板垣恭一×桑原まこが生み出すオリジ
ナルミュージカル『GREY』いよいよ始
動〜稽古初日レポート

2021年12月16日(木)に東京・俳優座劇場にて開幕予定のミュージカル『GREY』。本作はconSept Musical Dramシリーズ第6弾であり、ミュージカル『いつか one fine day』(2019年初演、2021年再演)で注目を集めた板垣恭一(脚本・作詞・演出)と桑原まこ(作曲・音楽監督)による、初の書き下ろしオリジナル新作ミュージカルだ。出演は、矢田悠祐高橋由美子、佐藤彩香、竹内將人、梅田彩佳、遠山裕介、羽場裕一。
2021年11月某日、都内で行われた稽古初日を取材することができた。キャスト・スタッフの顔合わせに始まり、通しの本読み、そして演出家からのフィードバックなど、始まったばかりの創作過程の一部始終を見た。初日ならではの緊張感溢れる現場の様子をレポートする。

■あらすじ
リアリティ番組に出演していた新人歌手が自殺を図った。なぜそれは起きたのかの顛末を、エモーショナルな楽曲に乗せて送る群像ミュージカル。藍生(あおい/矢田悠祐)は小説家志望で構成作家。欠員の出た番組に、学生時代のバンド仲間 shiro(しろ/佐藤彩香)を推薦する。同じくバンド仲間だったカメラマン金銀(きらり/竹内將人)はそんな展開を喜びつつも心配げ。番組プロデューサー橙(ともる/遠山裕介)や、局アナの茜(アカネ/梅田彩佳)に可愛がられ、shiroはたちまち人気者になる。しかし番組スポンサーの一押しタレントより目立ち過ぎるという問題が起きる。一方、テレビ局の報道局員、紫(ゆかり/高橋由美子)はshiroに別の思いを持っていた。彼女は三年前に交通事故で亡くした娘みどりと似ているのだ。紫の別れた夫で、番組を作った広告代理店の局担当、黒岩(羽場裕一)は番組存続のためshiroの人気を下げる命令を現場に下す。皮肉なことにその責任が藍生に回って来ることで、物語は動き出す。
稽古場は感染症対策のため最少人数に絞られており、非常にコンパクト。キャスト7名はコの字型の席に座り、その向かいに演出の板垣をはじめとするスタッフ陣が横一列に並んでいた。
主催のconSeptのプロデューサー・宋元燮が仕切り、早速顔合わせが始まった。トップバッターは主演の矢田悠祐。「観た人に家に持って帰って考えてもらえるような作品になったらいいなと思います」と意気込む。本作のヒロインにオーディションで大抜擢されたのは、期待の新星 佐藤彩香。緊張しつつも元気に挨拶をする姿が微笑ましい。ベテランの羽場裕一は「ミュージカル初心者です」とかしこまりながら挨拶し、その場の空気を和ませていた。

挨拶の最後を締めくくるのは、演出家の板垣恭一だ。コロナ禍で活動できない期間、板垣は「演劇は不要不急なのか」という問いについて考えてきたそうだ。その結果「これは論点がズレている。だって演劇は平時じゃないとできないですから」としつつも、「演劇は必要なもの」だと結論づけた。理由は「演劇をはじめ文化的なものは、人間とは何かを表現・考察するものだから」と言う。続けて、これから始まる作品作りに向けて「僕はおもしろければOKな人間です。おもしろいとは、お客様の心を動かすということ。全員でシュートを打ちたいと思っています。失点は恐れません。たとえ5点失っても、10点取ればいいという気持ちでやっていきます」と、その場にいるカンパニー一同に穏やかに語りかけた。
少々の休憩を挟み、約2時間の本読みが始まった。稽古場にいる全員の目がそれぞれ手元の台本へと向けられる。稽古初日ということで、キャストが揃って台本を通しで読むのはこれが本当に初めて。新たな作品が生まれる瞬間だ。物語は我々が生きている現代日本を舞台に、作曲・音楽監督を務める桑原まこの伴奏と共に展開していく。
本読みの序盤から、shiro役の佐藤の伸びやかで芯のある歌声が稽古場に響く。彼女の歌声に合わせて周りのキャストたちは肩を揺らし、板垣はまるでピアノの鍵盤を弾くように指先を軽快に動かす。

物語の中心に立つのは、藍生役の矢田だ。後半のソロナンバーや、金銀を演じる竹内との激しいデュエットナンバーでは、突如立ち上がって熱の込もった歌唱を披露。繊細な芝居が求められる難しい役どころに体当たりで臨んでいた。

遠山が演じる番組プロデューサー・橙は、ややオーバー気味なリアクションが楽しい愛嬌のある役どころ。梅田が演じる野心家の局アナ・茜との掛け合いもテンポよく進んでいった。
板垣が”大人チーム”と呼んでいたのは、羽場が演じる広告代理店の黒岩と、高橋が演じる報道局員の紫。黒岩と紫は元夫婦という間柄の設定だ。二人の会話が続くシーンでは徐々に芝居に熱が入り、時折、ペンを持つ高橋の手に力が込もる様子も伺えた。

作品全体を包み込むのは、心の琴線に触れるエモーショナルな音楽たち。本番でのキーボード、チェロ、ギター、ドラムからなるバンド演奏にも期待が膨らむ。タイトルと同名の劇中歌「GREY」では、一人ひとり異なる想いを持つ登場人物たちの声が重なり合って一つとなり、力強くも美しいハーモニーが生まれていた。
SNS、炎上、言葉の暴力、開示請求、リアリティ番組、裁判訴訟、自殺・・・・・・劇中では、日本に暮らす我々が日々のニュースで目にするようなキーワードが多く散りばめられている。板垣の言う“自画像”を突きつけられたと同時に、今の日本で本作を上演する意義を感じた。
本読みを終えると、演出家からのフィードバックの時間が設けられた。
板垣はまず「もうちょっと説明しないとな」と一言。本作はSNSでの誹謗中傷というテーマを扱っていることもあり、始めに犯罪者の心理について触れた。板垣は犯罪者のドキュメンタリー映画などの資料で得た情報を元に、「犯罪者のほとんどは元々は被害者でもある」「自身が犯した罪を理解していても、それがどれ程ひどいことなのかを理解するのは非常に難しく、時間がかかる」と説明する。演出家の言葉にしばらくじっと耳を傾けていたキャスト陣だったが、登場人物の背景や解釈の話に移ると相互に意見が出始め、自然とディスカッションのようになっていった。
ここで紹介してきたのは、作品の創作過程のほんの一片に過ぎない。本番に向けて稽古が進むにつれ、幾度となく話し合いが行われ、少しずつ、そして確実に作品の深さが増していくのだろう。オリジナル作品故に、セリフや楽曲が大きく変わることもあるかもしれない。はたしてどんな作品が劇場で産声をあげるのか、幕開けのときを楽しみに待ちたい。
取材・文・写真=松村 蘭(らんねえ)

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