今度は東京に魔法がかかる! 『ハリ
ー・ポッターと魔法の歴史』展内覧会
レポート

『ハリー・ポッターと魔法の歴史』展が、2021年12月18日(土)から2022年3月27日(日)まで、東京ステーションギャラリーにて開催される。
東京ステーションギャラリー回廊 (c) Yanagi Shinobu
本展は大英図書館が2017年に企画・開催した展覧会『Harry Potter: A History of Magic』の国際巡回展で、ニューヨーク、兵庫県への旅を経て、このたび東京ステーションギャラリーへやってきた。『ハリー・ポッター』シリーズの原作者、J.K.ローリングの直筆原稿やスケッチに加え、智の宝庫・大英図書館が所蔵する貴重な資料がドーンと開陳される。
Sexy Zone松島聡は、大の“ポッタリアン”
展覧会開催に先駆けて行われたオープニングイベントでは、Sexy Zoneの松島聡が登場して熱い思いを語った。

Sexy Zone 松島聡
小学生の頃に『ハリー・ポッター』の世界に触れて以来、自他共に認める大の “ポッタリアン(ハリー・ポッター愛好家)” だという松島。その魅力は、ファンタジーの世界がリアルな生活と地続きになっており、深く共感・没入できるところだと語る。本展では東京ステーションギャラリーの歴史ある建物との相乗効果もあって、どっぷりと魔法の世界に浸れる! と嬉しそうな笑顔を見せた。
ドラコ・マルフォイ役の俳優トム・フェルトンから、サインと激励をもらった時のエピソードを披露
さて、それではいよいよ展示について見ていこう。本展では、ハリーが学んだホグワーツ魔法魔術学校の科目に沿った10章立てで、世界中に古くから伝わる魔法や呪文、占いなどの資料が展示される。その全容はこうだ。

第1章 旅
第2章 魔法薬学
第3章 錬金術
第4章 薬草学
第5章 呪文学
第6章 天文学
第7章 占い学
第8章 闇の魔術に対する防衛術
第9章 魔法生物飼育学
第10章 過去、現在、未来
ハリー・ポッター好きはもちろん、そうでなくとも、魔法・魔術のある世界観が好きな人ならこの目次を見ただけで身悶えしてしまいそうだ。しかも東京ステーションギャラリーの2フロアを使った展示は、見応えたっぷりのボリュームである。この記事では会場の雰囲気をレポートし、いくつかの心くすぐる鑑賞ポイントを紹介できればと思う。
第1章 旅
会場風景
会場内は大きな書架に囲まれているような装いで、冒頭からグッと世界に引き込まれる。ギャラリーに来ているというより、古い図書館に足を踏み入れた……といった趣だ。さすが、魔法世界好きのツボをよくわかってらっしゃる!
左:ジム・ケイ《アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア教授の肖像》 中央:ジム・ケイ《ミネルバ・マクゴナガル教授の肖像》 右:ジム・ケイ《ハリー・ポッターの肖像のスケッチ》すべてブルームズベリー社蔵
第1章では『ハリー・ポッター』シリーズ(イラスト版)を手がけたイラストレーター、ジム・ケイによる登場人物の肖像画やスケッチがずらりと並ぶ。隣には、作者本人が描いたキャラクターのスケッチも展示されており、当初のハリーやハーマイオニーも見ることができる。
左手前:ジム・ケイ《『ハリー・ポッターと賢者の石』の9と3/4番線の習作》ブルームズベリー社蔵
面白いのは、ブルームズベリー出版社の最高責任者ナイジェル・ニュートンの娘アリス(当時8歳)が書いた、出版前の『ハリー・ポッターと賢者の石』冒頭部分への感想文が展示されているところだ。つたない字で作品を絶賛するその小さなメモが、同作が出版される決め手となったのだという。当時まだ無名の新人作家だったローリングにとっては、それこそ彼女は魔法少女のように思えたのではないだろうか。
第2章 魔法薬学〜第3章 錬金術
左:『破裂した大鍋』20世紀 魔術・魔法博物館蔵 右:ウルリッヒ・モリト―ル『魔女と女予言者について』ケルン、1489年 大英図書館蔵
続く魔法薬学の章では、焦げ付いて変形した鍋に目を奪われる。そう、魔女の鍋である。これは映画で使われた小道具を展示しているのではなく、実際に「コーンウォール地方(イギリス)の魔女たちが集まり、浜辺で強力な薬を調合していたときに破裂したもの」なのだそう。本展ではこの他にも、イギリスのボスキャッスルにある魔術・魔法博物館から貸し出された魔法の品々が多数展示されている。
そして本展の大きな見どころのひとつ、錬金術の章の中心に据えられた《リプリー・スクロール》は、ぜひじっくりと時間をかけて鑑賞してみてほしい。
ジェームズ・スタンディッシュ《リプリー・スクロール》(部分)16世紀 大英図書館蔵 (c) British Library Board
これは16世紀に描かれた巻物状の書物で、全長は約4m。描かれた内容は、錬金術の要である「賢者の石」の製造方法だという。「え! 作れるの?」と隅々まで眺めてみたが、象徴が多用された幻想的な絵が繰り広げられているのみで、錬金術師でなければ理解は難しそうだ。

