映秀。人生初の全国Zeppツアーで紡い
だ音ノ葉、響かせたソウル 「This i
s EISYU」東京公演レポート

映秀。1st Tour「This is EISYU」 2021.12.18 Zepp Haneda(TOKYO)
映秀。のファースト・ツアー「This is EISYU」。昨年・2021年12月に名古屋・福岡・大阪・東京・札幌の全国5都市のZeppを回ったこのツアーは、パンデミック下でのデビューとなった映秀。にとって人生初のライブツアーであり、観衆の前でバンドと共に自身の音楽を体現するという意味でも初めてのステージだった。そもそもは弾き語り動画を機に広まった、つまりはネット時代のアーティストらしい経路で世に出てきた映秀。ではあるけれど、彼が自分の人生を選択する大きなきっかけとなったのは、自らの生き様を体現するかのように歌い鳴らす某バンドのライブを生で目撃し、その生き方を震わせられるほどの衝撃を受けたこと。常々「誰かの人生のきっかけになりたい」と語る映秀。の原点はライブでの体験にあり、だからこそ、自身の音楽をダイレクトにあなたに向かって放つこの初めてのツアーは、彼にとって大きな意味を持つものだったに違いないだろう。
実際、とても鮮烈だった。時に、湧き上がる衝動に突き動かされるがままバンドと共に激情的に歌い鳴らし、時に、その胸に抱える想いをひとつも零さず歌に託すかのごとくじっくりと音ノ葉・言ノ葉を紡ぎ、そうやって今の自身の表現を最大限に解き放っていったステージは、そのツアータイトル通り、映秀。とは何たるかを雄弁に物語っていた。
本稿では12月18日、Zepp Hanedaでのライブを振り返りながら、それを綴っていきたい。
暗転し静寂が降り落ちる空間の中、ステージを覆う紗幕に幾何学的なイメージのアニメーションが映し出され、秒針のようなリズムと繊細なピアノのフレーズが静かに時を紡ぎ始める。次第に折り重なってゆく様々な音の粒子が厳かに会場を満たしたあと、一瞬の静寂を置いて映秀。の歌声がそっと光を灯すように響きわたり、ライブはスタートした。<僕が何者かは僕自身が決めるんだ>と歌うその曲は、デビューアルバムの1曲目に収録されていた「零壱匁」だ。
柔らかなミックスボイスを心地よく響かせ、自らの決意を今一度確かめるように一語一語丁寧にその“始まりの歌”を歌い切ると、ギターを手に取り、自身がかき鳴らす力強いギターのカッティングを合図に2曲目の「反論」へ。紗幕が落ち、先ほどとは一転してパワフルなバンドサウンドを轟かせながら一気にトップギアに持っていく。<もしも君の大切な人が明日紅く散ったとしたら/時を戻せやしない事 そのくらいはもうわかるだろ?/全全全部ぶっ飛ばして 己の音 掻き鳴らして行け>——歌詞に託した想いを全身で表すように、激情的に歌い叫ぶ姿に惹きつけられる。その勢いをさらに加速させるようにして、「生命の証明」、「誰より何でしょ 人より事よ」と、他の誰でもない、自分自身の手で人生を大きく動かし始めた彼の根底にある意志を歌い鳴らす楽曲を続けざまに披露。映秀。自身が震源となってステージ上からダイナミックに放たれていく音楽のエネルギーが、あっという間にフロアを掌握していく。
今回のセットリストは2021年にリリースした2作、ファーストアルバム『第壱楽章』とセカンドアルバム『第弐楽章 -青藍-』から編まれており、それは必然的に「映秀。が何故音楽を作り歌うのか」ということの核にある想いとアティチュードが表れたものになっていたが、音源よりも遥かに奔放にパッションを迸らせていく、その歌と演奏自体に彼が音楽に臨む気概が色濃く表れていて、とてもエモーショナルだった。
ハンドマイクで自由に音の波に乗り、自分を見失いそうになる弱さや葛藤を吐露する一方で、生きることの歓びを音階やリズムに託した多幸感溢れるサウンドスケープの中で解き放たれるように歌い上げた「第弐ボタン」、「失敗は間違いじゃない」の眩いエネルギー。心地よく横にスウィングするリズムに身を揺らし、客席からのハンドクラップもその音楽の一部に取り込みながら美しい歌声を響かせた「砂時計」の、過ぎゆく時にひとり佇む寂寥の中に確かなぬくもりを感じさせる表現。スパニッシュなギターが耳を引くイントロに始まり、ファットなベースラインが生み出すグルーヴに乗ってラップを披露しながら、混迷極まる時代に対する失望と憤りを吐き出すように歌った「諦めた英雄」の、当事者として社会に問いかけていく目線——。
ジャンル関係なく音楽を吸収してきた世代らしく、ロックにR&B、フォークにジャズにヒップホップと、様々な音楽のエッセンスを自在に乗りこなしながら紡がれるバラエティ豊かな映秀。の歌は、けれど、どの曲も愚直なまでに彼が今生きている中で思うこと、惑い悩む心の内や直面する問題、そしてその上で自分はどう生きようとしているのかについて歌われている。コンポーザーとしては全方位的にアプローチできるだけのクレバーな能力を持っている作家だと思うのだけど、それ以上に、その剥き出しの歌の在り様こそが映秀。の本質であり大きな魅力であることを、ライブを観ているととても強く感じる。
