【ライブレポート】加藤登紀子が歌手
生活56年目を締めくくる<ほろ酔いコ
ンサート2021>を開催

2021年12月10日、神奈川・横浜の関内ホールにて、加藤登紀子が<ほろ酔いコンサート2021>を開催した。歌手生活56年となる加藤は、この年も自身のコンサートをはじめ、数々のステージやメディアに出演。8月には、<フジロックフェスティバル>に出演、著書『哲さんの声が聞こえる 中村哲医師が見たアフガンの光』(合同出版)を出版し、2020年9月11日からスタートしたYouTubeの番組『登紀子「土の日」ライブ』(毎月11日に配信)を生配信するなど、精力的に活動を続けている。コロナ禍で自粛が続く中においても先陣を切って生のステージのスタイルを確立させ、その勇姿は音楽ファンや音楽関係者に希望を与えている。

この日も、会場入り口での検温、アルコールジェルの配布、チケットの半券に指名と連絡先を記入するなどの、徹底した新型コロナ感染対策が取られたうえで、コンサートは開催された。1971年の初開催から49年目(横浜公演は41年目)となる、ほろ酔いコンサート。2021年は11月23日に大阪・梅田公演を皮切りに神奈川、京都、愛知、東京をまわり、12月27日の福岡公演が最終日の全7公演。会場で樽酒が振舞われるのが恒例だったものの、新型コロナ感染対策のため中止となり、替わりにお土産として来場者にはワンカップ大関が配られた。来場者特典では、さらに、加藤の次女のシンガーソングライターのYaeが歌唱する「酒は大関」を聴くことができるQRコード入りカードも付いているのが貴重だ。
2021年9月には新曲「この手に抱きしめたい」を含む、3枚組のベストアルバム『花物語』が発売されている。この日は、同アルバムの収録曲や加藤が敬愛するフランスの国民的歌手エディット・ピアフのカバー曲などが中心の、前後編による二部構成。加藤のステージを長く支えるバンドメンバーの鬼武みゆき(ピアノ)、告井延隆(ギター)、渡辺剛(バイオリン)、早川哲也(ベース)がステージに上がり、続いて加藤が登場すると大きな拍手が贈られ、イントロに乗って手拍子も始まる。

オープニングナンバー「サボテンの心」は、作家・辻仁成が作詞作曲を手掛けた楽曲。加藤がカバーし、2002年に発売された花の歌を集めたアルバム『花筐』(はながたみ)収録曲である。「♪砂漠のサボテンたちよ花を咲かせてごらん きっと誰かがきみに声を掛けてくる」という歌詞が現代を生きる人々へのメッセージのようにも感じられる。バンドメンバーによるコーラスも温かく、明るい雰囲気での開演となった。続いて、アルバム『花筐』から、加藤が作詞作曲を手掛けた「刺あるバラ」と「灰色の瞳」を披露。「♪枯野に咲いた小さな花のように」という詞で始まり、哀愁を帯びたメロディの「灰色の瞳」は、アルゼンチンのケーナ奏者・ウニャ・ラモスの作曲作品で、1974年に加藤が長谷川きよしとのデュエットでカバーしたシングルがヒットした。
ここで、加藤が「皆さん元気ですか? 2021年も無事に、まだ終わってないけど(笑)、無事であることを祝って、乾杯!」と挨拶し、盃の日本酒を飲み干すと会場も沸く。「ほろ酔いコンサートの横浜公演は今回で41回目になります。その頃から欠かさずいらしてくださっている方、どの位いらっしゃるでしょうか?」と呼び掛けると、何人もの手が上がる。「本当にありがとうございます」と加藤。

「歌とのめぐり会いがすごかったな、奇跡のような出会いだったなと振り返りながら、このアルバム『花物語』を作りました。次は、その中でも皆さん良く知ってくださっているかな、という2曲です」と、「わが人生に悔いなし」と「この空を飛べたら」を紹介。「わが人生に悔いなし」は、1986年に発売された石原裕次郎の最後のシングルで、作曲が加藤で作詞は2020年12月23日に惜しくもこの世を去った、なかにし礼。なかにしは、加藤と同じく、満州で生まれて戦後の引き上げを体験。加藤の1966年のデビュー曲「誰も誰も知らない」では作詞を手掛けている。「わが人生に悔いなし」では、加藤の元へ突然なかにしから歌詞が送られてきたそうで、曲についての注文は何も無かったという。「『どうして裕次郎さんに会ったこともない私に曲を注文してくれたんですか?』と尋ねたら、『だってお登紀、僕たちは見たからね。同じものを。目の前で人がいっぱい死んで行くのをね』と言われました」という運命的な縁を振り返る。
「この空を飛べたら」は、中島みゆきが作詞作曲して加藤に提供し、1978年に発売された人気の高い楽曲。加藤と中島の出会いは、1975年。「時代」でヤマハのポプコングランプリを受賞した中島をテレビで見た加藤が、中島の姿にくぎ付けとなりヤマハに電話をかけて「お会いしたい」と伝えたことがきっかけだったという。客席に語り掛けるように2曲を歌い上げると大きな拍手と歓声が上がった。

最近、インタビューが多いという加藤。テーマは「終活」や「伴侶を亡くした後はどう生きたらいいか」などで、「私はとっても語れるわけね(笑)」と明かし、「そんなことをインタビューされた夜、テレビを見ていたら、2002年のほろ酔いコンサートの映像が流れていたんです。2002年は私の夫が死んだ年で、その年もここで歌ったことを思い出しました。よくやったよね。とりあえず、何があっても、歌うということだけはしてきたよ、と思います」と振り返る。そして、「人を見送ることが多くなった」と、2019年12月に死去した中村哲医師に想いを馳せる加藤。中村医師はアフガニスタンで人道支援活動に尽力し、武装集団に襲撃されて命を落とした。加藤が追悼の会で歌ったという反戦歌「死んだ男の残したものは」をアカペラで披露。同曲は、作詞が谷川俊太郎、作曲が武満徹の作品で、1965年に「ベトナムの平和を願う市民の集会」のために作られ、バリトン歌手の友竹正則によって歌われた。高石友也をはじめ多くのミュージシャンに歌い継がれるプロテストソングである。

