高橋優の弾き語り武道館ライブ2Days
 人を信じる力と笑顔の普遍性に気付
かされた「白橋優の日」レポート

高橋優10th Anniversary Special 2Days「弾き語り武道館~黒橋優と白橋優」

2022.2.9 日本武道館【白橋優の日】
高橋優が、メジャーデビュー10周年のファイナルを一人、弾き語りで日本武道館のステージに立つことで、今とこれからを刻み込んだ2日に渡るライブ『高橋優10th Anniversary Special 2Days「弾き語り武道館~黒橋優と白橋優」』。本稿では2日目の「白橋優の日」をレポートしていこう。
公演に先駆けて、「「白橋優の日」は“ほんわか高橋”、路上時代から歌い続けてきた“笑顔”や“希望”へのメッセージ、光へのアプローチを全面にお届けします」とあったが、単純な二元論に終始しないことは初日を観た段階で明白に思えた。
センターステージを囲む会場全体が白っぽい。なるほど、この日限定のオフィシャルTシャツを着用したファンが多いせいだ。それだけでもムードが違う。開場BGMは初日と同じく、ニール・ヤングやボブ・ディランが流れ、ディランの「嵐からの隠れ場所」のエンディングとともに暗転。子どもから青年に成長していく高橋優の数々のスナップ、シンガーソングライターとして活動し始めてからの写真や作品のビジュアルが頭上のスクリーンに投影される演出も前日と同じだ。そこでステージに向かう直前の高橋をカメラが捉えると、前日の鮮烈な赤色から、白地に植物があしらわれたシャツ姿。大きな笑顔だが、リングに向かうボクサーのような引き締まった表情でもある。
東西南北の客席に深々とお辞儀をして、アコギを構えると「ありがとう」からスタート。他者の存在があってこそ、と届けたい思いも発生するという、表現者の原点を感じさせる。続けてハードなストロークに拍手が沸き起こった「現実という名の怪物と戦う者たち」。バンドアレンジとはまた違うアッパーさを作り出し、クラップもそれに連れてどんどんボリュームアップ。
歌い終わると、今の状況の中、足を運んでくれたファンに謝辞を述べ、2日間に分けたことの真意を「自分で黒橋とか白橋と思ったことはないけど、デビューして10年間やってこれたので、なるべくたくさん歌いたくて(分けました)。ちなみに2日間、1曲も被っておりません!」という発言に拍手が起きた。そして「長丁場になると思うので」と、着席を促し、じっくり歌に向き合うタームに突入。
伸びやかなメロディと素直なコードで歌が入ってくる「靴紐」、綿々と続くフォークシンガーの人生や日常の機微を表現するDNAを継承したような、その名も「life song」。イントロや間奏でハーモニカを吹きながら弾き語る姿は原点でもあり、これからさらに年齢を重ねてどんな味わいを増すんだろう?という想像をさせてくれた。「ここは西を向いて歌おうと思います」と、ステージが転回し、披露した「花のように」では、出だしから歌が風に乗って届いているような伸びを聴かせる。黒橋と白橋の違いはテーマの違いでもあるが、白橋のこの日の選曲はシンプルなアレンジに映えるメロディアスな曲が多いことは間違いない。主人公が成長していくプロセスを感じる流れで、やさしいアルペジオに導かれて「産まれた理由」が歌われた。音源のスケール感も素晴らしいが、どこまでもシンプルな弾き語りで核心が届く。1曲の中で子どものような視点も、そろそろ親になる世代の視点もスムーズにつながるこの歌。生きるとは何か?という大きすぎるテーマから少し解放してくれる温かさを味わえた。
閑話休題的に初日にも触れられたいちご大福など差し入れの話の続編を話す高橋。「九段下の4番出口のところにあったでしょ?」という問いかけに起きる拍手。なんでも2日目は初日の話題が波及したせいか、早々に完売。おじさんが箱から出す前の大福の購入を申し出ると、「今日もいい日になるよ!」とまさかの2日連続の奇跡のワードを受け取り、「お兄さん、もしかして有名な人なの? 昨日も今日も買ってくれたからおまけしとくよ」と言われたものの、炭水化物を抜いている高橋自身は食べられない。だが“食べない”と言うわけにもいかず、一番大事なのは“また会いに行くこと”ではないかと。なんとなく予感はあったものの、そこから「今、君に会いに行く」へつなげて行ったのだった。なんだか少し落語のまくらのようだと思った。ウエスタン調のアッパーチューンがMCも巻き込んで展開していく面白さ。
ステージが北向きに転回しての「蓋」はセカンドラインのビートをストロークで作り、一人きりの休日を日記的に綴る。一部歌詞をアレンジして《武道館に来てくれてありがとう。見たくなったら行くからね、君の街に行くからね》と歌い盛り上げる。日記的と言えば、続く曲は「8月6日」だった。告白からの1年のリアルと、随所に出てくる《緊張した》の素直さ。箇条書きのような歌詞だからこそ、各々の心に投影される情景が明快になる。さらにズシリと響いたのが前半のクライマックスとなった印象の「友へ」だった。一人ぼっち同士の誰か。でも、自分が彼のことをわかっていることが大事なんだ――個人的にはRCサクセションの名曲「君が僕を知ってる」を彷彿させる部分もあり、遠くにいる長年の友だちを思い出してしまう。