会場風景
しかも「賢者の石」の秘密を守るため、いくつかの図は意図的に曖昧にされているという。……じゃあなんで描いたの! と突っ込みたくもなるが、細部まで華麗に仕上げられたこの巻物が伝えているのは、知識というより情熱だ。錬金術が好きで好きで仕方がなくて、人生を賭けていなければこんなものは作れないのではないだろうか。科学が発達する前の時代、彼らにとって錬金術は決して伊達や酔狂ではなく、本気で到達すべき高みだったのだと、この《リプリー・スクロール》は教えてくれる。

第4章 薬草学〜そして移動教室
会場風景
薬草の鉢植えや植物がぶら下がっているエリアは、薬草学の章だ。壁にはそれぞれの内容に関連した『ハリー・ポッター』シリーズの一節や名セリフがパネルとなって掲げられている。
左:『薬草書』イタリア、15世紀 大英図書館蔵 右:『薬草書』イングランド、12世紀 大英図書館蔵
左は15世紀にイタリアで作られた薬草書の写本。現代に相通ずる植物図鑑のように見えるけれど、よく見ると下にとぐろを巻いたドラゴンが描き添えられている。これは “この植物は蛇に噛まれた傷に効果がある” と信じられていたことを表すという。リアルとファンタジーがしれっと共存しているようで面白い。
この章では、『ハリー・ポッター』シリーズに登場する、人の形をした不気味な植物「マンドレイク(マンドラゴラ)」についても豊富な展示が用意されている。ロンドンのサイエンス・ミュージアムが所蔵する《マンドレイクの根》も見ることができるので、お見逃しなく。
螺旋階段の上に飾られたシャンデリアとステンドグラスは、旧館から移設された歴史あるものだ
ここで、3階展示室から2階展示室へ移動。螺旋階段の壁の一部には、東京駅創建当時の古いレンガや鉄骨が重要文化財として残されており、雰囲気たっぷり! ちょっと日本版の魔法魔術学校にいるかのような気分に浸れる。なお、ホグワーツと違ってこの階段は動かないのでご安心あれ。
第5章 呪文学
第5章の呪文学エリアは、『ハリー・ポッター』ファンにとっても魔法マニアにとっても、ともに見どころが多い。展示はまだこれで折り返し地点を過ぎたばかりなので、鑑賞時はペース配分にお気をつけて……。
左手前:J.K.ローリング《ダイアゴン横丁の入り口のスケッチ》1990年 J.K.ローリング蔵 右奥:ジム・ケイ《ダイアゴン横丁のスケッチ》ブルームズベリー社蔵
左は、J.K.ローリングが描いた「ダイアゴン横丁の入口」のスケッチ。傘でレンガをトントントン、と叩くと道が開けるアレである! 魔法が作用してレンガが動く姿を、6段階に分けて具体的に描いている。作者のイメージする力の強さに驚くばかりだ。さらに奥には、ジム・ケイによるダイアゴン横丁全景の精緻なスケッチが続く。
会場風景
サラッと置かれているけれど、中央の紙切れ(板?)のようなものは、4世紀のパピルスだ。時代のスケール感が大きすぎて、くらくらする……。これは古代ギリシャの魔法手引書の一部で、魔法の指輪の作り方が記されているという。
中央:ジム・ケイ《クィディッチをするハリー・ポッターとドラコ・マルフォイの習作》ブルームズベリー社蔵 上:『オルガ・ハントの箒』魔術・魔法博物館蔵
黄金のスニッチがぶんぶん飛び回る、凝った映像演出の一角も。クィディッチの試合をするハリーの絵の真上には、デボンシャー(イギリス)に住んでいた魔女オルガ・ハントが所有していたというホウキが展示されている。魔術・魔法博物館によると、オルガ・ハントは満月の夜になるとこのホウキに乗って空を飛んでいたのだそうな。
第6章 天文学〜第7章 占い学
さて、第6章の天文学と第7章の占い学は、多くに人にとって比較的なじみの深い分野ではないだろうか。個人的には、天文学の展示室に足を踏み入れた瞬間、興奮でキャーッと悲鳴が出そうになった。
左:ヨハン・ガブリエル・ドッペルマイヤー『天球儀』ニュルンベルク、1728年 大英図書館蔵 右:ジェームズ・シモンズ、マルビー&カンパニー製『大太陽系儀』ロンドン、1842年 国立海事博物館(ロンドン)蔵
手前が18世紀の天球儀、奥に見えるのは19世紀に作られた大太陽系儀(だいたいようけいぎ)だ。天球儀はフェルメールの絵画《天文学者》にも登場したり、ちょくちょく目にする機会があるものの、太陽系儀というものは今回初めて目にすることができた。この装置で、太陽系の水星・金星・地球・火星・木星・土星と、その衛星の動きを再現することが可能だという。いつか実際に動かしてみたいものである。

