ヨーロッパ企画『九十九龍城』プレビ
ュー公演レポート~再出発にふさわし
い、2D感覚と3D感覚が重なるコメディ

コロナ禍が起こって以来、もっぱら生配信劇や、映画『ドロステのはてで僕ら』(各国映画祭で受賞続出中!)など、映像での創作活動を続けてきた、京都のコメディ劇団「ヨーロッパ企画」が、ようやく2年ぶりの新作舞台『九十九龍城』の上演にこぎ着けた。しかも2016年以来、準レギュラー的な存在となっていた藤谷理子を、17年ぶりの新劇団員として迎え入れた、記念すべき一作目でもある。まさに劇団の再出発ともいえる劇のプレビュー公演が、18日に滋賀県の[栗東芸術文化会館さきら]で行われた。
『九十九龍城』の世界観は、かつて香港にあった巨大集合住宅「九龍城砦」がモデル。移民や貧困層、犯罪者などが違法な増築を繰り返し、まさに「魔窟」ともいえる景観を作り上げていた。その九龍城砦を思わせる、怪しいカオスに満ちみちた空間をくまなく見せていくために、2006年に上演した『Windows5000』のアイディアを再利用。あらゆる生活空間を拡大&観察できるPCプログラムを通じて、その魔窟でたくましく生きる人々の、悲喜こもごもの暮らしぶりを面白おかしく見せていく……という内容だ。
ヨーロッパ企画第40回公演『九十九龍城』プレビュー公演より。
香港中心部で起こった爆破事件の捜査で、九十九龍城を探ることになった、刑事ヤン(中川晴樹)と刑事リー(金丸慎太郎)。しかし「部外者が立ち入ったら生きて帰れない」とまで噂されるこの場所に、直接踏み込むことをためらう2人は、最新のPCプログラムを使って、遠隔での張り込みを開始。ケンカやバクチはおろか、殺人すら日常らしい無法地帯ながらも、奇妙なエネルギーにあふれた暮らし。刑事としての正義感に加えて、この空間自体にどんどん魅せられたリーは、ヤンに無断で思わぬ行動に出る。
香港のバイオレンス映画を思わせる、金と力がすべてで、弱者はあっという間に潰される世界。普通に観たら、非常に殺伐とした物語になってしまうはずだが、そこはさすがヨーロッパ企画。刑事の2人が副音声のように、今起こっていることを実況したり「いやそれおかしいだろ!」「え、そういうことかよ!」などの絶妙なツッコミを入れることで、住民たちの言動一つひとつが、あざやかに「笑い」に変換されていく。
ヨーロッパ企画第40回公演『九十九龍城』プレビュー公演より。
さらに今回は、ほとんどの俳優たちが複数の役を演じるという、ヨーロッパ企画の本公演では珍しい趣向も。それぞれのキャラクターの演じ分けを楽しめるだけでなく、ちょっとビックリするような早変わりもあったりするので、彼らの役者力も存分に堪能できるだろう。そうしていろんなキャラを観察するうちに、魔窟およびそこにいる人々の様々な事情が浮かび上がり、そしてあることをきっかけに、九十九龍城の真実が明かされる──。
この「真実」の部分は、まさにヨーロッパ企画の真骨頂。いろいろな疑問や伏線があれよあれよと解き明かされ、クライマックスでは舞台のような立体空間でないと、ここまでワクワクできないだろうという光景が展開される。ヨーロッパ企画のプレビューレポートは毎回そうだが、今回は特に「ネタバレ厳禁」度が強いと思われるので、この辺りで筆を抑えておきたい。
ヨーロッパ企画第40回公演『九十九龍城』プレビュー公演より。
幕が下りた後にまでお楽しみが待っている、笑いとサービス精神にあふれた舞台。カーテンコールの拍手は、いつもの年よりひときわ大きく響いたように思えた。きっと作品の満足度に加えて「久々に生でヨーロッパ企画が見られた!」という、待ちに待った感がほとばしってたまらない観客が多かったのだろう。
映像という「2D」の世界から、舞台という「3D」の世界にようやく戻ってきたヨーロッパ企画。この2年間、2Dの世界にどっぷり浸かったからこその……本当にネタバレが怖いから、思わせぶりな書き方しかできないが、2D感覚と3D感覚を巧みに重ね合わせた、ヨーロッパ企画にしかできない(多分やろうとも思わない)演劇だと断言したい。本公演が始まったが最後、口コミでチケットが激しく動くことが予想できるので、ぜひ今のうちに前売の状況をチェックしておいてほしい。公演は23日(木)に、地元京都から開幕。その後、初の北陸公演が実現する富山県を始めとする、全国9都市で上演される。
ヨーロッパ企画第40回公演『九十九龍城』プレビュー公演より。
取材・文=吉永美和子

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