山崎まさよし 50歳の誕生日当夜に届
けた“歳月を積み重ねることのかけが
えのなさ”を示した音楽

山崎まさよし 50th Birthday Live Streaming

2021.12.23
2021年12月23日に50歳を迎えた山崎まさよしが、誕生日当夜、都内某所のスタジオで生配信ライブを行った。彼の“50歳になりたての瞬間”をそのまま切り取ったようなリアルな歌と演奏が真っ直ぐ届いてきた。スタジオ収録だからこそ、彼のたたずまいや気配、細やかな表情、仕草までもが伝わってくる良さもある。「力を抜きたい」と語っていたが、“力の入り加減”も“力の抜け加減”も含めて、今の彼のありのままの歌と演奏を堪能した。
スタジオ内には4本のギターが並んでいた。この日使用されたのはステージに向かって右側の2本だ。アコースティックギターがGibson Southern Jumbo、エレキガットギターがスペイン製で、ポール・サイモンも使っていたクエンカ アレグレ。傍に置かれたギタースタンドも事務所のサインボードも彼のDIYによる手作りだ。右横のサイドテーブルにはパンデイロ、ブルースハープ、ピック、サムピックなどが並んでいる。カメラに囲まれてはいるものの、自然体で演奏できる環境が整っていた。ライブはトークをはさんだ2部構成。冒頭で軽くトークがあり、“整った”ところでのスタートとなった。1部はすべてアコースティックギターを手にしての演奏だ。
軽く2度ストロークして、そのギターの響きをガイドにするようにして始まったのは「Find Song」だった。歌とギター、そしてハープが一体となって鳴り響いている。精神の有り様までもが伝わってくるような繊細さと冷徹さを備えた歌と演奏に引き込まれた。これが彼の50歳最初の歌。音楽に対する決意を表明するようにも響いてくる。身が引き締まるような始まり方で、ギターの残響音の余韻を打ち消すようにトークが始まる。突然、名曲の一節をもじった替え歌が飛び出し、50歳最初のオヤジギャグが炸裂。トークは緩く、歌は集中力高く。この振れ幅も彼ならではだ。画面越しのリスナーに向かって、ステージドリンクを掲げて、乾杯して2曲目へ。
演奏が始まると、すぐに歌の世界へと引きこんでいくところはさすが。2曲目は最新アルバム『STEREO 3』の「虹のつづき」。指弾きでの柔らか、かつリズミカルなストロークの、優しく音色に包まれていくのが気持ちいい。歌声も温かくてナチュラル。20代の頃の山崎の音楽を耳にして、“なんと老成した音楽なのだろう”と衝撃を受けたことを覚えているが、年齢が山崎に追いついたというべきか、今の山崎だからこそ醸し出すことのできる温かさと優しさが染みてきた。ギターから手を離すのとハープから口を離すのが同時。キレ味のいいエンディングからは爽快感も漂った。
哀愁のにじむハープで始まったのは「未完成」だ。30代になってすぐの頃に作った名曲を50代の山崎が歌う。強さと柔らかさと広さなど、1曲の中にさまざまなニュアンスが混在している。どんな年齢の山崎の歌と演奏も受け入れてくれそうな懐の深さを備えた名曲。この日は力強いタッチのストロークとハープにもグッときた。
エモーショナルな歌とギターが深く響いてきた「深海魚」、感情や衝動を純度の高い状態でフォーキーな音楽に変換していくような「HOBO Walking」など、この瞬間にしかない白熱の歌と演奏に体が揺れる。1部のラストは『STEREO 3』収録曲の「斉藤さん」だった。パンデイロで奏でたリズムをループさせての演奏。DIYへの愛を歌った歌とも解釈できる。リラックスした歌、ギター、ハープが楽しい。DIYで作ったギタースタンドに乗っかっていたギターで、DIYへの愛を歌う。これも今の彼のリアルなラブソングだろう。
2部に入る前には、DVDのジャケットデザインを再現したバースデーケーキが登場するサプライズもあった。50歳については、「50は不思議ですよ」とのこと。チャットはお祝いの言葉や拍手やリクエストの嵐。チャットでリクエストを募ったところ、たくさんのリクエストがあり、いろいろな曲名があがっていた。年を重ねることはリスナーの人生と深く関わる名曲が増えることでもあるだろう。後半の1曲目はチャットでたくさんのリクエストがあった「コイン」から。エレキガットギターを手にして、サムピックをつけての演奏。ファルセットまじりの内省的な歌声と、ギターの弦やボディの鳴りが混ざり合っていく。叙情あふれる歌の世界に聴き惚れた。
