(左から)北条義時役の小栗旬、源頼朝役の大泉洋、武田信義役の八嶋智人 (C)NHK

(左から)北条義時役の小栗旬、源頼朝役の大泉洋、武田信義役の八嶋智人 (C)NHK

【大河ドラマコラム】「鎌倉殿の13人
」第9回「決戦前夜」歴史ドラマの面
白さを再認識した“富士川の戦い”。
過去の大河ドラマとの違いは?

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。3月6日放送の第9回「決戦前夜」では、頼朝軍による伊東祐親(浅野和之)追討から、源頼朝(大泉洋)と義経(菅田将暉)兄弟の対面までが描かれた。定番の源平合戦を題材にしながらも、毎回のように新鮮な驚きがある本作だが、この回は有名な“富士川の戦い”が驚きの展開を見せた。
 一般的に知られる、富士川の戦いとは、次のようなものである。頼朝率いる源氏の軍勢を追討するため、京から派遣された平家軍が富士川の岸に陣を敷く。ところが、夜中に水鳥の大群が羽ばたく音を敵襲と勘違いし、総崩れになって敗走。戦わずして源氏が勝利する。平家の弱体化を象徴する出来事として、源平合戦を扱った物語では必ずと言っていいほど描かれる逸話だ。
 だが、単に「水鳥が羽ばたく音に驚いて平家が逃げ出した」ではドラマにならない。これを物語にどう絡めるかが、脚本家の腕の見せどころとなる。
 これが、本作ではどう描かれていたのか。対岸に陣取る平家の大軍を前に、北条時政(坂東彌十郎)の頼りない態度を「しっかりしてくれ」とたしなめる親友の三浦義澄(佐藤B作)。
 それを近くで見ていた主人公・北条義時(小栗旬)が、敵に見つかることを恐れ、「戻りましょう」と促したところ、思いつめた時政が義澄に「俺の頬っぺた、思いっきりぶん殴ってくれ」と懇願する。これに応じた義澄が本気の一発を繰り出すと、思わず時政がやり返してしまい、義澄が川に転倒。その音に驚いた水鳥が一斉に飛び立ち…。
 てっきり、頼朝と武田信義(八嶋智人)の“源氏の棟梁争い”が絡んでくるものと思っていたら、時政と義澄の“ジジイ同士”のじゃれ合いが平家を退ける“ひょうたんから駒”のような展開に。これにはさすがに驚いた。
 そこでふと、過去の大河ドラマが、富士川の戦いをどう描いてきたのか、確かめたくなった。
 これまで源平合戦を主題にした大河ドラマは、「源義経」(66)、「新・平家物語」(72)、「草燃える」(79)、「義経」(05)、「平清盛」(12)の5作(奥州藤原氏を主役にした「炎立つ」(93~94)を含めると6作)ある。このうち、現在DVDや配信で見ることができる「義経」、「平清盛」における、富士川の戦いのくだりを確認してみた。
 まず、源義経(滝沢秀明)を主人公にした「義経」で富士川の戦いが描かれたのは、第十五回「兄と弟」。兄・頼朝(中井貴一)の挙兵を知った義経は、弁慶(松平健)ら郎党たちを率いて奥州から駆けつける。
 富士川の対岸に陣を敷く平家の見張りを任された義経一行が、川の様子や油断した平家の状況を調べ上げると、その報告を受けた頼朝は夜襲を計画。義経が戦支度を整えようとしたとき、ちょうど水鳥が羽ばたき、平家が逃げ出す…という展開だった。
 頼朝・義経兄弟対面の時期が「鎌倉殿の13人」とは異なるが、義経の有能ぶりを示すエピソードとして活用されていた。また、逃げる平家を追撃した義経は、敵陣にいた白拍子の静(石原さとみ)とも再会する。
 ちなみに、このとき見張り役の義経の様子を頼朝に報告する武将として北条義時も登場。演じたのは木村昇だが、別の回に小栗が梶原景季役で出演している。
 続いて、「平清盛」。この作品で富士川の戦いが描かれたのは、第四十七回「宿命の敗北」。ここでは、源氏の軍勢が夜の闇に紛れて平家の陣に接近する途中、驚いた水鳥が一斉に飛び立つ…というオーソドックスな描写となっていた。
 ただし、その前段として、平家の大将・平維盛(井之脇海)が、兵糧不足に陥った兵の士気を高めようと、侍大将・伊藤忠清(藤本隆宏)の反対を押し切り、遊女を連れ込んで陣中で宴会を開く場面がある。
 さらに、この敗戦に激怒した平清盛(松山ケンイチ)が、「平家はもはや武門ではござりませぬ」と諫言した忠清の首をはねようとするが、鞘から抜いた刀はさびついており、清盛自身もよろけて転倒してしまう。
 清盛と平家の衰退を強く印象付ける終盤の名場面として、記憶に残っている人も多いのではないだろうか。主人公が清盛ということで、平家側の視点を重視しているのが特徴だ。
 このように、それぞれ「水鳥の羽ばたきを聞いた平家が逃げ出す」という逸話を巧みに主人公と絡め、ドラマを作り上げている。そう考えると、北条家を主役にした本作で、時政や義時がそこに関わってくるのはもっともと言える。
 人を食ったような話ではあるが、「歴史とは、得てしてそうしたささいなきっかけで動くもの」という脚本家・三谷幸喜の歴史観が垣間見える上、これまでの場当たり的で軽率な(だが憎めない)時政の人柄を知っていれば、「さもありなん」と思えるあたり、その卓越した力量を思い知る一幕でもあった。
 要は、「記録に残っていない歴史の空白を、いかに面白く埋めていくか」だ。当たり前と言えば当たり前の話だが、改めて歴史ドラマの面白さを教えられた富士川の戦いだった。
(井上健一)

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