ブロードウェイで最も愛されたダンサ
ー~「ザ・ブロードウェイ・ストーリ
ー」番外編

ザ・ブロードウェイ・ストーリー The Broadway Story

番外編 ブロードウェイで最も愛されたダンサー
文=中島薫(音楽評論家) text by Kaoru Nakajima
 ブロードウェイの黄金期に活躍した、ダンサー&歌手、俳優のハーヴィー・エヴァンスが昨年(2021年)12月24日に亡くなった(享年80)。本連載の番外編で取り上げた、『ウエスト・サイド・ストーリー』や『フォリーズ』特集でも紹介したので、御記憶の方もあるだろう(下記連載一覧参照)。温厚な性格ゆえ誰からも慕われたパフォーマーで、訃報を受けたチタ・リヴェラ(『ウエスト・サイド~』初演で共演)やバーナデット・ピータースら大スターが、彼の人柄と才能を称えた。ここではエヴァンスへのインタビューを交え、その生涯を辿り追悼を捧げたい。

■ボブ・フォッシーに見出される
フォッシー・スタイルで踊る、『ニュー・ガール・イン・タウン』(1957年)のエヴァンス(左端)。中央はグウェン・ヴァードン Photo Courtesy of Harvey Evans

 一般的知名度は低いものの、業界内での評価は抜群。天才と謳われた振付師、ボブ・フォッシーとジェローム・ロビンスに認められたのだ。その実力は推して知るべし。4歳で踊り始め、やがて故郷シンシナティで上演されたツアー公演のミュージカルに魅せられたエヴァンス。ショウビズの世界で実力を試すため、10代で単身NYへ。オーディションを受けまくり、最初に合格したのが、フォッシー振付の『くたばれ!ヤンキース』だった(1956年の全米ツアー)。
「当時、飛ぶ鳥を落とす勢いのフォッシーに見出されたのはラッキーだった。後年彼は、自分のダークサイドを敢えてさらし出し、踊りも退廃度を増したよね。でもあの頃は、コミカルかつ開放的で、スケールの大きいナンバーも創作していた。振付がバラエティーに富んでいたんだ。加えてフォッシーは、彼のミューズとなるダンサー、グウェン・ヴァードンと付き合い始めた頃でね。人生で最も充実した、幸せな時期だったと思うよ」
『ニュー・ガール~』リハーサル中のボブ・フォッシーとヴァードン。中央がエヴァンス Photo Courtesy of Harvey Evans
 エヴァンスは、映画版『パジャマ・ゲーム』(1957年)を始め、ブロードウェイではヴァードン主演の『ニュー・ガール・イン・タウン』(1957年)と『レッドヘッド』(1959年)に出演。初期のフォッシー・スタイルのユニークさ、楽しさを伝えるのに貢献した。

■すべての基本は演技力
 そしてエヴァンスにとって、生涯の代表作となったのが『ウエスト・サイド・ストーリー』だ。彼は、1957年のブロードウェイ初演と映画版(1961年)に出演。ジェローム・ロビンスの原案・振付・演出によるこの傑作との出会いが、その後の人生を大きく左右した。
「初演の通し稽古を観る事が出来た。衝撃だったね。移民間の抗争と差別問題を生々しく描くテーマは重いけれど、それに相反するようにレナード・バーンスタイン(曲)とスティーヴン・ソンドハイム(詞)の楽曲は詩的で美しい。それまでに観た事のない、とてつもなく斬新な作品だったよ。どうしても参加したくて、プロデューサーのハロルド・プリンスに頼み込んだら、オーディションのチャンスをくれた。それでジェット団のメンバーでの出演が叶ったんだ」
映画『ウエスト・サイド物語』(1961年)。エヴァンスは、後列左から2番目 Photo Courtesy of Harvey Evans

