高泉淳子に聞く~レストランが舞台の
『ア・ラ・カルト』シリーズ 今年は
『僕のフレンチ』を有観客配信

1989年の初演以来、毎年クリスマスの時期に上演されてきた『ア・ラ・カルト』シリーズ。レストランを舞台にしたショートショートのお芝居と生演奏の音楽で綴る音楽劇で、ファンの間では12月は『ア・ラ・カルト』の季節、と言われるほど冬の風物詩として多くの人に愛されてきた作品だ。
しかし昨年(2020年)来のコロナ禍で、舞台が上演されること、そして舞台を鑑賞することがこれまでのようにはいかなくなってしまい、『ア・ラ・カルト』の季節を楽しみに待つ気持ちには、「今年の『ア・ラ・カルト』は上演されるだろうか・観に行けるだろうか」という不安も加わることになってしまった。それでも昨年は、無観客配信という形ではあったが『僕のフレンチ』という、ライブショー色の濃いスタイルでの上演が行われ、今年は有観客配信で『僕のフレンチ』が上演されることが決定した。
初演から30年以上、毎年『ア・ラ・カルト』シリーズの公演が行われてきたことがどれほど奇跡的なことであるかを、コロナ禍で思い知らされた。しかし奇跡だけでは、これだけの長きに渡って上演されることはなかっただろう。初演以来、今作の台本を手掛け、自ら出演もしてきた高泉淳子へのインタビューから、『ア・ラ・カルト』シリーズがこれまで続いてきた理由、そしてこれからも続いていくであろう理由が見えてきた。

■『ア・ラ・カルト』を「やらない」という選択が私の中にはない
――今年の『ア・ラ・カルト』は、昨年同様『僕のフレンチ』という形、そして昨年は無観客でしたが、今年は会場にお客様を入れての開催となります。
『ア・ラ・カルト』が2018年に30周年を迎えて、さてこれから先このメンバーでどういうことができるか、と考えたときに、私の中での選択は2019年からお世話になっているeplus LIVING ROOM CAFE & DININGのような場所だったんですね。劇場には劇場の良さ、演劇には演劇の良さがもちろんあって、でもそれとは違う、お食事とお酒と一緒に音楽も楽しめる場所でのライブに近い『僕のフレンチ』のスタイルは、今の自分に合っているんだと思います。
――eplus LIVING ROOM CAFE & DININGでの開催は2019年、2020年に続いて3回目となります。初回の2019年は『ア・ラ・カルト』を開催する劇場が取れなくて、場所を探してこちらの会場になったとうかがいました。会場との新たな出会いも、ある意味『ア・ラ・カルト』にとって大きな転換のきっかけになったんですね。
これは私の中で芝居を始める前からずっと持っている思いなんですが、何かを「やりたい」と思ったときは、自分の選択を信じようと思っています。『ア・ラ・カルト』も「やらない」という選択が私の中になくて、それはきっとこれからもそうなんでしょうね。長くやってきましたからいろいろなことがありましたけど、「やらなければよかったな」なんて思ったことは一度もなかったです。1989年、平成元年から『ア・ラ・カルト』がスタートしました。激動の年の始まりでしたね。バブルの崩壊、世界中を揺るがすような大きな事件や、大震災もありました。昨年は新型コロナ感染が世界中に広まり、大変なことになってしまった。その年ごとに「12月にこの公演をやっていいんだろうか」と毎回自分に問いかけながら、ここまでやって来ました。
自分の選択を信じて「やりたい」と思っていれば、必ずやれる方向に行くと思っています。30周年が終わって次、となったときに劇場が取れなくて、さてどうしたものかと思ったんですね。そしたら新たな会場としてeplus LIVING ROOM CAFE & DININGが浮上してきて。会場の下見に初めて行ったのが、ちょうどシアターコクーンで上演されていた『唐版 風の又三郎』(2019年2~3月)を見た後だったんです。観劇後に楽屋で演出の金守珍さんとか、出演していた風間杜夫さんとかに会って「俺たちはやっていかなきゃね!」なんて肩叩かれて、この人たちは凄いな!とパワーをもらった後で下見に行ったんです。「素敵な会場だな。また新しいスタイルでやりたい!」と入った瞬間そう思いました。やりたい方向で考えていると、出会いがあって、そこに導いてくれるのですね。そのときに改めて思いました​。
――昨年の『僕のフレンチ』は無観客配信ということで、会場で生で見る臨場感とは全く違うものではありましたが、自宅など自分の好きな場所で好きなときに見られるという形が、コロナ禍の生活には合っているのではと感じました。
年末年始に家族や友人たちと一緒にアーカイブを見ることができましたし、私の母は今年97歳なんですが、配信のおかげで全部のステージを見てもらうことができました。母と一緒に並んでアーカイブを見ました。97歳の母と一緒に見るなんて幸せな時間でした。
地方公演は大阪だけでしたのでね、行ったことのない地域の人たちや、様々な事情で最近『ア・ラ・カルト』を見ていなかったという人たちなど、いろいろな方々に見てもらえたことは嬉しかったですね。
――昨年無観客だった分、今年はお客さんが入ったら雰囲気がどう変わるのか、楽しみですね。
私は子どもの頃から『エド・サリヴァン・ショー』『アンディ・ウィリアムス・ショー』のようなショースタイルのものが大好きでした。劇場には劇場の在り方があって、それは虚構感を大事にするところだったりすると思うんです。『ア・ラ・カルト』はお芝居です。劇場ならではの演出ができる作品です。『僕のフレンチ』の場合はもっとライブ感が大事なんじゃないか、多分『僕のフレンチ』を劇場でやってもあまり面白くないんじゃないかな、という気がしているんです。しっかり椅子に座ってちょっと緊張して芝居をじっと観る、というのではなくて、店のスタッフや他のお客さんの声とか食器の音とか、いろいろな音がガチャガチャしている中での面白さっていうんでしょうか、ギャルソンが動き回っている姿が見えたり、お食事や飲み物が運ばれてきたり、そういった臨場感があるからこそ、私が演じるところの高橋(『ア・ラ・カルト』シリーズの名物キャラクターで、期間限定レストラン『僕のフレンチ』のオーナー)みたいなキャラクターが生きてくるところもあるのかな、なんて思いますね。