会場風景
頭上に漂うティーカップが可愛い、占い学のエリア。壁には『ハリー・ポッター』シリーズで占い学を担当するトレローニー教授の肖像が掲げられている。水晶玉や魔法の鏡、手相占いの手引きなど、興味深いものが多いが、特に気になるのは “茶葉占い” グッズだ。

左:『茶葉で未来を判断する方法』マンドラによる中国語からの翻訳 スタンフォード、1925年頃 大英図書館蔵 右:パラゴン社製『運勢を告げるティーカップとソーサー』ストーク=オン=トレント、1932-39年頃 魔術・魔法博物館蔵
ティーカップに残った茶葉の “澱(おり)” の模様で未来を占う“茶葉占い”は『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』にも登場する。驚くほどパターンの分類が細かい上に、予言も妙にピンポイントだったりするのが面白い(例えば「海軍に興味を持つようになる」など)。写真左の手引書によれば、この占術の歴史は紀元前229年の中国にまでさかのぼるという。
第8章 闇の魔術に対する防衛術〜第9章 魔法生物飼育学
左:ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス《魔法円》1886年 テート蔵 右:ジム・ケイ《ハリー・ポッターとバジリスクの習作》ブルームズベリー社蔵
続く第8章、9章では、ラファエル前派の画家ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの作品2点が展示されているのに注目したい。闇の魔術に対する防衛術の章(第8章)では、杖で足元に円を描く人物を描いた《The Magic Circle(魔法円)》が妖しい存在感を放っている。魔女の描かれ方としては珍しく、若くスタイルのいい女性の姿で描かれているあたりは、さすがウォーターハウスらしい。
左:『動物寓話集』フランス、13世紀 大英図書館蔵 右:ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス《人魚》1900年 ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ蔵
そして魔法生物飼育学の章(第9章)では、同画家の《A Marmaid(人魚)》という美しい作品に出会える。長い髪をとかすセクシーなこの人魚のすぐ近くには、日本の瑞龍寺が所蔵している《人魚ミイラ》も展示されているので要チェックだ。東西の人魚の捉え方の違いに衝撃を受けよう。
左:ジム・ケイ《ヒッポグリフのバックビークの習作》ブルームズベリー社蔵
この章では他にも『ハリー・ポッター』シリーズに登場する魔法生物のイラストや、その生態を伝える古文書が豊富に展示されている。『ハリー・ポッター』シリーズのスピンオフである『ファンタスティック・ビースト』シリーズが好きなら、特に心が躍る章である。ちなみに、本展のメインビジュアルにも採用されている、ジム・ケイによる鮮やかな不死鳥のスケッチが見られるのもここだ。
第10章過去、現在、未来
最後の展示室では、作者による書き込み入りの書籍や原稿、手書きのプロットシートなどを通じて、『ハリー・ポッター』の世界が作者の脳内から世界中に広がっていく様子を知ることができる(つくづく、英語の筆記体を読むことに日頃から慣れておけばよかったと思った)。2022年に日本で上演される舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』のロンドン版衣装も展示され、今後の展開を大きく期待させてくれる締めくくりだった。
世界中の「ハリー・ポッター」小説 1997-2017年
展示室を進みながら「ロマンだなぁ」と何度も胸のときめきを噛みしめた。呪文ひとつ、道具ひとつの全てに、意味と歴史があるのだ。それらは幻想と現実の間にあって、つくりごとと一蹴するにはあまりに力強くて、心が動く。本展は全てのファンタジーの根底にある “強く信じる力” を見せつけてくれる、知的で贅沢な展覧会である。
個人的なイチオシは、呪文学の章にあった「透明マント」(個人蔵)の展示だ
『ハリー・ポッターと魔法の歴史』展は、2022年3月27日(日)まで、東京ステーションギャラリーにて開催中。なお本展は日付指定の事前予約制となっているため、来場する際には事前に日付指定のチケットの購入をお忘れなく。

文・写真=小杉美香

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