田所あずさ『箱庭の幸福』リリース記
念インタビュー「心がゆれた瞬間を楽
曲で表現していきたい」

2014年に音楽活動をスタートし、2021年1月にリリースしたアルバム『Waver』では自身初のセルフプロデュースにも挑戦した田所あずさ。そんな彼女の次なる一歩となるデジタルシングル「箱庭の幸福」を2022年1月5日にリリースすることとなった。2022年1月より放映開始となるアニメ『リアデイルの大地にて』のエンディングテーマとしてタイアップされている本楽曲。彼女はどんな想いを込め、いかにしてこの楽曲を制作製作したのか。そして、彼女が音楽を通して表現したことはなんなのかを訊いた。

――2021年1月にセルフプロデュースでリリースされたアルバム『Waver』を経て今回、デジタルシングル「箱庭の幸福」がリリースとなります。まず最初の質問なのですが、田所さんにとって2021年はどんな年だったのでしょうか?
ありがたいことにバタバタとさせていただいた一年でした。音楽面でも声優面でもいろいろと活動をさせていただいて、すごく充実したて幸せな一年でしたね。
――コロナ禍で仕事が減るといったこともあまりなかったと?
そうですね。アフレコなんかも人数制限をしてやっていましたし、ラジオも稼動していましたから。ただ2020年の、世の中全体が自粛ムードだった時期は一時的に現場もストップしていました。
――2020年ということはちょうど『Waver』の制作を行なっていた頃ということになりますね。
はい、なので『Waver』は集中して、しっかり音楽と向き合って制作できたアルバムになったと思っています。初めてのセルフプロデュースアルバムだったのでしっかり腰を据えて作業ができたのでタイミングがよかったというか。
――『Waver』はこれまで田所さんの音楽をプロデュースしていた方が退職されたのをきっかけに、自身でのプロデュースをすることになったと話をされていましたが、それ以前から自身でプロデュースをしたいという想いはあったのでしょうか?
明確に「やりたい!」という気持ちがあったわけではないのですが、そういう気持ちが芽生えつつあったといいますか……音楽活動を始めて年数を重ねていく中で、徐々に自分が音楽で表現したいものはなんだろう? とぼんやりと考えるようになっていたんです。そんなタイミングで音楽プロデューサーの方が退職してしまったので、ここは一つ、このぼんやりと考えている表現したいものを一度形にするのもいいかもしれないと思ったんです。
――なるほど、音楽を続けていく中で徐々に自分の中にやりたいことが芽生えてきていたと。
音楽活動を開始した頃はそんなこと思いもしなかったんですけどね。目の前に来た楽曲を形にするだけで精一杯でしたから。それがやっているうちに段々と、自分が本当に音楽で表現したいものは今やっていることではないんじゃないか、なんてことを考え始めていて。それでちょっとモヤモヤしたりもしていたんです。
――なるほど。そのモヤモヤとこのタイミングで向き合う決心をしたところからセルフプロデュースがスタートしたんですね。
そうなんです、このモヤモヤをちゃんと自分の言葉にして、人に伝える。その上で自分のやりたい音楽を見つめ直してやりたい音楽を作っていく。そういうことをやるべきタイミングがきたと思い、セルフプロデュースが始まりました。
田所あずさ『箱庭の幸福』
――実際に当時、田所さんの中にあった音楽で表現したいものはどんなものだったのでしょうか?
音楽を通して自分自身の心のゆらいだ瞬間を表現したい、という気持ちがすごくあったんです。自分自身が日々疑問に思ったことだったり、感情が動いたこと、それを音楽にのせて伝えたい。
――ということは田所さんには日々、心がゆらぐ瞬間が頻繁に訪れる瞬間がある。
そうですね。これは『Waver』でも多くの歌詞を担当してくれている大木(貢祐)さんに言われて気付いたんですが、私は目の前の物事に対して立ち止まって考え続ける性質があるんです。目の前のことを簡単に飲み込まないで、立ち止まってじっくり考える。そうすると疑問が湧き上がってきて心がゆらぐんです。
――そういった心のゆらぐ瞬間を曲にして集めたものがアルバム『Waver』というものになったと。
それでタイトルも「ゆらぐ」という意味で『Waver』ってタイトルになっています。
――そんな『Waver』ですが、サウンド感も一新されているのをすごく感じました。
サウンド感は、私の中に具体的にこうしたい、ということがあったわけではないんです。ただ、私自身の声の魅力を一番引き出すことのできる曲にしたい、という想いが大本にあったんですね。それをプレゼンしたところ、それを受けて(神田)ジョンさんが一緒にどんな曲がいいのかを考えてくださって。その結果出来上がったのが『Waver』のサウンド感でした。
――その時にお話しされた、田所さん自信が考える自身の声の魅力はどんなところだったのでしょうか?
