『SAO』川原礫インタビュー「『星な
き夜のアリア』は小説を踏まえた独立
した作品でありながら、自然に入れる
ように模索した」

現在公開中の『劇場版ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』(以後『星なき夜のアリア』)。人気作品の劇場版第2弾であり、『ソードアート・オンライン』(以後『SAO』)をリブートした小説版『ソードアート・オンラインプログレッシブ』(以後『プログレッシブ』)をもとに新たなる物語が紡がれている。また本作ではキリトが主人公ではなく、アスナ視点の物語になっている。小説『SAO』の刊行から約12年がたちながらも人気の衰えない作品だ。そんな人気作の原作者である川原礫に劇場版について、さらには『SAO』という物語の世界のベースになっているMMORPGについて訊いてきた。
『劇場版ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』 (c)2020 川原礫/KADOKAWA/SAO-P Project
――今回の劇場版は、小説版『プログレッシブ』のキリト目線とは違い、アスナ視点の物語になっています。ご覧になっていかがでしたでしょうか。
アスナ視点の話にするということは、今回の劇場版の企画が立ち上がった時点から決まっていました。その方針に従って私も脚本会議に参加して、あれこれ意見を出していたので、そこは分かっていたのですが、実際に完成した映像を観てみると、脚本やコンテの段階から想像していた以上に、アスナの心情が細やかに伝わってくると言いますか、かなり心理面、内面の描写をものすごく重視した作りになっているなと思いました。
――アスナ視点の物語になるにあたって、劇場版ではミト/兎沢深澄というオリジナルキャラクターが登場しています。こちらも企画段階から新キャラクターを登場させようという話はあったのでしょうか?
かなり昔の話なので細かい経緯は覚えていないのですが(笑)、「新キャラクターがほしい」ということは、会議のだいぶ初期の段階から話が出ていました。アスナ視点の物語を書くにあたってキーとなるキャラクターが必要じゃないかということは共通認識としてあったんですね。ただ、どんな人、どういうふうな関わり方をする人なのかということは会議の中でいろいろ話し合って決まっていったという感じです。
(c)2020 川原礫/KADOKAWA/SAO-P Project
――ミトがいることによって、アスナが『ソードアート・オンライン』(以後SAO)の世界にログインするまでと、アインクラッドでキリトに出会うまでのところが補完されていますよね。
そもそもからして『SAO』本編の1巻、《アインクラッド》編と、小説の『プログレッシブ』1巻も、少し設定の乖離だったり、矛盾する部分がなきにしもあらずなのですが、そこにさらに原作小説にはまったく登場していないミトというキャラクターを投入すると、またそこでひとつパラレル感がでてしまう。そこはもう割り切って、“これは劇場版で小説を踏まえた独立した作品ですよ”という、そういう体で進めようということになりました。それでも小説を読んでくださってる読者の方からすると、ミトってどこから出てきたんだろう? ということになるため、そこは原作小説だったり、アニメ1期の1話~2話になるべく自然に合流できるような新キャラクターの登場の仕方をそうとう模索しました。
――『SAO』ファンは世代が幅広く、根強いファンが多いイメージがあります。長年のファンとこの劇場版から観た人がどちらもすんなりと入れるようにするというのは大変ですよね。
原作がある映画は、むしろ原作を100%忠実に映像化している作品のほうが少ないと私は思うんです。どんな作品でもキャラが増えたり減ったり、ストーリーが変わったりはごく普通に起こることだと思います。ただ『SAO』の場合は、今までかなり原作に忠実なメディアミックスの展開をしてきたこともあり、読者の方がどれくらいそのパラレル感に耐えていただけるか、というのは私もちょっと未知数なところがありました。そこはなるべく大冒険はしたくない。今まで小説を読んだりアニメを観てくださっている方も、キリト目線で進んでいた原作やアニメ第1期の裏でこういうことがあったんだということを、なるべく受け入れていただけるようにキャラ設定と話の持っていき方をそうとう工夫しました。
――既存のファンだけでなく、新規ファン、今まで『SAO』のTV版は観ていたんだけど、小説はまだ初期からは読んでいないよ、という新しいファンの方を呼び込むために作られた部分もあるのかなと感じました。
作りとしては、『SAO』シリーズに関する予備知識がまったくなしで、完全に初めて観ても100%楽しめる作品になっていると私は思っています。原作者の立場からすると、既存の読者や視聴者の方々へのフォローが最初に出てきてしますので、そこが本当に難しいです。新規の方がどれだけ楽しんでいただけるかということと、既存のファンの方がどれだけ楽しんでいただけるか。原作を読んでいると、ニヤッとできますよという要素をあんまり盛り込むと、映画で初めて『SAO』を観た方が「さっきの意味深っぽいシーンは何だったの?」という引っ掛かりがちょっとずつ増えていってしまう。そのさじ加減は脚本の段階でも意識しました。ただ、私の主眼としては、既存のファンの方が、なるべく違和感を持たないようにということを第一に考えました。
――なるほど。今回の劇場版では河野監督が務められています。川原先生から今回はこうしたいというようなリクエストはされたのでしょうか?
