「sad girl autumn」を紐解くーーア
デル、テイラー、ミツキ、サマー・ウ
ォーカーが赤裸々な心情を綴ったパン
デミック明けの秋

(Adele)、
Taylor Swift)、
(Mitski)、
( Summer Walker)たちの連続リリースにより、「sad girl autumn=サッド・ガール・オータム」というフレーズが話題になっている。
さらに11月17日に、テイラーが『All Too Well (Sad Girl Autumn Version)』をリリースしたことで、さらにこのトレンドに拍車をかけた。テイラーの曲の中でも「最も悲しい曲」として知られる『All Too Well』をさらに繊細でエモーショナルなアレンジで仕上げたこのリレコーディングは、
The National)の
の悲しげなピアノが添えられ、さらにファンたちを泣かせにきている。

「sad girl autumn」とは?

夏が終わり、気温も下がり、アメリカでは「パンプキンスパイスラテの季節だ」と騒がれる季節になった。パーティーやライブなどのアクティブな外出生活が復活したからこそ、コロナ禍の外出自粛中では流れるように去って行ってしまった「季節」自体を新鮮に体感できる。そんな中で「泣ける曲」に長けていることで知られる女性アーティストたちが立て続けにノスタルジーや切なさ、内省や後悔などをテーマにした楽曲をリリースしたことで、すでに多くの人が感傷的になっている状況に「sad girl autumn」という名がつけられたのだ。エモーショナルでメランコリックな曲が秋に流行することは目新しいことではないが、いわゆる「コロナパンデミック明け」初の秋において、多くの人が久々にたくさんの「感情」に触れている時期にこのような曲がリリースされることが重要な要素になっているのだ。

ミーガン・ジー・スタリオン(Megan Thee Stallion)が2019年にリリースしたヒット曲「hot girl summer」 をもじった、「hot vax summer」というフレーズが今年の春に話題になった。「みんながワクチンを摂取し終え、コロナが落ち着いたら、思い切りパーティーしてイケてる理想の夏を満喫できる!」といった具合だ。しかし、デルタ株の蔓延により、当初誰もが楽しみにしていた「hot vax summer」は実現しなかった。クラブやライブハウスの中でもマスクは必須になっているし、何よりも1年間半外出しなかった人々たちのコミュニケーション能力は衰え、たくさんのパーティーやイベントに出かけるぞ!という気概を持っていた人たちもそれほど外出しなかった、ということはニューヨーク・タイムズ(NYT)をはじめとした大手媒体で多く取り上げられている。その失われた「hot vax summer」の空白を埋めるように、悲しげな曲を聴きながら部屋にこもってじっと感傷的になる人に、性別も年齢も関係ない。

「hot vax summer」や「Sad girl autumn」は「概念」であり、みんなのものなのだ。スカーフを首に巻き、舞い落ちる枯葉を眺め、まるでドラマチックなロマンス映画の主人公になったような気分でアデルのアルバムを聴き、過去の恋愛を懐古することに一種の「楽しみ」を見出すのも、自分の中にある複雑な感情や思い出を処理するために重要な作業だ。

​​テイラーは、ファンに思い出の場所への旅を呼びかけ、独特の心の痛みを再確認させてくれる。一方、アデルは、離婚や、元夫サイモン・コネッキとの間に生まれた9歳の息子アンジェロに与えた傷、そして幸せへの道を見つけることをテーマにアルバムを制作した。2021年11月19日(金)に発売される『30』はアデルが “土星帰り “と称し、向き合わなければならなかった複雑な事情を凝縮したものとなっている。

ガーディアン誌で”失恋の代弁者”と評されたアデルは、今、ファンに溜め込んだ感情を解放して、悲しみを思い切り味わってほしいと呼びかけている。つまり、ポップミュージック界の2大巨頭が、”すべてを吐き出す理由”を我々にたくさん与えてくれているのです。」

Z世代と感情的に共鳴する「sad girl autumn」

Z世代らしい価値観とサウンドで知られるビー・ミラー(Bea Miller)のヒット曲「FEEL SOMETHING」で繰り返し歌われてるように、コロナ中の退屈な生活で「何かを感じる」ためにクレイジーな行動を取ったり、突発的に辛い食べ物を食べたりなどが一時的に流行った。感情を抑圧することでしかコーピングできなかったトラウマの強い一年を経た今、アデルやテイラーなど、エモーショナルな表現が個性であるアーティストたちが続々とリリースを発表することで、ちょうど世間とのムードと一致している。