低音の部分に魅力があるんじゃないかということと、声に憂いがあるということですね。歌の仕事を始めた頃は、そんなことを思っていなかったんですけど、いろんな歌を歌っていく中でだんだんとそういった自分の声の魅力や特徴を感じるようになったんです。声優というお仕事をさせていただいていると、キャラクターソングを含めて本当にいろんな歌を歌わせていただくことになるんですけど、そうすると自分の声に対して見えてくるものも色々あるんです。
――いわゆるキャラクターソングで、本来の自身の声とは違うところから、自身の声というものと向き合うことができたと。
本当に真剣に考えました。自分でも考えるし、周りの人にも「私の声の魅力ってどこだと思いますか?」というのはたくさん質問もしました。自分では気付けていないところも、たくさんあると思っていましたから。
TVアニメ『リアデイルの大地にて』 (c)2021 Ceez,てんまそ/KADOKAWA/リアデイル製作委員会
――そんな田所さんの新境地である『Waver』から、次なる一歩としてリリースしたのが今回の「箱庭の幸福」になります。こちらかなり『Waver』の流れを汲んだ楽曲という印象を受けました。
最初はアニメ『リアデイルの大地にて』のタイアップ曲としての依頼をいただいて、それ以外は何も指定がなかったんです。そこでイチから曲を作ることになった時に、どうせなら『Waver』を経た私の音楽表現というところをきちんと見せたいと思って制作をスタートしました。それでまずは『Waver』の時にお世話になった、ジョンさんと大木さんにお声かけをして集まって、さてそこからどうしよう、というところからスタートしました。
――やはり今回の楽曲を制作するにあたって、お二人の協力は必須だったと。
そうですね。お二人とも本当に私のことをよく理解してくださってくれる方々で、私がこうしたいという想いをジョンさんは曲に、大木さんは歌詞に的確に落とし込んでくださる。そのうえ、私が気付けていない私自身のことを気づかせてくれる方々なんです。新曲を作るにもやはりお二人の協力は欠かせないと思ってお声掛けしました。
――そして制作する面々が揃い実際に制作に入っていくわけですが、最初はどういったどういったところから決めていったのでしょうか?
まず曲を作るにあたって、決めたのが『Waver』の時と同じように私の心のゆらいだところを曲にしようということ。それを今回のタイアップである『リアデイルの大地にて』の原作を読んだ時のゆらぎでやってみようということを決めたんです。それが自分にとっても作品に対しても誠実なやり方だと思ったので。
――なるほど。実際に作品を読んだことで田所さんに心のゆらぎが訪れた。
それで今回、私の心がゆらいだのが、幸せってなんなんだろう、ということでした。『リアデイルの大地にて』では主人公のケーナちゃんは、ずっと入院していて、現実では思うように生きられなかったんですけど、大好きなゲームの中に転生することができて、そこでは穏やかに暮らすことが出来ていて、幸せそうで。でも、それでもケーナちゃんがどこか寂しさを抱えている気がしたんです。
――思い通りにいくことだけが本当の幸せじゃないのではないか、ということですね。
そうなんです。思いがけない、良いことも嫌なこともひっくるめて本当の幸せっていうものが浮き出てくるんじゃないかと思ったんです。だから幸せになるためには、嫌なことを引き起こす人を排除してはいけないんじゃないかと思って。だから今回の曲が一番伝えたいメッセージは「あの子にいてほしい」。
――ということは歌詞に出てくる「あの子」は「嫌なことを引き起こす人」ということになる、と。
はい。嫌なことも、いいことも。「箱庭の幸福」に登場する主人公は、自分の好きなものだけを自分の周囲に集めようとしている。そこに「あの子」が登場してバケツで水をこぼしてしまう。それでケンカしたり、仲直りしたり、そういうこともひっくるめて、思いがけないことを連れてきてくれる他者との関わりありの中でしか、幸せは生まれないんじゃないか、そういう歌詞になっています。それで「ひとりでしあわせになるのはむずかしいね」と締めくくっているんです。
――改めてお話し伺って、歌詞が描き出す情景がくっきりと浮かびました。そんな物語をのせる楽曲がまたすごく美しいものに仕上がっていますね。
楽曲はジョンさんに「甘いお菓子のCMソング」みたいな感じ、と伝えて作っていただいたているんです。優しくて癒やされるような、絵本のような感じの曲がいいとお話をしたんですけど、出来上がったものを聴いたら本当に気持ちのいい曲で。なんか空気のキレイな感じをすごく印象としてうけましたね。
――空気の綺麗さ、という印象はやはり『リアデイルの大地にて』の作品世界の印象を踏襲されたのでしょうか?
