浦井健治主演、ミュージカル『笑う男
The Eternal Love -永遠の愛-』観劇
レポート〜今こそ響くヴィクトル・ユ
ゴーのメッセージ

2022年2月10日(木)、ミュージカル『笑う男 The Eternal Love -永遠の愛-』が東京・帝国劇場にて開幕した。本来は2月3日(木)に初日を迎えるはずだった本公演。公演関係者に新型コロナウイルス感染症の陽性反応が確認されたため10日の開演20分前に急遽中止が発表され、3日〜9日の公演中止を経ての待望の開幕となった。
本作はヴィクトル・ユゴーの同名小説を原作に、脚本をロバート・ヨハンソン、音楽をフランク・ワイルドホーン、歌詞をジャック・マーフィー、編曲/オーケストレーションをジェイソン・ハウランドといった豪華クリエイター陣が手掛けたミュージカル作品。韓国で2018年に世界初演され、日本では2019年4月に浦井健治主演で日生劇場にて初演。好評を博し今回の再演へと至った。
日本版の翻訳/訳詞/演出は初演から引き続き上田一豪が務める。キャストは浦井健治、山口祐一郎、石川禅ら初演組に、真彩希帆(Wキャスト)、熊谷彩春(Wキャスト)、大塚千弘、吉野圭吾らが新たに加わり、2022年版の『笑う男』がここに誕生した。2月14日(月)に上演された昼公演(デア役:真彩希帆、リトル・グウィンプレン:松浦歩夢)の模様をレポートする。
“金持ちの楽園は貧乏人の地獄によって造られる”
痛烈な皮肉が込められたヴィクトル・ユゴーの言葉が舞台上に映し出され、物語は幕を開ける。
雪が舞う1689年のイングランド。“コンプラチコ”と呼ばれる子ども買いによって口を裂かれた醜い笑顔の少年グウィンプレン(土屋飛鳥/ポピエル マレック健太朗/松浦歩夢)は、雪原を一人彷徨い歩く。その道すがら、彼は息絶えた母親に抱かれた盲目の赤ん坊を拾い、その娘をデアと名付けた。偶然見つけた興行師ウルシュス(山口祐一郎)の小屋に身を寄せたグウィンプレンたちは、まるで本当の家族のように暮らすようになる。
(左から)浦井健治、山口祐一郎
やがて成長したグウィンプレン(浦井健治)とデア(真彩希帆/熊谷彩春)は、ウルシュス率いる一座の仲間と共に、自らの生い立ちを演じるパフォーマンスで注目されるようになる。ある日、興行の噂を聞いた貴族のデヴィット・ディリー・ムーア卿(吉野圭吾)とジョシアナ公爵(大塚千弘)がウルシュス一座の芝居小屋を訪れる。ひと目でグウィンプレンに魅了されたジョシアナ公爵は、彼を呼び出し誘惑を試みるのだが……。
醜い顔の自分が求められたことに戸惑うグウィンプレンは、抗えない魅力を持つジョシアナ公爵の眼差しに心乱される。そんな彼に対しウルシュスは「身の程をわきまえろ」と厳しく諭すのだが、グウィンプレンは「僕なら運命を変えられる」と反発する。
(左から)浦井健治、真彩希帆、山口祐一郎

熊谷彩春
そこに秘密警察の隊長ワペンテイクが現れると、グウィンプレンを牢獄へと連行。身の潔白を訴えるグウィンプレンに、王宮の使用人フェドロ(石川禅)が衝撃の事実を明かす。はたしてグウィンプレンは本当の笑顔を手に入れることができるのか———
(左から)浦井健治、熊谷彩春

