見渡すかぎり金魚、金魚、金魚! 金
魚絵師の超絶技巧等が約300点 深堀
隆介展『金魚鉢、地球鉢。』を鑑賞

「減面積層絵画」という独自技法で金魚を描く“金魚絵師”深堀隆介の大規模個展、深堀隆介展『金魚鉢、地球鉢。』が12月2日(木)に東京・上野公園の上野の森美術館で始まり、開幕前日に報道内覧会が行われた。内覧会当日は深堀隆介本人も来場してライブペインティングを披露し、《緋照》と名付けられた新作を描き上げた。20年以上にわたる作家生活を約300点の作品で振り返る本展では、代表作《金魚酒》の歴代作品が見られるほか、新作インスタレーション《僕の金魚園》もお披露目されている。ここでは深堀の言葉を交えながら本展の見どころを紹介していこう。
金魚に魅せられた“金魚絵師”、東京初の大規模個展
皆さんは「金魚」と聞くとどんなイメージを抱くだろう。金魚鉢ひとつで飼える身近な観賞魚、あるいはスイスイと泳ぐ姿の愛らしさ、はたまた出目金の個性的で大きな目などだろうか。私自身は幼い頃に夏祭りの屋台で金魚すくいに挑戦した時のノスタルジーが蘇る。
深堀隆介の制作風景
1973年に愛知県で生まれた深堀隆介は1995年に愛知県立芸術大学を卒業。卒業後も創作活動に勤しむが、5年ほど続けたところで自信を失い「もう美術なんてやめてしまおう」とさえ思っていた。そんな風な気持ちでベッドに転がっている時に目に止まったのが、7年前の夏祭りですくってきたという一匹の老いた金魚だった。改めてじっくり鑑賞する金魚の神秘性に魅了された深堀は、以来、“金魚絵師”として金魚を描き続けている。本人はこの時の出来事を「金魚救い」と呼んでいるが、確かに金魚すくいの金魚が美術を断念とさえ考えていた一人の青年を救ったのである。
内覧会に登場した深堀隆介
「金魚の養殖と金魚屋さんの発祥の地、不忍池がある上野は僕にとって“聖地”のような街。そこに20年以上をかけてようやく辿り着けたと思っています」。内覧会の来場者を前に上野で個展が開催できる喜びをそう語った深堀。本展は300点以上の作品を全6章の構成で紹介し、約20年にわたる彼のこれまでの画業を総覧できる内容になっている。
透明樹脂の中に描かれる“2.5次元の世界”
全体のイントロダクション的な役割もある「第1章 樹脂との格闘/進化する技法」には、深堀の代表作である《金魚酒》シリーズの歴代作品21点が年代順に展示されている。
第1章の展示風景
画家・深堀隆介を語る上で欠かせないのは、彼が編み出した「減面積層絵画」(2.5D Painting)という技法の独自表現だ。これは、何らかの器の中に透明な樹脂を流し込み、固まった表面の上にアクリル絵具で絵を描き、それを何層も繰り返しながら完成させる絵画。観賞者は視点を上からのみに限定され、透明な空間の中には平面でありながら立体的に見える“2.5次元”の世界が映し出される。絵画の下に映る影も特徴で「薄く描いたヒレの下には薄い影が落ち、濃く描いた胴体の下には濃い影が落ちる。それにより物凄いリアリティが生まれる」と深堀は語る。
《金魚酒》シリーズは、金魚を描くことに目覚め、減面積層絵画を編み出した深堀が2002年以降から取り組むライフワーク的な作品だ。《金魚酒 初期》から始まる一連の作品では、木曽檜の一升枡の中にさまざまな金魚の姿が描かれている。
《金魚酒 初期》2003年

《金魚酒 命名 呼続》2010年

会場では同作の制作工程が動画で紹介されており、その超絶技巧を深く理解することができる。深堀の感覚では「水に見立てた樹脂を重ねていく度に自分と水中の世界との境界がどんどん深まっていき、自分の書いた絵に命が吹き込まれて向こう側へ行ってしまう不思議な感覚になる」そうだ。さらにその先には、金魚の飼育水の幻覚ならぬ「幻臭」を感じることもあるという。
なお、樹脂が固まるのに2日間、何層も樹脂を重ねていけばいくほど完成までの時間を要し、《金魚酒》ひとつ作るのに2ヶ月以上の時間がかかる。一度に3つほどを併行して手がけるそうだが、減面積層絵画は樹脂を流し込むとやり直しができない絵画のため、途中で気に入らなくなって失敗に終わるものも少なくないそうだ。そうした緊張の作業が続いた末に渾身の一点が完成に至るのである。
《金魚酒 命名 夕舟》 2016年

