首藤康之×山下リオ×小日向星一が語
る日本初上演『ダブリンキャロル』(
作:コナー・マクファーソン)〜1対
1の構図が続く展開に「頼りになるの
は自分と相手役だけ」

SNSから流れてきた『ダブリンキャロル』の情報(2021年12月3日~9日 東京・東演パラータ)。日本では『海をゆく者』『堰』などで知られるアイルランドの劇作家コナー・マクファーソンが『クリスマスキャロル』に想を得た戯曲だという。いや、それよりバレエ・ダンス界などで大劇場の空間を思うがままに支配してきた首藤康之が小劇場「東演パラータ」に出演、しかも家族を捨てて酒に溺れる中年男ジョンを演じるということに惹かれた。共演は女優として活動の幅を広げている山下リオ、デビューからさまざまなキャリアを積んでいる小日向星一。若き注目株たちだ。山下は癌を患った母の思いを伝えるために家族を捨てた父ジョンに会いにいく娘メアリー、小日向はジョンが働く葬儀屋でバイトをするマークを演じる。物語はジョンがマーク、メアリーと1対1で対峙する形で進んでいく。とあるクリスマス・イヴにさまざまな感情が渦巻く――。

――まずは戯曲を読まれた感想から伺えますか ?
首藤 コナー・マクファーソンの戯曲の日本初演、つまり初めて日本語に翻訳されるということで、翻訳家の常田さん、演出の荒井さん、もちろんプロデューサーなどスタッフさん、役者とで台本づくりのために語り合えたのはすごくいい時間でした。常田さんは翻訳されるときに、語尾だとかニュアンスを僕らに少し寄せてくださった。それも日本初演だからこそだし、なかなか経験できることじゃないですよね。非常に濃密な時間を過ごさせていただきました。物語は3パートに分かれていて、僕は1と3は星一さんと、2はリオさんと対峙するんです。
山下 首藤さんがおっしゃるように、台本の制作から参加させていただいたことはすごく楽しかったです。役者同士で時間をかけて役について話したり、物語に対する認識をすり合わせた時間はとてもありがたいものでした。そして言葉って本当にちょっとした響きの違いで、ニュアンスがここまで変わるんだという発見をすることができました。今回のように、場所が変わるわけでもなく、ひたすらセリフの積み重ねで伝える芝居は初めての経験です。お稽古での試行錯誤が始まったところですけど、役者という素材を、塩コショウで味わってくださいという気持ちです。
山下リオ
――塩コショウは名言です !
首藤 リオさんがおっしゃる通り。すべてのシーンとも登場するのは二人だけだから、頼れるのは向かい合う相手だけ。そういう意味では、人間力で勝負しなければいけないし、ごまかしが効かないからこそ、シンプルに塩コショウで、という表現はぴったりだと思います。
山下 そこを拾われるとは思いませんでした(苦笑)。
小日向 もう台本の1行1行をみんなで丁寧に考えながら本読みをしたんですよ。小さなことでも、このセリフこうじゃない?、いやこうだと思う、といった感じで意見が飛び交うときもあって、一丸となって真剣にこの作品をつくっているという気持ちになりました。それが立ち稽古になった瞬間、一気に作品が立体的になって、台本を読んでいただけでは得られない情報がたくさん生まれて、すごく楽しい稽古をしています。
首藤康之
――ところで首藤さんが演じるジョンはずいぶんしゃべりますね。
首藤 しゃべりますねぇ。最初どうするんだろう、この台詞量という感じで、初見は無理だろうと思いましたが意外に入るんですよね。でも台詞を覚えることが仕事ではないですから。リオさん演じるメアリー、星一さん演じるマークと1対1で対峙を重ねる中でどんなキャラクターや情景が浮かび上がってくるか楽しみですね。僕もここまで濃厚な会話劇は初めてなので、本当、お二人が頼りです。
――葬儀屋のバイト、マークとはどういう関係だと考えていらっしゃいますか ?