「『何があっても不思議ではない時代ですけど、とりあえずは生き抜こうね』というのが私のメッセージです」と話し、2020年4月の外出自粛中に作曲した「この手に抱きしめたい」を紹介。同曲は、『今誰が一番大変なのか。最もつらい人達をどう応援できるか』という思いから作られた、加藤登紀子 with friendsによる楽曲。2020年4月13日に加藤の弾き語り動画がYouTubeにアップされてから、笑福亭鶴瓶、宮沢和史相川七瀬ゴスペラーズ、ダイヤモンド☆ユカイなど賛同者が増えていき、話題を集めた。
『花物語』からもう1曲、「花よ風よ」を選曲。同曲は、加藤の次女でシンガーソングライターのYaeが作詞作した、Yaeのファーストアルバム『new Aeon』(2001年)収録曲。加藤がカバーして2004年のアルバム『今が明日と出逢う時』にも収録しているが、ほろ酔いコンサートでは初披露だという。ここで、ゲストとしてYaeが登場。2021年でデビュー21年目となるYae。透明感のある伸びやかで美しい歌声で、加藤が歌って50年になる「酒は大関」、自身の曲から「On The Border」、加藤のカバー「残照」、作詞が加藤で作曲がYaeの「ふたつ星」を熱唱した。
休憩を挟んで第二部は、なじみ深いイントロで加藤の登場前から拍手と手拍子が起こる。加藤の代表曲のひとつ「百万本のバラ」を、ロシア語の歌詞や各楽器のソロパートなどを交えての聴き応えのあるアレンジに会場の熱気はさらに高まる。同曲は、2021年に日本人女性とロシア人男性によるデュオ・Deaiがカバーした動画がYouTubeで100万回の再生を記録。令和の現在も幅広い層に親しまれている楽曲である。
「アンコールみたいな雰囲気で始まりました!」と会場の様子を言葉にする加藤。続けて、「何もかもが遠い日々だ」と繰り返す歌詞が加藤の心に灼きついたという、ロシアの曲「悲しき天使」、世界で一番有名な反戦歌と呼ばれる「花はどこへ行った」、1871年に世界初の市民の自治が謳われたパリ・コミューンの指導者の一人、ジャンバチスト・クレマンが作詞し、アニメ映画『紅の豚』(1992年)で加藤の演じるマダム・ジーナが歌った、「さくらんぼの実る頃」を歌唱。「よくぞ、素晴らしい歌をこの世に残してくださったのだろうと思う曲を、私はレパートリーにすることができて幸せです」と加藤。続けて、1989年1月、エディット・ピアフのお墓参りに訪れた際、すぐ近くにパリ・コミューンの兵士を記念する壁があることに気づき、いたく感動したことを語る。当時はまだ、兵士達が戦った血の跡も残っていたという。ここからは、加藤の選りすぐりのエディット・ピアフナンバーから4曲、「雑踏」「異国の人」「私は後悔しない」「愛の讃歌」を熱唱。魂を込めて歌い終えると会心の笑顔を浮かべる加藤。拍手はいっそう大きくなり、会場の熱気は最高潮を迎える。
ちょうど、加藤がピアフを本気で歌おうと決意した頃に、『紅の豚』のジーナ役で「さくらんぼの実る頃」を歌うことが決まったという。「私がパリへ行ったことも、宮崎駿監督は何もご存知で無かったのですが、このタイミングでというか、人生は何と不思議で、これが私の次のステップになった、と思うことが色々あります」と明かす。本編最後の曲は、1987年のアルバム『My Story』の収録曲「時には昔の話を」。宮崎駿監督が、歌詞の「あの日のすべてが空しいものだと それは誰にも言えない」という部分に感動したそうで、『紅の豚』でもジーナが歌っている。一言一言噛み締めるように歌う加藤の「空しい人生だったとは誰にも言わせない」というメッセージが心に響く名曲である。
拍手はそのままアンコールを求める手拍子となり、加藤がエレキギターを抱えて再登場。アンコールでは、加藤がオリンピックで起こったことを思いながら2021年の夏に作った「声を上げて泣いていいですか」、ギターの告井が作詞作曲を手掛けた「雨はいつか」、明るい未来を予感させる歌詞が印象的な「Never give up tomorrow」を披露した。最後にはYaeも登場。バンドメンバーらとアカペラで「きよしこの夜」を聴かせ、クリスマスムードと熱い一体感に包まれた終演となった。「本当に今日はありがとう!」と、満面の笑みの加藤が「せーの!」と威勢よく声をかけ、“エアーハグ”にてコンサートを締めた。
ほろ酔いコンサートは、12月25日・26日に東京・有楽町のヒューリックホール、12月27日に福岡・エルガーラホールの公演が予定されている。

撮影:ヒダキトモコ
取材・文:仲村 瞳

<加藤登紀子ほろ酔いコンサート2021「
花物語」>

日程:12月25日(土)・26日(日) 15:30開場 / 16:00開演
会場:東京・ヒューリックホール東京
スペシャルゲスト:北川 翔(バラライカ
チケット:¥7,000(税込)

■12月26日(日)公演リアルタイムフル配信
視聴チケット価格:¥2,400〜

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