「Heart of Winter」も披露された。冬に冬の歌を聴くのもいいものだ。ゆったりとしたグルーヴの中でたゆたっているのはなんと気持ちのいいことか。冬の歌に続いては、「温かい手」。この曲も『STEREO 3』収録曲で、今の山崎だからこその体温のある歌声がいい。温かな手がつむぎだすリズムは瑞々しくて温かい。そして温かい手の持ち主はその声も温かいに決まっているのだ。「One more time, One more chance」も演奏された。エレキガットギターで演奏されることによって、またちょっと違う表情が見えてくる。歌の主人公の痛みを包み込むような柔らかな空気感が漂っていた。ギターの美しい調べから浄化作用のようなものを感じた。
「50ですよ。信じられないですね。年をとってくると、音楽にもやり方があると思うんですが、つい力を入れて歌っちゃうんですよね。抜くことも考えないと、いけないですね」とのトークもはさみつつ、ギターを再びアコギに持ち変えて、「ア・リ・ガ・ト」へ。郷愁を誘うハープで始まり、素朴な歌と演奏に胸を突かれる。なんと人間味あふれる歌なのだろうか。感謝の念とともにさまざまな感情が内包されている。言葉では形容できないような、いや言葉で形容したくないような深い感情だ。
パンデイロのループするリズムで始まったのは「Hello ヘヴン」。この曲も『STEREO 3』収録曲だ。90年代のベックを彷彿させるようなブルースとタフなリズムを融合させた歌の世界観がヒリヒリ刺さってきた。希望と絶望とがシャッフルされていくような、スリリングかつディープな空気をはらんだ歌と演奏だ。
続いては『STEREO 3』収録曲の「Updraft」。パンデイロでリズムを作っての始まり。ループマシーンを使う曲はどれも一瞬でリズムが決まっていく。ステージの始まりから終わりまで、曲間も含めて、山崎の体内でグルーヴが流れ続けているのかもしれない。リバーヴやディレイなどの音響効果も駆使し、エネルギッシュな歌と演奏によって、ひたすら気持ちのいい開放的な世界が出現した。頭上に大空が見え、あたりを風が吹き抜けていきそうだ。山崎の“ラララ”という歌声に合わせて、チャットでも“ららららら”の文字がたくさん書き込まれていた。こんな形の一体感も成立するのだ。
「最後の曲は『お家へ帰ろう』なんですが、もうお家にいるんですよね。『お家にいよう』! 違うか」というMCに続いてはラストの曲「お家へ帰ろう」。この曲はエレキガットギターを持って、リラックスした温かな歌と演奏。ファルセットの歌声とギターの鳴りの塩梅がいい。シチューに例えるならば、じゃがいもとニンジンみたいな相性の良さだ。「良いお年を。メリークリスマス!」という挨拶での終演となった。
1部6曲、2部8曲で合計14曲。集中力の高い歌と演奏によって、実に濃密な時間となった。最新アルバム『STEREO 3』からのナンバーが5曲演奏されたこともあってか、今の彼の歌という印象を強く受けた。印象的だったのは「Updraft」でのオンライン配信とデジタルの文字情報による新しいシンガロングが成立していたことだ。音楽にはもともと壁など存在しない。想像力と意志があれば、壁を乗り越えられる可能性があることを象徴するステージでもあった。
50歳になったからといって、何かが大きく変わるわけではないだろう。しかし彼が年齢を重ねることによって、歌も新たな表情を見せるようになっていると感じた。野菜や肉の旨味エキスがたっぷり溶けこんだシチューのように、彼がこれまでに感じた喜怒哀楽は歌のどこかに溶けこんで、隠し味となっているに違いない。山崎まさよしと一緒に年をとり、年齢ごとの彼の歌を聴くことで、人生の楽しみがひとつ増えることになるだろう。音楽は“歳月を積み重ねることのかけがえのなさ”を示してくれるものでもあると思うのだ。
取材・文=長谷川誠 撮影=ATSUKI IWASA

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