オンラインであらゆるコミュニケーションが取れると錯覚しがちな時代に、それでも直接あなたと顔を合わせて歌うことの意味、その大切さと楽しさを、他ならぬ自分自身がこのツアーをやって実感することができたと話した後、ひとり弾き語りで<少しでも少しでも残るように/音に音 乗せて歌うよ/明日のあなたが思い出すように>と丁寧に歌いかけた「音ノ葉」。その後、後半戦は「僕の大親友です」と紹介したピアニストのCateen(かてぃん)こと角野隼斗も交えた7人編成でのライブに。角野が奏でるグランドビアノの繊細なフレージングと映秀。の歌のみで始まる形にリアレンジされ、静と動、哀しみと激情をよりダイナミックに行き来しながら次第にリミッターを振り切って感情を爆発させていった「共鏡」は、観る者を圧倒するだけの強さを宿した表現を獲得していた。
このツアーのために作られたアニメーションと共に彼の歌の中でも極めて懐の深いメロディを響かせながら、自分と異なるものを排除しようとするこの世の風潮に抵抗する「笑い話」をじっくりと歌い上げたあと、そのアウトロからシームレスに繋がる形で披露された「喝采」では、白熱するバンドサウンドに触発されて激しいヘドバンを見せる一幕も(ちなみに「笑い話」から「喝采」へと繋がるシーンで背景に映し出されたアルバムのアートワークにもなっている模様は、彼の音楽を描き表した“図形楽譜”だそう)。さらに、続く「ハ茶メ茶オ茶メ」ではステージを右に左に飛び回りながらパフォーマンスしていたのだけど、テンションが上がり過ぎたあまり1番の歌詞を2度歌ってしまったことを自己申告し、客席から笑いが溢れる場面も(笑)。これらの曲に限らず、ファーストツアーという初々しさも含め、今回のステージでは思わず感情が先走ってしまうような瞬間は数多く見られたのだけど、そうやって全身で音楽と取っ組み合い、全身で歌の魂を体現しようとしているかのような、その生々しい感情とエネルギーの発露が印象的だった。作品を重ねる度に彼が生み出す楽曲は自身の内面をより鋭い筆致で映し出すものへと深化していっているのだけど、この日のライブを観て改めて、その表現は映秀。という一人の人間の人生と、彼が対峙し切り取る今この世界のドキュメントでもあるのだと感じた。
本編最後に演奏されたのは、彼が初めて世に放ったオリジナル曲でもある「東京散歩」。アーティストとして本格的に自身の道を歩き始めたこの2年の間に出会った音楽仲間と共に、軽やかなリズムと七色のネオンカラーを纏いながら<最低で最高な世界を/明日じゃなくて 今日を生きろ/未来じゃなくて 今を生きろ/選んだ道に間違えはないから/今の足踏みは無駄ではないから>と晴れやかに歌う、その堂々たるパフォーマンスに客席から万雷の拍手が送られた。
再びバンドと共に登場したアンコールでは、映秀。のシャウトから「脱せ」を披露。即興的なフレージングを交えて情感豊かなプレイを魅せる角野のピアノをはじめ、巧みに緩急をつけながらスケールの大きなグルーヴを生んでいくバンドサウンドに乗って、どこまでも自由に躍動していく映秀。の歌。時に衝動のままに言葉を吐き出すように、時に心の深淵を覗き込むように、フロウも声音も自在に操りながら自らの歌を紡ぎ出していく様に耳も目も惹きつけられる。
「学べば学ぶほど『自分ってちっぽけかもしれない』みたいなことを痛感して、自己愛とか自尊心みたいなものが1回バーンと崩れ。より外の世界を見るようになったからこそ、自分の醜さに傷つく部分があったり、自分のプライドを剥がさないといけないなってことに気づいたんですよね。そうやって今の自分から脱しようとする度に、自分って何だろう?というところに立ち返って葛藤を繰り返しながら、曲を作っていった」——『第弐楽章 -青藍-』完成後のインタビューの際、「脱せ」という曲が生まれた背景をこんなふうに語った映秀。は、きっとこれからもそうやって自分自身と対話しながら音楽を生み出していくのだろう。
最後は、2年前のこの日に癌で亡くなったという父親への想いを重ね、特別に角野の奏でるピアノと共に「Good-bye Good-night」を歌い鳴らし、この夜を締め括った。<半世紀燃えた命の灯火を忘れぬように/五線譜に書き込んでいる><半世紀燃えた命の灯火はまだ鮮明に/音として今燃えている>——静かに、けれど万感の想いを込めて歌われたこのフレーズは、彼が父親に捧げたレクイエムであると同時に、この日のライブを観た後だからこそ、映秀。のアーティスト人生の始まりを示すものとして確かな説得力をもって、とても美しく響いた。彼がこれからどんな生をその音楽に記していくのか、より一層楽しみになる一夜だった。

取材・文=MUSICA編集長 有泉 智子 撮影=YutoFukada

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