■『きのう何食べた?』の脚本家との嬉しい出会いとは?
――お話しをうかがっていると、『ア・ラ・カルト』が年月を重ねてきたからこそ、時代の流れや状況に柔軟に対応していけるタフさを持った作品であることが伝わってきます。
私はもう一つのライフワークとして「キネマティック・トーキング・ルーム」という、映画と音楽をテーマにしたトーク&ライブセッションを、娯楽映画研究家の佐藤利明さんと一緒にやっています。毎回、私の創作の元になってる映画や音楽がいっぱい登場するんですよ。今年の10月に約2年ぶりに開催したとき、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの話が出てきたんですが、私がまだ18歳くらいのときに、これから自分が何者になるのかわからないという不安がある中で、『艦隊を追って』(1936年)などの映画でアステア&ロジャースが歌い踊っている姿を見ると、ものすごく幸せな気分になれたことは忘れられないです。私にとってあの頃の宝物みたいな作品ですし、その輝きは時代を経ても少しも変わらないですね。
――「キネマティック・トーキング・ルーム」で、最近テレビで放映されていた映画『男はつらいよ』シリーズ(山田洋次監督・渥美清主演で1969年~1995年に全48作品が公開された)をお母様と一緒にご覧になったというお話しもされていましたね。時代を超えて誰もが楽しめる作品という点では『ア・ラ・カルト』にも通じると思います。何回見ても同じところで笑っちゃうし泣いちゃうし、というところは長年積み重ねてきているシリーズものならではの良さでもありますよね。
そう言ってもらえると嬉しいです。『ア・ラ・カルト』は、自分でもよく書いてきたなと思います。シリーズものだからこその大変さはありますが、やはりこれまでの積み重ねがあるからこその面白さというのは出して行けたらいいですね。いつもの登場人物たちが「ああまたやってる」というお決まりのパターンで、安心して見られるというんですかね。自分のお気に入りのお店に行くたびに「ああ、ここは変わらないな」と確認してホッとするような、『ア・ラ・カルト』がそんな場所の一つであって欲しいな、という気はします。
――今作のファンにとっては、毎年12月は『ア・ラ・カルト』があるから楽しみだな、と思えることは幸せなことですし、安心感にも繋がっていると思います。
私も出演させてもらったドラマ『きのう何食べた?』は今年11月に映画版も公開されましたが、脚本を担当されている安達奈緒子さんは、中学生のときから遊◉機械/全自動シアターの芝居を見てくださっていたそうです。それで私のようになりたいと思ってくれたらしくて早稲田大学に入って演劇研究会に入り、その後一旦演劇から離れたけれども、諦めきれずに脚本家になったということをご本人から聞いたときはびっくりしました。私も『きのう何食べた?』のお話しをいただいたときに、脚本を読んで「なんか自分の書く言葉のリズムと似てるな」と思ったんです。あと、誰かと一緒に食べることが幸せなんだっていう世界観とかにもシンパシーを感じて。そうしたら『ア・ラ・カルト』を見てくださっていたというから、「ああ、こういう出会いっていうのもあるんだな」って嬉しかったですね。30年以上やってきていろんな人が見てくれて、中にはそうやって脚本家になった人もいるんだな、っていうことはすごく力をもらえますね。
ギャルソン