参照:https://www.buzzfeed.com/lanahuh/just-to-feel-something-tweets-uk

また、いわゆる「Z世代TikTok」で定番のフレーズになっている「Main character syndrome(主人公シンドローム)」もこの「sad girl autumn」の飛躍に加担している。映画や本、または音楽などを通して、他の誰かのストーリーを鮮明に描いた作品を聴き込むことで、まるで映画の主人公になったような気分になりたい、といったものだ。自分の人生で大した出来事が起きていなかったとしても、何かしらのドラマチックな展開に期待したい、または直接的には曲の世界観に共感できなかったとしても共感したつもりになりたい、そんな動機でダウナーな曲を聴いている人も多い。
参照:

サマー・ウォーカーが繰り返す恋愛、『
over it』から『Still Over It』

サマー・ウォーカーは恋愛面で成長しないギャル、R&B好き、そして黒人コミュニティの間で常に問題児として扱われている。それでも、若者たちの友達グループのの中に一人はいる、しょうもないことばかりしているけど憎めないギャルとして、その音楽は広く愛されている。
(Bryson Tiller)や
(Drake)が”toxic masculinity kings”として、有毒な男性性の象徴のように(憎まれつつも)愛されている中で、サマーはまさに彼らのような男性に精神的に絶望している女性性を常に描いている。アルバムのタイトルの通り、前作『over it(もううんざり)』から何も変わっていないから『still over it(まだうんざり)』になっていて、その「何度も同じ失敗を繰り返すダメな恋愛」に共感する人たちによってアルバムはビルボード200にて1位を獲得した。
サマー・ウォーカーは、セカンド・アルバムについてApple Musicに寄せたメッセージの中で、次のように述べている。
「この機会に、私の失敗から学んでほしい。本当の愛は、勘繰る必要なんてない。愛とは、行動で示されるもの。あなたのために行動してくれない人のために言い訳をするのはやめましょう。危険信号を無視してはいけません。そして、他にいいところがないからといって、その場所に留まらなければならないと思わないで。あなたにはできるし、きっとそうするでしょう。あなたも、あなたの家族もそんな目に遭うべきじゃない。」
引用:
このようにアルバムの説明文章でも女性をエンパワーするような内容を詰め込んでいたり、実体験から来る「教訓」をメッセージとして発信している。カーディ・B(Cardi B)、アリ・レノックス( Ari Lennox)、SZA(シザ)といったパワフルな女性スターたちを客演で盛り込み、まるでドレイクやカニエ・ウェスト(Kanye Wes)に対するアンチテーゼのように、女性の連帯をテーマとして掲げている。世間に理解されない恋愛をする「拗らせ女性たち」というキャラクターで知られる彼女たちだが、その心のうちはとても純粋で繊細で、脆いものであることをこのアルバムではひしひしと伝わる。
「一つ壁を選んで(寄りかかって)サマーのアルバムを聴きながら滑り落ちる」こともミームになるほど、一人で聴いて感傷的になってその寂しさに浸るという「体験」をサマーはアルバムを通して提供しているのだ。

someone said have we picked a wall to slide down yet for Summer Walker’s album
y’all are crazy
— SAMARIA J. (@samariajdavis_)
※『Still Over It』のリリースの際に行われた、Ari Lennoxとのインタビューは非常に面白いので必見。

まさに“sad girl autumn”なテイラー・スウィフトの『RED』

テイラーは10年前の自分の若さを抱きしめるように、元恋人に対する憎しみや悲しさを若さとして笑い流すのではなく、真剣に受け止め、当時の自分の感情をしっかりと「大切なもの」として扱っている。20歳のテイラーと29歳のジェイクの年齢差やテイラーの若さを、なぜ当時は「大人の女性」として扱ったのだろうか、年上の男性が年下の女性を大人のように扱いつつも、その若さや純粋さに漬け込んで搾取している「ありがち」な構図に多くの人たちが共感し、SNSで議論を巻き起こした。

