ちでステージに上がるのか想像もつかないんです。もしかしたら泣いてしまうかもしれない。まだコロナ以前みたいに合唱したりということはできないので、どういう形のライブになるのかという不安もあります。でもみんなに会えることが何より楽しみなので、会いにきてくれたみんなで一緒にいいライブを作っていければと思っています。
――きみコさんにとってライブというのは本当に大切な場所なんですね。
替えのきかない大切な場所だったということをライブができない期間に改めて感じました。あたしはバンドとお客さんとが一帯になって楽しんでいるライブという場が好きで、それを肌で感じるために音楽をやっているといっても過言ではない。お客さんにも「ライブを観にくるじゃなくてライブをしにくるんだよ」ってよく言うのですが、音楽を通して人と人とが繋がっていくのが嬉しい。そこにある音楽がぼくらの作った音楽だったらさらに嬉しいな、と思ってバンドをやっている、みたいなところもありますから(笑)。
――ライブができるようになったからこそ、今後もライブを大切に活動していくと。
そうですね、元気な限りはライブは続けていきたいと思っています。nano.RIPEって「大きなステージに立ちたい」とかそういう目標は持たずに活動をしているんです。ただ目の前の1本を最高のものにしたい。そしてそこで来てくれた方と一緒に新しいライブを作っていきたいと思っています。
取材・文:一野大悟

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