みょんふぁ一人芝居『母 My Mother』
みょんふぁ×鄭義信〜みょんふぁは崔
承喜がやりたいと言ってたけど、こっ
そりと娘の物語を描いた。それは……

劇団「そとばこまち」を経て、東京を拠点にさまざまな劇団に客演するなど精力的に活動している、みょんふぁ(洪明花)。韓国の劇作家の翻訳戯曲を上演するなどの活動もしている彼女が、「世紀の舞姫」と評されながらも、時代と戦争に翻弄された舞踊家・崔承喜(チェ・スンヒ)の人生を、その娘・安聖姫が語る一人芝居を上演する(みょんふぁ一人芝居『母 My mother』2021年12月22日〜12月28日 下北沢シアター711)。脚本と演出は、笑いとペーソスを交えながら社会の底辺で生き生きと躍動する人びとを描いてきた、鄭義信。物語は、崔承喜が亡くなって24年後の1993年、北朝鮮の寒村にひっそりと暮らす安聖姫が、日本から来た取材者に対し、日本の植民地下に生まれ、太平洋戦争、朝鮮戦争と時代の荒波の中でも踊り続けた母のことを語っていく。みょんふぁと鄭義信がタッグを組むのは、意外にもこれが初めてだという。
みょんふぁ(左)と鄭義信
――みょんふぁさん、一人芝居をやることになった経緯から教えてください。
みょんふぁ 崔承喜の名前は子どものころから知っていました。私も幼少のころに韓国舞踊をやっていたので、伝説の存在と言われる彼女はどんな人なのだろうとずっと引っかかっていたんです。なんとなく彼女の人生をモチーフに作品をつくりたいと考え始めたのが10数年前。そして2012年の日韓演劇フェスティバルの関連企画で崔承喜の展示を企画し、コレクターの方にお会いする中で、さらにその想いが強くなりました。それで「やりたいな、やりたいな」というジャブを鄭義信さんに打っていたんですよ。
鄭 そのジャブをずっとかわし続けていたんだけど、ついにかわしきれなくなってしまったんです。
みょんふぁ 運良く文化庁の助成金もあり、このタイミングだと思って、ストレートを打ち込みました。正式にお願いしたら「わかったよ」って(笑)。
鄭 スケジュールが詰まっていたから無理だとは伝えていたんですけど、スタッフも決めて、助成金も絶対に取ってくると言われ、外堀を埋められてしまったのでやるしかないなと。