10年前に共感できる曲として聴いていたファンがテイラーとともに成長し、当時の自分に愛を向けたり、今の自分に至るまでのストーリーを振り返るという大きなムーブメントが起きているし、冗談まじりでありつつも、ジェイクに対する憎悪も多く向けられている。

参照:https://www.washingtonpost.com/arts-entertainment/2021/11/12/taylor-swift-all-too-well-ten-minutes/

『Red』はオリジナル版のリリース当初から、「秋」をテーマとして強く意識したアルバムだった。特にリード曲「All Too Well」ではジェイクとテイラーのデート姿を移したパパラッチ写真で一躍有名になった「スカーフ」が歌詞の中で中心的モチーフになっていたり、タイトル曲「Red」でも「秋の落ち葉」が印象的なフレーズとして用いられている。このようなことから「sad girl autumn」というトレンドフレーズはまるでテイラーのためにつくられたかのようにぴったりで、その時期を決して逃さず、ミームさえも曲のタイトルにしてしまうその度胸は圧巻だ。

同世代の人々に向けて、アデルが描く『
30』

出産や離婚を経て、人間性にさらに深みの増したアデルは、6年ぶりのシングル「Easy On Me」で世界中の期待の的になった。「アデルのファン」とまでは公言しなくとも、彼女の音楽を知らない人はほとんどいないだろう。彼女ほどに繊細な表現をパワフルに歌い上げる人は少ない。「TikTok向けに曲を作りたくない」「若者じゃない人に作りたい」とインタビューで話していることも話題になっており、6年ぶりにリリースされたアルバム『30』では、失恋や離婚、子育てや大人としての孤独など、自分と同じような経験をしてきて、セラピーに通っているような「30歳、40歳」のためのものだとインタビューではっきりと話している。特にエモーショナルな「My Little Love」では3歳の息子との赤裸々な会話やアデルが泣きながら録音したボイスメモなどが曲中に用いられており、アデルのパーソナルな生活やリアルな苦しみが描かれている。
参照:
「年取っている」わけじゃないけど、「若い」わけでもない人向けに曲を作っているアデルやシルクソニック(Silk Sonic)に感謝する、というツイートもある。

Silk Sonic and Adele definitely made music for MY generation! The not too old and definitely not too young crowd
— Kai Etienne Shillingford (@Kai__Guy)

クィアコミュニティに響くMitskiの声

Mitskiの「手に届かない」ものを描写する際のもどかしさや焦燥感は、唯一無二だ。彼女の曲の歌詞のほとんどは、抑圧された感情と隠されたロマンスというテーマが一貫している。直接的に自身のセクシュアリティに公言したことがないのにもかかわらず、LGBTQ+コミュニティの「ゲイアコン」的な存在になっているのは、「Shame」「Yearning」等の曲で代表される​「羞恥心や憧れ」は、クィアなリスナーたちが社会で生きていく上で毎日密かに感じているの感情を表現しているからだと考えられており、彼女はアジア系アメリカ人として、白人中心社会で感じる疎外感、そして恋愛面での孤独感について歌っているが、これが「アウトサイダー」であるクィアコミュニティにも強く響く内容になっている。
参照:
アルバム『Laurel Hell』を2022年2月にリリースするとの発表とともに、10月にリリースされた「Working for the Knife」と合わせて、新しいシングルである「The Only Heartbreaker」は注目を集めている。2年間の活動休止期間を経て、Mitskiが最も得意である「失恋」をテーマにしつつ、さらにソングライティングに深みが増し、アーティストとしての位置付けを確固なものにしている。誰かと付き合うことは「恋愛」と「別れ」は表裏一体であることを直接的なリリックで歌い上げ、飾らない現実をリアルに受け入れている姿が心を揺さぶる。

自分を客観視する「sad girl autumn」

あっという間に日が暮れ、一気に冷え込む秋。過去の苦い恋愛を振り返ってみたり、今置かれている複雑な状況としっかり向き合う機会を、「sad girl autumn」は与えてくれる。そんな季節のサウンドトラックになるのは、聴いているだけで人間関係を見直し、人生に悪いエネルギーを持ち込むような縁を思い切って切る、ある種の勇気が湧いてくるような力強くてリアルな女性たちの赤裸々な音楽だ。
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