■食べる喜びを描いた、身近でささやかな話を思う存分楽しんで欲しい
――誰かと一緒に食事をするということが、このコロナ禍でなかなか思うようにできませんでしたが、ようやく緊急事態宣言が解除されて、人と会って一緒に食べることが少しずつできるようになってきました。
本当に食べることは生きることっていうか、誰かと一緒に食べることの喜び、それが家族でなくても、たとえ血の繋がりとか関係性がなくても、たまたまその場で一緒になった人と「乾杯しましょう」っていうことがあるかもしれない。例えば子ども食堂で、知らない子どもたち同士が集まって、そのあとどういうところに帰っていくかはお互いわからないけれども、そのときだけでも本当に楽しそうによくしゃべってよく食べている、っていうことがあるんですね。お店もそういうものだと思うんですよ。その人がどこから来たとか、何があったとか、どういう気持ちでこの店に来たとかわからないけれども、そういうことは関係なく「ここに食べに来た」っていう共通項があって、お店に入ってきたらみんな等しく「いらっしゃいませ」と迎えられる。そういう点ではレストランと劇場は同じだなと思いますね。
――今回は『ア・ラ・カルト』シリーズとしては久しぶりにお客さんが入りますが、同時に配信も行うというハイブリッド方式です。
今年の夏に『ジャズ風味・恋する夏のレストラン』という作品をハイブリッドでやったときに、配信を見ていた方から「高泉さんはお客さんが目の前にいることにとても喜んでた」と言われてドキッとしたんです。その方も決して否定的な意味でそれをおっしゃったわけではなかったんですが、会場にいらしたお客さんと、配信を見てくださるお客さんと両方を意識してやらなければならないということに改めて気づかされました​。
――今回の日替わりゲストの方は、昨年と同じメンバー(春風亭昇太ダイアモンド☆ユカイレ・ロマネスクTOBI、ROLLY)ですね。
同じメンバーなので、昨年やった男女のストーリーの続き物が書けるんですよね。あれから1年経って、コロナ禍でなかなか思うように会えなかった2人がどうなったか、というところをちょっと楽しんで書いてみたいなと思っています。
日替わりゲスト:春風亭昇太(23日)、ROLLY(24日)、ダイアモンド☆ユカイ(25日)、レ・ロマネスクTOBI(26日)
――では、最後にお客様へのメッセージをお願いします。
この作品は「食べる」ことをきっかけに、日常のほんの小さな事が幸せの種であり、喜びとなることを描いている、身近でささやかなお話ですが、ひとりで見ていただいても、誰かと見ていただいても楽しめる、そして何回でも見ていただけるようなものを作りたいなと思っています。今年も皆さんいろいろ大変だったと思います。思う存分楽しんでいただけるようなものをお届けしたいですね。
ミュージシャンたち
取材・文=久田絢子

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