プロデューサー陣より河野監督に様々なリクエストがあったとは思うのですが、私は聞かれた質問に答えるという業務がメインでした。
――基本は『SAO』の設定としてどうなっている?というような質問に答えていくと?
そうですね。ここはこういう操作をしたらどうなるのかなどの細かいシステム面、例えば武器変更のシークエンスみたいなものは、さすがに私が答えないと誰も分からない(笑)。そういう、システム周りの細かい監修みたいなことがメインの業務でした。あとは、新しいモンスター名ですね。私は『ウルティマオンラインe』と『ワールドオブウォークラフト』というアメリカのMMORPG、特に『ワールドオブウォークラフト』は、ネット小説として『SAO』を書いていた頃に遊んでいたタイトルなのですが、この2つのネットゲーム観というものに影響されていまして、『SAO』モンスターのネーミングがちょっと洋ゲーっぽいんです。
――たしかに(笑)。いわゆるJ-RPG的なネーミングではないですよね。
そのため、モンスター名は私がつけないと統一感が出なくて(笑)。モンスター名とアイテム名は全部私が付けました。

(c)2020 川原礫/KADOKAWA/SAO-P Project
――アスナが『SAO』にログインする時の画面が今回細かく、アバターを作るところまで相当細かく描写されていました。あそこも川原先生からログイン方法もご説明されたのでしょうか?

あのシーンは、コンテの段階からほぼ出来上がっていて。原作1巻とかの段階では、プレイヤーたちは今実際にあるゲームみたいに、背格好や眉毛、鼻筋など細かくパラメータを調整して作ったということにしていたんです。でもアスナにそんなことをやらせていたら、そこで30分かかってしまいますから(笑)。なので、自分の写真からアバターを作れるということにしたらどうかということになりまして、それは私がアイデアを出したのかな……。アスナが写真から作る方法で作成しようとして、自分の家のホームサーバのフォトフォルダを開くと、お兄ちゃんが撮影していたアスナの写真がドバーっと出てくるという。そこでひとつ面白くできたので良かったです(笑)。ただ、あの写真を1枚1枚描くスタッフさんが相当大変だったみたいです。
――確かに膨大な量のアスナの写真が出ていました。
そうなんですよ。あの写真は全部キャラクターデザインの戸谷(賢都)さんが修正されたみたいです。なので、すごく大変だったろうなと思います。
――でも、あれでかなりログイン方法がなるほど、となりました。演出上の問題もありますけど、あれも初めて見る人には分かりやすさがありますよね。
あのようなシーンログイン画面はこうゆうのではないよね、と観客の方が感じてしまうと、そこで没入感が薄れてしまう。なので、システム周りの描写はなるべく大切にしています。おそらく『SAO』が好きな方って、ゲームが好きな方も多いと思うので、自分が『SAO』というゲームにアスナと一緒にログインするような没入感を持ってもらうためにも、ログイン画面のようなシーンでは本当に嘘はつけない。あのシーンは手が抜けないので、むしろユーザーインターフェースをデザインするスタッフの方がものすごく苦労されたんじゃないかなと思います。
――『SAO』のアニメ全般を通して2Dグラフィックスはものすごく凝っているイメージがあります。
私が最初の小説を書いていた時は、よくある四角いウィンドウが1枚出てきて、そこのタブを切り替えるという感じでやっていたんですけど、TVアニメ1期で伊藤監督がUIデザインを、ずっと担当してくださっているワツジサトシさんという方に依頼して、指を動かすとアイコンが出てくるという、あの特徴的なUIを作ってくださったんです。あのアイディアがかなり『SAO』の世界観を深めてくれました。
――細かいところもちゃんとしていないと、いわゆるVR、仮想現実ということ自体が入ってこないということですよね。
ゲームとしてのリアリティがしっかり担保されていないと、そこで視聴者の方が「あれ?」となってしまう。物語の中で嘘を感じてしまうと、そこで冷めてしまうので、システム周りやユーザーインターフェース周りは、おそらくスタッフの方も相当気を使ってくださっているんじゃないかなと思います。
(c)2020 川原礫/KADOKAWA/SAO-P Project
――『SAO』の物語は2022年の11月、来年からスタートしています。現実が小説の世界に追いついてきているわけですけど、Facebook社(現・Meta社)が「メタバース」って言い始めたり、これからVRの世界ってどのように発展していくのか。川原先生はどのようになっていくと思われていますか?