3年ぶりの再演となった本公演では舞台装置が一新され、セリや盆といった帝国劇場の舞台機構を惜しみなく取り入れたグランドミュージカルらしい作品となっていた。
特に大きく進化したのは、ウルシュス一座の劇中劇が繰り広げられるステージだ。舞台の端から端まである巨大なステージが奈落からせり上がってくると、劇中劇も一層盛り上がりを見せる。このステージのセットは他の場面にも巧みに組み込まれている。例えば、2幕の見せ場でもある貴族院の議会では、ステージをベースに王侯貴族の権威を象徴する議席を形作っている。インパクトのある舞台装置によって、貴族たちの強大な権力がより明確になったように感じられた。
ワイルドホーンが生み出した、作品の世界観をダイナミックに表現する音楽も聴き応えたっぷりだ。儚さと美しさ、そして不安を抱かせる怪しげな旋律の「Opening」は、観客を静かに『笑う男』の世界へと誘っていく。
1幕でジョシアナ公爵とデヴィット卿による大人の恋の駆け引きが繰り広げられる「暗闇の世界へ」や、ジョシアナ公爵が内に秘めた欲望を歌い上げる「私の中の怪物」では、絢爛豪華さと同時に歪んだ欲望や孤独も感じられ、その勢いに飲み込まれそうになる程の迫力だ。一方、グウィンプレンとデアのデュエットナンバー「木に宿る天使」は、同じ作曲家の音楽とは思えない程の透明感。互いを思いやる気持ちに溢れた二人の優しい歌声は、耳を傾けるだけで心洗われる。
ワイルドホーンならではのロングトーンが堪能できる楽曲も多い。グウィンプレンのソロナンバー「笑う男」「世界を変える」「目を開いて」では、彼の想いがそれぞれ如実に反映されており、今の時代にも通ずる鮮烈なメッセージを訴えかけてくる。曲の終盤でロングトーンが大劇場に響き渡る様は圧巻だ。

(左から)浦井健治、真彩希帆

そんなワイルドホーン楽曲を歌い上げ、舞台上で実力を遺憾なく発揮するキャスト陣を紹介したい。
日本初演からたった一人で“笑う男”(グウィンプレン役)を担い続けるのは浦井健治。数多くのミュージカルとストレートプレイの経験を通して鍛え上げられた歌唱力と芝居の安定感は言うまでもない。残酷な運命に翻弄される青年の揺れ動く心を、時に繊細に、時に力強く表現していた。
浦井健治
人情味のあるあたたかい芝居と歌声で劇場を包み込むのは、ウルシュスを演じる山口祐一郎だ。ウルシュスは現実の残酷さを知っているからこそ、理想を語るグウィンプレンに時に厳しく接する。一方で、デアのことを誰よりも大切にかわいがる様子は実に微笑ましい。
(左)山口祐一郎
生まれつき盲目で身体の弱い少女デアを演じるのは、宝塚歌劇団在団時から圧倒的な歌唱力を誇る真彩希帆。真彩は、触れたら壊れてしまいそうなガラス細工のように儚い少女を好演。盲目であるが故に終始焦点が定まらない様子や、視覚以外の感覚を研ぎ澄ました立ち居振る舞いには確かな説得力があった。
真彩希帆
本作の中でも特に難易度の高い曲に挑むのは、ジョシアナ公爵役の大塚千弘だ。劇中、グウィンプレンを自分のものにしようと己の欲望をあらわにするが、大塚の演じるジョシアナ公爵からは孤独と悲しみを抱えながら生きる一人の女性という一面が色濃く浮かび上がっていた。
大塚千弘
そんなジョシアナ公爵と結婚して富と名誉を手にしようと企むのは、デヴィット・ディリー・ムーア卿。金と女に溺れて権力に固執する嫌味な貴族を、吉野圭吾が熱演で魅せた。劇中、二度にわたるグウィンプレンとの決闘シーンも華があり見応えたっぷり。
吉野圭吾
貴族たちの思惑が渦巻く王宮の水面下でしたたかに暗躍するのは、石川禅演じる使用人フェドロ。要所要所に登場しては意味深な表情で去り、誰よりも深い闇を感じさせる。実はこの作品のキーマンでもある。
石川禅
他にこの役を演じられる人はいないのではないかと思う程の存在感を発揮していたのは、アン女王役の内田智子だ。権力の象徴であるアン女王を、内田は圧倒的な歌声と同時に滑稽さをも感じさせる演技で体現。間違いなく誰よりも強烈な印象を残していった。
作品を通して貴族と貧民の対比が描かれているのだが、特に1幕の貴族たちのガーデンパーティと、ウルシュス一座による空想の舞踏会のシーンの対比が顕著。実力派アンサンブルキャストの面々が貴族と貧民を場面ごとに切り替えて演じ、対照的な場面を鮮やかに彩っていた。
本当の幸せとは何なのか。ヴィクトル・ユゴーのメッセージが、時を経て現代の我々に突き刺さる。改めて今上演することの意味を感じさせる、2022年版の『笑う男』だった。
(前方左から)浦井健治、熊谷彩春(後方)山口祐一郎
上演時間は1幕1時間15分、休憩25分、2幕1時間15分の計2時間55分(予定)。東京公演は2月19日(土)まで帝国劇場にて上演される。その後は大阪公演、福岡公演と続き、3月28日(月)に大千秋楽を迎える予定だ。
取材・文=松村 蘭(らんねえ)

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