《金魚酒 命名 霧松》2021年

「20年の間に立体感も進歩しているし、樹脂の種類や絵具も変えています。今も発展途上の技法で試行錯誤しながら変化している。そんな変遷も感じて欲しい」と深堀。ここでは、まずそうした作家の歴史に思いを寄せることになる。
ダンボールやお菓子のプラ容器……、身近なものに描かれた金魚たち
続く2つの章は、主に2010年以前に制作された減面積層絵画以外の作品を中心とした構成になっており、「第2章 2D 平面に挑む」では平面作品がまとめられている。
第2章、第3章の展示風景
そのうち展示壁に飛び出して描かれた《緋照》は、本展開催に先立ってライブペインティングで描かれた新作だ。一方でその裏の壁面には、金魚を描き始めて間もない頃に1枚500円で売っていたという《金魚書》が100点並べられ、圧倒的な量感による景色が広がっている。
ライブペインティング直後の《緋照》
そして「第3章 遍在する金魚たち1 支持体、形式の探求」では、木版やTシャツなど、意外なものを支持体とした作品が展示されている。
《私の金魚図鑑 江戸錦》 2020年

《熊を金魚すくい》 2010年〜

ダンボールの上にアクリル絵具で描かれた《私の金魚図鑑》だったり、お菓子のプラスチック容器に樹脂を流し込んだ《ココナッツデメサブレ》や、北海道みやげで有名なアレを深堀流に表現した《熊を金魚すくい》など金魚画の可能性を模索した作品からは、減面積層絵画のほかにもさまざまな表現方法に挑んだ初期の足跡を感じることができる。
《金魚酒》の最新作
なお、1階の展示の最後には特別展示として2020~2021年に制作された《金魚酒》の最新作4点が展示されているのでお見逃しなく。
絵画の基本構造を打ち破る金魚絵師の挑戦
2階の展示室では2010年以降の減面積層絵画を中心とした展示が展開されている。
「第4章 遍在する金魚たち2 日常の景色とともに」では、生活の中にある身近な雑器の中に金魚を描いた作品を展示している。木桶に敷き詰められた紅葉の落ち葉の上を複数の出目金が泳ぐ《秋敷》や、プラスチックのたらいから金魚をすくい出す瞬間を留めたような《晴天の鶴》など制作に一年近くかかるという大型作品のほか、深堀が愛用していたコーヒーカップを使った《ゆりかご》、アルミのお弁当箱の中で2匹の金魚が泳ぐ《No.8》など不要になったものに新たな価値を吹き込んだ作品も見られ、積層した樹脂のレイヤー上に金魚を描くことで「平面の支持体の上に顔料で描く」という絵画の基本構造を打ち破る深堀の挑戦を感じ取ることができる。
《秋敷》 2020年
《晴天の鶴》 2018年
また、ここには深堀曰く『DEATH NOTE(デスノート)』という手帳やノートが置かれている。驚くことに深堀は下絵を作ることはほとんどせず、何となくのイメージから書きはじめて少しずつピントを合わせながら、あの緻密な作品を仕上げていくという。ただ、飼っている金魚が亡くなった時にだけ手帳やノートにその姿をデッサンし、動かなくなった特徴や細部を心の中に焼き付けるそうだ。デッサンはもちろん、走り書きのようにびっしりと書かれた文字からも彼の金魚への深い愛情が伝わってくる。
DEATH NOTE(デスノート)の展示
そして「第5章 2.25D 表現と深さのはざまで」と「第6章 新展開 生まれつづける金魚たち」では、樹脂の技法を活用した新たな表現に挑戦した作品やアニメ的表現など、写実的とは別の方向性で制作された近年取り組む新たな表現による作品を展示している。
インスタレーション《方舟2》(2015年、手前)と第6章の展示風景
ラストの展示室には本展でお披露目の新作インスタレーション《僕の金魚園》が展示されている。「水面の中に金魚を見るだけでなく、水面を越えて金魚を見る側から金魚に見られる側になるような構成を考えた」という作品空間では金魚すくいの屋台の中でミラーボールが燦然と輝き、コロナ禍の影響もあって昨今見ることが少なくなったお祭り屋台に深堀流のアップデートがなされている。
《僕の金魚園》 2021年
「今は1階の階段を上がってようやく2階の踊り場に出たという感覚。これまでやってきたことのほかにも面白い表現方法はたくさんあるので、今後もストイックな表現を続けながら金魚を題材にいろんなことに挑戦していきたい」と語ってくれた深堀。透明な樹脂の中に映し出される金魚の凄みというのは悔しいが写真ではなかなか伝わらない。だからこそ、ぜひ現地を訪れて実物が放つ感動を体感して欲しい。
ショップの金魚おみくじで新年の運だめし!? ちなみに、おみくじをひくときに流れる音声は深堀本人の声だそうだ
深堀隆介展『金魚鉢、地球鉢。』は12月2日(木)から2022年1月31日(月)まで、東京・上野公園の上野の森美術館で開催中。

文・撮影=Sho Suzuki

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