 決して妥協を許さず、稽古場では暴君と化す事もしばしば。初演に続き映画版でも、ロビンスの洗礼を受けたエヴァンスは、彼の演出術をこう語る。
「ジェロームは、フォッシーのような明確なダンス・スタイルを持たない代わりに、その幅が広い。つまり、作品のテーマや登場人物の感情に応じて、振付が自在に変化する。『なぜ踊るのか』という基本的なモチベーションを、彼ほど真剣に突き詰めた振付師はいないだろうね。確かに、聞きしに勝る厳しさだったし、完璧を求めるあまりパフォーマーへの要求も大きかった。でも、『歌、踊り、芝居の3つを分けて考えない。すべては役柄の感情ありきで、それを表現する演技力が備わっていなければ生き残れない』という鉄則を、ジェロームとの仕事で痛感したんだ。すぐに演技コーチの許に駆け込んだくらいだよ」
 ちなみに映画版でエヴァンスは、ジェット団の中では比較的目立たないマウスピース役。しかしオープニングの〈プロローグ〉や〈クール〉で、長身をフルに生かしたダイナミックなパフォーマンスを披露している。また、〈プロローグ〉に続いて歌われる〈ジェット・ソング〉は、彼のクローズアップで終わるので要注目だ。
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■伝説のパフォーマーから学んだ事
 振付師のみならず、往年のスターたちと仕事をする幸運にも恵まれた。映画「絹の靴下」(1957年)ではフレッド・アステアのバックで踊り、TV「ジュディ・ガーランド・ショウ」(1963~64年)にもダンサーとして出演。ソーントン・ワイルダーの戯曲『わが町』(再演/1969年)では、名優ヘンリー・フォンダ(映画「十二人の怒れる男」)と共演を果たす。
「アステアは、一日に2~3時間しかリハーサルしなかった。見た目はただの気難しいお爺さんで、近寄り難かったなぁ。ところが撮影当日になると、トップハットに燕尾服を粋に着こなして颯爽と現れ、御機嫌そのもの。30歳は若返っていた(笑)。つまり彼は完璧なプロだから、本番で全てを出し切るべく、エネルギー配分を計算していたんだ。
「ジュディ・ガーランド・ショウ」(1963~64年)で踊るエヴァンス Photo Courtesy of Harvey Evans
 ジュディからは、歌う時は正直であれと教わった。歌詞の意味を汲み取って、余計な解釈は加えずにストレートに歌う。彼女は特に、別れのバラードが上手かった。淡々と歌いながら深い悲しみを表現して、観客の心を一瞬にして捉えてしまう。その説得力には脱帽したね。
『わが町』再演(1969年)のヘンリー・フォンダ(後方)とエヴァンス Photo Courtesy of Harvey Evans
 フォンダは、舞台特有の大仰な芝居を嫌った人だった。これは、彼の映画を観れば明らかだよね。演じているあざとさを一切感じさせない。リハーサルでは常に、『無駄を削ぎ落しなさい』と忠告されたものだよ。これは、今も肝に銘じているんだ」

■実り多きショウビズ人生
『バーナム』ツアー公演(1982年)の一場面 Photo Courtesy of Harvey Evans

 以降は、1971年に『フォリーズ』初演に出演。1980年代は、サーカス王の物語『バーナム』と、『ラ・カージュ・オ・フォール』の全米ツアーで主演し好評を博した。90年代に入ると、『サンセット大通り』(1994年)で、アンサンブルの一人として性格俳優的な役柄を幾つも演じ分ける。また映画では、ディズニーのミュージカル映画「魔法にかけられて」(2007年)で、NYのセントラル・パークで展開するナンバー〈想いを伝えて〉に、シニア・グループの一員で出演。実に楽しそうに踊っていた。さらに近年まで、『ウエスト・サイド~』に関するイベントやトーク・ショウへの出演も多数。彼は、自らのキャリアをこう振り返る。
「主役を演じたかと思えば、次はその他大勢のバックダンサーや、セリフの少ない端役に逆戻り。上がったり下がったりのキャリアだったけれど、何の不満もない。コンスタントに仕事を続けられたからね。そりゃ経済的危機は何度もあった。でも、いつもギリギリのところで次の舞台が決まるんだ。本当に恵まれていたよ」 
『ラ・カージュ・オ・フォール』の全米ツアー(1987年)で、主役のアルバン/ザザ役を演じる。 Photo Courtesy of Harvey Evans

 私が、初めてエヴァンスにインタビューしたのは16年前。常に笑顔を絶やさず、惜しみなく貴重なエピソードを披露するサービス精神と、愛すべき人柄に魅了され、その後何度取材した事か。遺作となったのが、奇しくも『ウエスト・サイド~』だった。2022年2月11日公開のスティーブン・スピルバーグ監督版に、何とデパートの警備のおじさん役でカメオ出演。役の大小には一切こだわらず、「参加出来るだけで幸せ」と語っていた彼に相応しい最期だった。合掌。

ハーヴィー・エヴァンス(1941~2021年)

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