首藤 ずいぶん長いこと会っていない息子と重ね合わせているような存在でもあるかもしれないけれど、先ずは頼れる相棒ですよね。
小日向 物語の中ではジョンの話を聞いている時間が長いんです。マークはやることがあるから早く葬儀屋から帰りたいんだけど、話は面白いから聞いていたい気持ちもある。ジョンはジョンでいてほしい、帰らせたくない。そのやりとり、探り合いがすごく面白いですね。
小日向星一
――ト書きに、おじさんたちの生きざまに、将来の自分を重ねているみたいなことが書かれています。
小日向 マークはマークで彼女のこと、将来のことなど悩んでいると思うんです。自分だってアル中になっちゃう可能性があるし、どうなってしまうのかという漠然とした心配を持っているんでしょうね。だから仕事仲間の話に興味があるんじゃないかと思います。
――突然、素敵な彼女と別れようとするのも、将来への不安からですか ?
小日向 そういう部分もきっとあるでしょう。キムという彼女は、もともと文房具屋で働いていてスチュワーデスに転職するという華々しい道を歩んでいる。それに対して高校を出てから3年間ずっとふらふらしていることに劣等感があるだろうし、一緒にいると自分がダメに思えたり、彼女と付き合っていてもダラダラしてしまう自分が浮かんでしまったり。そもそも彼女との未来を考える真剣度もまだまだ足りなかったりするかもしれません。
――首藤さん演じるジョンはいかがですか ?
小日向 本当にいろいろな感情が伝わってきます。演出の荒井さん、ダイアローグコーチの大西多摩恵さんが「こうやってみたら」と提案されると、すぐにその場の雰囲気が変わるし、芝居も違うものになる。ご一緒させていただいてすごく勉強になります。
首藤 僕も星一さんと芝居をしていて、すごく楽しいですよ。それに役者としては星一さんの方が先輩なんで、頼りきっています
一同 (笑い)
――山下さん演じるメアリーはどんな女性として立ち上がってきそうですか。
山下 ジョンに対して愛していると言いつつ、憎んでいると言ったり、まだまだ彼女の中で大人と子ども、過去と未来、対極にある感情も含め、ずっとその間を行き来してる感じでしょうか。だからケンカにもなりそうになるんですけど、そこで踏み止まるのは、とにかく父と病気の母を会わせたいという目的があるから。きっかけは母が抱いた思いであれ、ずっと会っていなかった父親とちゃんと向き合おうとした。二人とも過去が掘り起こされて、感情がうまく消化できないのかもしれないけれど、やっと入口が開いた。そこに希望が生まれるように演じられたらと思います。
――翻訳では「あなた」と話しかけるんですけど、ジョンとの距離感は少し遠いのかな、お父さんとしてなかなか認められない部分もありそうですね。
山下 やっぱり最後に「パパ」って声をかける場面に集約されているというか。その勇気が湧かないから「あなた」としか言えないんだと思います。
首藤 そうだと思う、「パパ」って言いたくてきたぐらいの感じじゃないかな。10年も会っていなくて、こんなキレイな女性になっていたら、ジョンもパパと呼ばれたら泣いちゃうよね。
山下 でも家族だからこそ言えないこともありますよね。他人ならもう少しうまくいきそうなのに、家族になるとうまくいかないってなんだろうって。だからこそ稽古でしっかりと「パパ」と言えるように気持ちをつくっていかなければいけませんね。
――この物語ではジョンだけでなく、マークもメアリーも話をしながらお酒を酌み交わす瞬間が何度もあります。アイルランドだからウイスキーでしょうけど、その一杯にいろいろな思いが見えてきそうです。
首藤 楽しい一杯もあるし、つらい一杯もある。僕もジョンほど飲み過ぎることはないですけど、昔はけっこう飲みました。それこそ怖い夢を見て目覚めるとか、お酒を飲んで紛らわすとか、言えないけど、いっぱいありますよ。
――首藤さんがお酒で紛らわせているなんて想像できません。
首藤 お酒って紛らわせるためのものでしょ ! たしかにかつては「ザッツ・バレエ!」みたいな感じだったから、節制しているように見えたかもしれないけど、それなりに飲みましたよ。お酒って、ちょっと人と話したいときに必要なものでしょ。今もここにあればもっと言葉が出てくると思うけど(笑)。
一同 あはははは !