ほんわかどころか、きちんと重い内省の時間もありつつ、後半は初代マネージャーについてのMCで笑わせる。デビュー当時、言葉を省略せずに用いていた高橋は、プリクラはプリントクラブ、コンビニはコンビニエンスストアと発語していたが、あまりの高橋の固執ぶりに「コンビニはコンビニでいいじゃん!」と言われ歌詞を変更したという、「サンドイッチ」へ。カズーがユーモラスなムードを醸し、善行もちょっと残念なこともないまぜになった日常が届く。黒橋Dayにも感じたことだが、彼はどんなことでも歌にできる。まさにシンガーソングライターの強みを感じる。続く「微笑みのリズム」のタイトルコールで会場からクラップが起こり、歌う高橋にエネルギーを送る。まるで路上でリクエストされるがままに、どんどん歌っていくような自由なムードだ。
さて、初日に駆使されたループステーションは「虹」で威力を発揮した。とはいえ、ビートをループさせただけだが、ストラトに持ち替えたオルタナティヴなサウンドと相性がいい。アコギの弾き語りにはないタフな太さがある。サビ前の言葉の連なりで弾みをつけて、サビでさらに力を増す声に聴き入ってしまった。弾き語りは高橋のライフワークだと思うが、武道館という空間の隅々まで伝播するそれは、やはり鍛錬なくして成し得ない。ボーカリストとしての努力が具現化した曲でもあった。
息を整えて発された言葉は「見渡す限りのここにいる人の顔、幸せです。同じぐらいチケットを買ったけど、今日ここに来ないことを選んだ人もいる。今日、ここにいない人に届けたい歌です」と言い、「おかえり」を歌い始めたとき、本人もファンも同じ思いにとらわれたのだと思う。《ありがとう今ここにいてくれて》辺りで感極まったのか、高橋が流す涙にもらい泣きしてしまった。ラブソングでもあり、味方でいてくれる歌でもある曲がこんなに今の時期にリンクするとは。しかしそれこそが歌というものの可変的な魅力だ。感情を共有した空間に続いて放たれたのは「少年であれ」だった。前日も用いられた炎の演出がこの日はまるで焚き火のような趣きだったのも面白い。歌によって演出の見え方もまるで違うのだ。
「しっとりした曲が続いたんで、ここからはアゲアゲで行きますか! 立ちますか、僕も立ちます!」と、ストラトとビートのループのみにも関わらず、アメリカンロックテイストな広大さを表現した「one stroke」、ステージ前方へマイクスタンドを移しての「BE RIGHT」もオーセンティックかつエッジの立った、弾き語りスタイルのロックンロールに。ベースもドラムも存在しないのにバンドサウンドが聴こえるような錯覚が起きる。巻き舌気味の《ラタタタ、ラタタタ》を「心の中で歌ってくれー! 聴こえるぜ、武道館!」と、一気に熱量を増していく。ファンも全身で応えている。音の大きさや音圧じゃない。人の心を鼓舞するのは歌に込められたマインドだ。
会場のセンターにいる高橋にエネルギーが集約されたことが目に見えるほど高まったところに歌い始めた「明日はきっといい日になる」。アリーナからスタンドの上部まで誰もが全身で生きてる実感を表現している。電車の中で見かける日常の景色と、各々の人の事情。ほんの少しのやさしさに気づけたら、どんな毎日もそんなに悪くない――ありがちな表現と高橋の歌が一線を画すのは、その描写の丁寧さだ。人間不信にもなるけれど、どこかで人を信じることをやめられない。力強いロングトーンはそんな彼の原点をさらに遠くまで届けられる気がした。代表曲に続いて、近作である「Piece」を持ってきたのも効果的。やらない理由を探すより、誰かに出会い起こる奇跡。スケール感の大きなオリジナルを一つひとつのメロディの積み重ねで届けることはかなりチャレンジングだったろうと思う。
19曲を歌ってきた彼が感じたことは「歌ってて“会える”って大事なことだと思って。80まで歌えるとして、今38で、40何回しか会えないと思うと、こんな時期だからこそ、みんなに会えることが一番大きい」と、ライブというものの意義でもある感慨を伝えてくれた。そしてラストには「いろんな人に一番出会わせてくれた曲」として「福笑い」を披露。世界の共通言語は笑顔――このフレーズは永遠不滅だろう。笑顔でいられない日々が続くからこそ、心に持っていたい歌だ。会場の隅々まで照らすライトでマスク越しの笑顔がそこここに見える。この情景そのものが笑顔の伝染だった。
この日も早々にアンコールで再登場した高橋はスッとアルペジオで世界観を作り、静かに決意を届ける「Beautiful」を歌い、正真正銘のラストには「10周年の最後、昨日、今日で44曲目。この曲で終わります」と、「リーマンズロック」を力強く歌った。あらゆる働く人たちの明日からの糧になる曲。どこか彼には、自分もアーティストであり、一人の働く人間としてリアルを突き通す意地が伺えるのだ。会場に笑顔が溢れているのが見える。誰もが明日からの仕事や自分の役割に徹して生きていく。
「これは何かの記念じゃありません。始まりです。何が何でもまた会いましょう」
悩ましい毎日、さらにストレスが溜まる現状。でも不特定多数の人々が同じ歌のどこかで共振することで超えていける何かがある。その発信源としての歌を、高橋優はこれからも作り続けのだろう。

取材・文=石角友香 撮影=新保勇樹

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