そうですね……。VR元年と言われたのがOculus Riftが発売された頃(2016年)で、一番VRというものに夢と希望が満ちていました。その後、ゲームがカジュアルな方向に進んでいて、スマートフォンのゲームはプレイしたいと思ってから実際にゲームが始まるまで最短3秒くらいです。ところがVRはPCを起動して、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着して、実際にその世界に入れるまで時間がかかるので、カジュアルさとは対極にあるものなんです。
――確かに今現在の主流であるスマートフォンのゲームとはVRは確かに対極にありますね。
そのハードルに釣り合うだけのリッチな、ものすごくプレミアムな体験が必要なんです。それが今のVRコンテンツに果たしてそこまでのプレミアムさ、楽しさが提供できているかというのは正直私もちょっと疑問なところで……。実はOculus Riftを開発したパルマー・ラッキー氏は、2014年にOculusをFacebook社に売却したんですが、2017年にFacebookを退社して一旦VRに見切りをつけてしまったんです。それは恐らく、今VRでやれることが貧弱すぎる、という理由だったんです。ハードウェアもコンテンツも、ユーザーが継続的に利用したくなるほどの質に達していない、と。実際に私も当時はいろいろな企業さんのVRデバイスとVRコンテンツを体験させていただいて実際に私も当時はいろいろな企業さんのVRデバイスとVRコンテンツを体験させていただいて、どれも凄く楽しかったんですが、ただ、その楽しさは果たして何ヶ月とか持続する楽しさかな? っていう。
――確かにVRのゲームは中毒性がないというか、凄い、とは思っても、やりこむか、といわれると難しいなと思いました。
一過性の興奮はものすごくあるので、遊園地のアトラクション的なもので、自宅で毎日やるものか? という疑問はけっこう感じました。おそらくMeta社のメタバースもそこに挑戦するんだと思うんです。毎日のゲームをする枠、時間に留まらず、生活の一部をメタバースに置き換えられるのでは、という。日常としてのVRに挑戦していくんだと思います。でもそれにはまだちょっと手軽さが足りない。あのHMDを何時間も装着していられる方はそうはいないのではないでしょうか。締め付けもありますし、目へのダメージもあります(笑)。
――分かります(笑)。40代とかになると老眼が…。あとバッテリーを付けるとより重たくなりますからね。
なので、やはりフルダイブのような、デバイスをつけてベッドに寝転がってスイッチを入れれば即ダイブできて、体の辛さはないというところまでいければ、もうゲームにとどまらずに今あるデジタル的なものすべてを変革できると思うんです。ただ、真の意味で脳に直接アクセスするフルダイブデバイスが、果たしてあと何年かかるか。これはイーロン・マスク氏がニューラリンクという会社で開発を進めているのですが、実際に人が実験するまで進んでいるという話をしていたんですが、おそらく、いくつかのドットが見えるというところまで行くのに数年、そして4K映像と12チャンネルくらいの音声が入力できるようになるまで、何十年かかるのかですよね。
――確かに現状のVRから『SAO』のフルダイブ技術への道筋はまだ見えないですよね。
SFマニアの映画『レディ・プレイヤー1』の原作者、アーネスト・クライン氏が、映画のプロモーションで日本に来られた時に対談させていただいたのですが、『レディ・プレイヤー1』はそこまでフルダイブじゃないんですけど、『SAO』的な真のフルダイブマシン、フルダイブ技術が開発されるまで何年かかるかという話になった時に、私は50年と予測したら、彼は「いや、もっと早い。30年だ」って。それでも30年かって(笑)。なので、できればあと10年くらいで、完成したらVRの未来にも相当希望を持てるとは思います。
(c)2020 川原礫/KADOKAWA/SAO-P Project
――ありがとうございます。かなり話が脱線してしまいましたが、最後に今回の劇場版をこれから観るという人に、こういうところに着眼して見てほしいというのがありましたらお願いいたします。
今回の劇場版は、頭を空っぽにしてひたすら作品に夢中になって欲しいし、そうなれる映画になっていると思います。なので、無心に楽しんで欲しいです。そして観に行かれる前の方に言えるとしたら、ちょっとテクニカルな話になっちゃうのですが、アニメの第1期から9年経ちましたが、映像と音響の進化がとにかく凄い。映像でいうとアニメーターさんが描く線の量も昔とは比べ物にならないくらい増えていますし、アニメを制作する時の解像度も上がっている。音響も当時は5.1チャンネルで作っていたと思うんですけど、今は12チャンネルですからね。これも音響監督の岩浪(美和)さんが魂を込めて音を作ってくださっているので、映像と音を100%味わって欲しいです。あとは自分が《アインクラッド》にダイブしたつもりで、アスナと一体化してハラハラ・ドキドキ・ワクワクして欲しいですね。
取材・文:林信行

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