小日向 マークは本当はとても優しい人で、彼女に別れ話を持ちかけた罪悪感や後悔があると思うんです。なぜこんなことを言っちゃったんだろうとか、彼女をひどい状態にさせてしまった負い目などを紛らわすために飲むんでしょうね。でも結局は別れて帰ってきたわけじゃないので、別れられなかった自分の情けなさもある。やけ酒、忘れたいお酒じゃないかな。こういう時期じゃなければ、首藤さんとも一緒に飲みに行きたいんですけどね。
小日向星一
――実践ですね(笑)。
首藤 星一さんどうなるんだろう? 見てみたいですね。
小日向 僕はあんまり変わらないんです。
首藤 本当 ? わからないよー。
山下 お酒を飲んでいる姿が想像つかないですよね。
首藤 そうなんだよね。
小日向 お酒は弱そうってよく言われるんですけど、意外に飲めます(笑)。
首藤 リオさんは?
山下 私はよくない飲み方をたくさんしてました(笑)。コロナになってからは飲みにも出ませんけど、楽しくても悲しくても飲んじゃう方なんです。昔はいろいろ失敗もしましたけど、それで勉強もさせていただきました。20代前半のとき、すべてのお誘いを断らないキャンペーンをしていたんです。
一同 あはははは !!!! 
山下 それでいろいろな職種の方とお話できたのは良かったですけど、だんだん疲れちゃうので今はやめました。
――ジョンと酌み交わすお酒はどうですか ?
山下 メアリーはさほどお酒が好きでもないと思うんですけど、それよりも、飲んでいる父を気持ち良くは見られないでしょうね。過去の思いが湧き上がってきてしまうというか。だからあまり心地のいいお酒の酌み交わしではないです。
首藤 実際、二人の時間はお互いにそんなに飲まないしね。でもメアリーが帰った後にジョンはすごく飲む。それでポジティブになっていけばいいんですよね、自分で何かを見つけられるような。
首藤康之
――最後に、本番までどう頑張っていきたいか教えてください。
小日向 東演パラータという劇場は客席との距離も近いでしょうから、お客様も巻き込んで、空間が一つになるようなお芝居にできたら素敵だろうなと思います。観てくださった方が前向きな気持ちになる、明日も頑張ってみようと思えるような作品になるはずなので、劇場まで足を運んでよかったと思っていただけるように頑張ります。
山下 私も小さな空間は初めてですが、だからこそ表情だけで見せられるところがあるかもしれない。息づかいも聞こえる、ジョンとの心の距離感や微細な心の振動まで伝わると思うんです。だからこそ自分に嘘がない状態にして、本番に臨みたい。12月になれば帰り道はイルミネーションが輝いているでしょう。ご覧になった方が「家族に会いたい」と思ってくださるような、このお芝居が温かい光のようになればいいですね。
首藤 温かい光って素敵な言葉だと思う。最終的にはどんな形であれ、心の奥底では誰もが幸せになりたいと思っている。このお芝居に対しても、いろいろな解釈があるでしょうが、最終的には小さな光を見いだしてほしいです。僕個人としてはとにかく戯曲を読み込んで、マクファーソンの描いたジョンという人物の言葉を自分のもの、自分から発してるものにして、丁寧に、時間がある限り追求して舞台に上がっていきたいと思います。
取材・文:いまいこういち

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