崔承喜

――鄭さんは、崔承喜さんをご存知だったんですか?
鄭 名前だけうっすらと、という感じでした。具体的には脚本を書くと決めてから資料を探して、一生懸命に読んで知りました。
――脚本を書かれるときは、みょんふぁさんの想いも盛り込みながらだったんですか?
鄭 う〜ん、崔承喜は伝説の人物なので、資料を読みながらこの人を演じるのは難しいんじゃないかと思いました。一方で、娘・安聖姫の存在が気になったんですよ。資料にちょこちょこ登場してくるわりに、写真は数枚しかないし、あまり情報がなくて。でもそのうち娘から見た母親なら書けるだろうと思ったわけです。みょんふぁは崔承喜がやりたいと言ってたから、こっそりと題名も教えずに、脚本を渡したときにどう反応するかなとは思いましたけど。
鄭義信
――てっきり、みょんふぁさんが崔承喜さんを演じるのかと思いました。
鄭 はい、みんなそう思うでしょうけど、予想を裏切りました。
みょんふぁ だから最初はびっくりしました。劇作のお手伝いになればと資料を探したり、脚本の進行状況については話していたんですけど、中身の話はまったく聞かされていなかったんです。だからタイトルを見てドキッとしましたね。何か自分の中にこみ上げてくる感じのドキッだったんですけど。そして初見で、これは泣かずにできないよぉと思いました。
――改めて、みょんふぁさんは崔承喜さんのどういったところに惹かれたんですか?
みょんふぁ 第二次世界大戦より前に、日本で生きていくのに本名を使っていたことにびっくりしたんです。私も日本の学校へは本名で通っていたんですけど、それでもいろいろなことがありました。それが親の世代だと仕事はみんな通名、日本名でしたし、もっと大変だったでしょう。
みょんふぁ
――今の名前の話には、私たちにはうかがい知れない思いがありますよね。
みょんふぁ 私の両親などは祖父母に本名で呼ばれたことがないんです、ずっと日本名で呼ばれてたから。でも子どもには本名で生活させようと思ってたみたいです。私も生まれてしばらくは通名で、房子って呼ばれていました。でも4歳のときに父から「その名前は今日で捨てるよ。明日からみょんふぁだ」と言われて韓国名になったんです。幼かったから「明るい花」っていいなあって喜んだ記憶がありますが、だからこそ名前に対する執着があるような気がします。そして安聖姫は、それこそ母の都合でいろいろと名前が変わっているんです。
鄭 僕ら在日は、韓国では日本人扱いされ、日本ではもちろん外国人ですから、自分たちのアイデンティティがどこにあるのかと悩み、苦しむんです。でも僕なんかは、ダブルカルチャーを楽しめるんだからいいやと途中で頭を切り替えました。僕は韓国人です僕は日本人ですと考えると自分が窮屈になってくる。韓国で日本人扱いされるのは悲しいことだけど、しょうがないなと割り切れば、ギャグにして耐えることだってできる。
みょんふぁ 私の両親も在日でラッキーだねって言ってました。二つの世界に興味を持てるじゃんって。私が自分のアイデンティティの問題に向き合うようになったのは、芝居を始めてからかなぁ。
崔承喜
――脚本を読み進めていくと安聖姫のアイデンティティの話になっていきますが、崔承喜さんの存在より、情報の少ない彼女の感情の方がリアルに感じられました。
鄭 崔承喜もすごく数奇な運命ではあるんです。時代の波の中でもがいていたと思う。植民地下のソウルに生まれ、踊りに魅せられて日本に渡り、北朝鮮、北京と拠点を移しながら踊り続けた人生は大河ドラマとして描くこともできるかもしれません。でも母親の都合でいろいろな国を転々としなければならなかった娘の方に、僕は気持ちがいきました。華やかなスターとは言え、母親が3年も欧米や中国を公演して回っていたとき、日本にたった一人取り残されて安聖姫はどう思っていたんだろう。おばあちゃんみたいな人が現れるけれど韓国語をペラペラしゃべるからチンプンカンプン、すごい孤独な少女期を過ごしたと思う。その後、彼女も踊りの道を選んで北朝鮮でステイタスを得るけど、結局は母のことがあって粛清されてしまう。朝鮮戦争のとき崔承喜はさっさと北京に移ってしまうけど、安聖姫は戦争の真っ只中で死ぬ目に遭ってるわけです。脚本は老婆として登場し、少女期を描き、そしてまた老婆に戻るという構成になっていますが、みょんふぁにそれをやらせたら面白いかなって。
みょんふぁ 鄭さんとこの物語をやりたいと思ったのも、母の世代おばあちゃんの世代の話ではあるけど、時代に翻弄されながらも、自らの信念を生き続けた人がいた、そして苦労を共にする家族がいた、という人生を描きたいと思ったからなんです。民族性だったり韓国の情緒的なものへの理解は鄭さんじゃないと絶対に描けないですから。
――お稽古はいかがですか?
鄭 大変みたいですよ。
みょんふぁ ただいま絶賛悶絶中です。セリフを覚えるのも大変ですけど、
鄭 ギャグの特訓に時間を割いているんです。ギャグが苦手っぽいのに一生懸命ギャグをやらせようとしているんですけど、なかなか身を結ばない(笑)。
みょんふぁ もともと関西ですから笑いは好きなんですけど、どうも力が入ってしまうです。鄭さんが台本を短くカットしてくださるんですけど、その端から新たにギャグを入れていくんです。ギャグもどんどんカットされる前にがんばろうと思います。
みょんふぁ
――ギャグも大事ですけど(笑)、娘が母・崔承喜を語るという意味では、崔承喜の姿が観客にも見えてくることも重要ですよね。
みょんふぁ 難しいと思ってるのは、安聖姫が取材者と話しながら、いろいろな話題に飛んでいくのですが、彼女が母親を語るときは生々しい存在として語りたいということです。それが単に字面だけにならないように、いつも具体的に自分の中に崔承喜の姿を、踊る様子を全部持っていないといけないと思っています。けれど集中がちょっと切れただけでもあっという間に崩れてしまうものなんです。
鄭 この芝居を通して見えてくるのは、時代に翻弄されながらも必死に生きた母と娘であってほしい。戦争であれ何であれ自分の踊りにものすごくエネルギーを注いだバイタリティ。亡命を選んでまで自由に踊ろうとした願望。亡命によっていろんなものが犠牲になる、娘も犠牲になるかもしれないのに、それでも貫こうとした信念。でも彼女の踊りは、北朝鮮に移っても決して金日成将軍万歳ではなく、虐げられた母親や女性をずっと描き続けた。だからこそ睨まれてしまう。どんな環境下であれ、自分の踊りを信念を持って求め続けた人がいた、そのことを忘れないでほしいという安聖姫も祈りも含めて伝わればいいなと思っているんです。
鄭義信
みょんふぁ 崔承喜は “世界の舞姫”と評される、すごいおっきな存在ですけど、描かれているのは日常、どんな人の身体にも付着しているような部分なんです。だからこそ心が揺り動かされると思う。私自身が台本を最初に読んだときに、心の針がずっとプルプルしていたのが、そこでしたから。
鄭 あまりにも愛が強かいからこそ、そのぶん憎しみも強くなる。共感できる母娘の愛憎が描ければうれしいですね。
取材・文:いまいこういち

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