それもあるのと、あとジョンさんがこの曲を避暑地で書いたって言っていたのでそれも反映されているんじゃないかと思っています(笑)。
――なるほど、避暑地の印象も入っているんですね(笑)。そんな今回の楽曲、リズムを田所さんの歌が曲全体を引っ張らないといけないところもあって、歌うのが難しいのではないかと感じました。
歌うのに集中力のいる曲でしたね。Aメロとか特にそうなんですけど、言葉をリズムに合わせてきちんと置いていかなければいけないし、音数も少ないのでごまかしも効かない。本当に難しかったです。あと歌う時の気持ちの持って行き方も絶妙なんですよ。幸せすぎず不幸すぎず、すごく絶妙なバランスで歌わなければいけないので。
――確かに歌の世界にどれだけ感情移入して歌うのか、もまた難しい曲ですよね。
寄り添いすぎず、離れすぎずなんですよね。「箱庭の幸福」には絵本のイメージもあったので読み聞かせるぐらいの距離感で歌っています。本当に今回曲も歌詞も素晴らしいものができたと思っているので、「ここで私が下手な歌を歌えない……」ってすごく緊張しました。ジョンさんと大木さんに励まされながらなんとか歌い切ることができた感じでした(笑)。
『箱庭の幸福』
――そうして無事完成した楽曲ですが、さらにMVも印象的なものに仕上がっています。撮影はいかがでしたか。
撮影している時は、どんなMVが出来上がるのか想像できてなくて、言われるままに撮影していく感じではあったんです。ただ、監督のこれまでの作品を見て、お任せすれば絶対にいいものが出来上がる、という確信はしていましたから言われるがままに、という感じでした(笑)。
――実際に出来上がった映像は、楽曲の世界観にすごくマッチしていますよね。改めて完成したMVを見た印象はいかがでしたか?
すごく絶妙な、ちょうどいいバランスのMVになったと思っています。一見、普通の映像だけどよく見ると現実には起こり得ないことが画面の中で起こったりしていて、でもそれが仰々しくないからすんなり見れる。「箱庭の幸福」は幸せについての歌だけど、MVは幸せ満タン、という感じじゃなくてむしろちょっと冷たい感じになっているのも気に入ってます。
――そこに登場する田所さんの赤いドレスも目を引きますよね?
赤いドレスというのは監督からの指定で、それにスタイリストさんが何着か候補を出してくれて選びました。今回のドレスはボタニカル柄(木の葉、草、実などをモチーフにした少し落ち着いた柄のこと)がすごく素敵で、自然なモチーフの柄なのに色は非日常を感じさせるビビットな赤、というアンバランスさも今回のMVにぴったりだな、と思いました。あと、実は足下スニーカーなんですよ(笑)。ここもまたドレスに対して外しが効いていていいな、と思っています。
――なるほど。そしてお話は少し戻ってしまうのですが、改めて『Waver』を経て今回の「箱庭の幸福」に至るまでを伺って、田所さんがどんな音楽の影響を受けたのかということが気になりました。普段はどんな音楽を聴かれているのでしょうか?
もともと、いろんな音楽を聴くタイプではないんです。普通にJ-popを聴くという感じで。ただやはり音楽活動、特に『Waver』でアルバムプロデュースをするにあたって、もっと知見を広げたいと思って、教えてもらいつついろんな音楽を聴くようになりました。今は絶賛勉強中って感じです。
――そうすると今も色々な音楽と出会い、影響を受けながら新しくやりたい音楽を模索し続けている。
そうですね。バンドを組んでいるわけではないので、むしろ色々な曲をやらせて貰える機会がある分、色々な要素取り入れちゃおうぜ! みたいな感じで考えています。
――すると今後、田所さんがどんな音楽ジャンルに挑戦するかはご自身にとっても未知数だと。
はい、ただ一つだけはっきりしているのは、あくまで私がやる音楽はメッセージが先行したものであり続けるということ。気持ちがゆれる瞬間をきちんとつかまえて、それを歌にしていきたい。それがどんな音楽ジャンルで出てくるかは、その時に表現したいメッセージによってくるかとは思ってます。
――ますます、今後どんな楽曲をリリースされるのか楽しみになりますね。
私自身も楽しみです(笑)。ありがたいことにジョンさんも大木さんも「早く次の曲がやりたい」と仰ってくれているんです。早くそれを形にする機会が訪れるといいな、と思っています。あと、ジョンさんが「ころあずにこういう曲があうと思うんだよね」なんてことも言っていたので、そういった要素も今後は入ってくるんじゃないかな、と(笑)。

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