市川猿弥×市川笑三郎×市川寿猿が語
る、新しい『新・三国志』座談会 【
歌舞伎座3月公演『新・三国志』集中
連載3】

歌舞伎座で、三代猿之助四十八撰の内『新・三国志 関羽篇』が上演されている。2022年3月3日(木)から28日(月)まで。
初演はスーパー歌舞伎の7作目として、1999年4、5月の新橋演舞場で初演された『新・三国志』。市川猿翁(当時、三代目猿之助)が演出・主演し、続編『新・三国志II 孔明篇』と『新・三国志III 完結篇』を含めると、2004年まで続くロングランシリーズとなった。
今回は猿翁がスーパーバイザーとなり、四代目市川猿之助が演出・主演、横内謙介が脚本・演出を担う。前作に続いて出演中の市川猿弥、市川笑三郎、市川寿猿に話を聞いた。澤瀉屋の芝居に欠かせない3人が、『新・三国志』について、師匠の猿翁について語った。
舞台は約1800年前の中国。群雄割拠の乱世で、劉備は「争いのない、人々が幸せに暮らす国」を夢見る。その夢に関羽、張飛が導かれていく。
■22年ぶり、新たな『新・三国志』
ーー『新・三国志』の舞台に立たれた感想をお聞かせください。
猿弥:懐かしかったですよ。稽古でも加藤和彦先生の音楽が聞こえた瞬間から、これこれこれ! ってなりました。『新・三国志』の続編や『西太后』の音も使われているんですよね。
ーー歌舞伎座の客席に、開演前からテーマ曲が流れます。客席の温度が上がるのを感じました。
笑三郎:洋楽で、しかもスピーカーから流れる音源ですが、師匠(猿翁)は、古典歌舞伎の音楽と同じ理念で音楽を作られました。黒御簾音楽と同じ効果をもつように使い、台詞は1フレーズほど聞いてから喋り出します。台詞を言いやすい小節もあらかじめ作られているんですよ。
寿猿:初めて聞いた時は、面白いことを考えるなと思いましたよ。
市川猿弥。1978年5月、子役から三代目猿之助(現・猿翁)の部屋子となり二代目市川猿弥を名乗る。
ーー音楽を聞くとスーパー歌舞伎のようですが、今回は「三代猿之助四十八撰」としての上演ですね。
猿弥:「四十八撰」に「スーパー歌舞伎」も含まれるので、その辺りはにゅ~っとしているんです(笑)。ただスーパー歌舞伎としてやるなら、師匠が提唱するストーリー、スピード、スペクタクルの「3S(スリー・エス)」が揃わないといけないはずなんだよね。
笑三郎:今回は感染症対策のために、初演のようなスペクタクル部分をカットせざるをえなかった。そこでストーリーの核を残して、横内さんが物語を再構成されました。その物語がくしくも世界情勢と重なって。お客様に、お話の核の部分を心で感じていただけたようでしたら嬉しいですね。
【歌舞伎座『新・三国志』ダイジェスト映像】
ーー尾上右近さん、中村福之助さん、市川團子さんといった、新しい世代の俳優さんも出演されています。
笑三郎:初演で私が勤めた香溪(かけい)を、右近さんがなさっています。あちらから聞いてくださったので役の性根などはお話しましたが、「どうぞご自分のやり方で」と伝えました。ゼロから創った初演の香溪を踏襲しつつ、右近さんらしい香溪をみせてくださいます。
ーー張飛役の市川中車さん、曹操役の浅野和之さんも、『新・三国志』初参加です。
笑三郎:猿弥さんは「覚えていない」と言って、張飛役はハナから中車さんにお任せ(笑)。
猿弥:教えられるようなことがないんですよ。中車さんはご自分でできちゃう方ですから!
若き当主・孫権を冷静沈着に支える軍師・陸遜(猿弥)。 『新・三国志』 (c)松竹
■ござりまするでござりまする
ーー演出・主演は、猿之助さんです。どのような演出をされるのでしょうか。
猿弥:今回に限らず四代目(猿之助)は、僕らに対して「こうして」ではなく「どうしたい?」と言いますね。たとえばサブちゃん(笑三郎)は、事前に役作りをしてくるタイプ。まずアイデアを聞き、「それもいいけど、こうもできるよ。どうする?」って。
笑三郎:「それ、採用ー!」と、よくおっしゃいますね。
猿弥:言うね。僕には「それ、却下!」が多いけど!
寿猿:私も今回、却下になったアイデアがあるんです。
市川寿猿。1934年初舞台。1947年に八代目中車に入門、1949年に三代目段四郎、1955年1月二代目猿之助(初代猿翁)に入門、1975年7月に二代目寿猿を襲名。
ーー寿猿さんは、前回に続き曹操の主治医・華佗(かだ)をお勤めです。どのようなアイデアがあったのでしょうか。
寿猿:曹操様を前に、片膝を立てて腰をおろします。その時、顔の前で両手を組むので、手の内側にこっそりメモを持っておこうと思いつきました。
猿弥:カンペですね(笑)。
寿猿:でも四代目に「寿猿さん、台詞の時は両手は下ろして膝に重ねちゃって」と言われたんです。そうなるとメモを読めませんから、アイデアは却下です(笑)。
曹操の主治医で、伝説の名医といわれる華佗。曹操の人となりが現れる重要な場面。 『新・三国志』 (c)松竹
笑三郎:でも寿猿さん、台詞は全部頭に入っているから、できてしまうんですよね?
猿弥:四代目も、それを分かっているからメモをみせないように言うんだよね。公演中も、四代目が時々寿猿さんにイタズラを仕掛けているけれど、寿猿さんはいつも芝居で切り抜けちゃう。四代目は「つまーんない」って言いながら、寿猿さんの頼もしさを内心喜んでいると思いますよ。
寿猿:役者ですから、どうにか芝居でやっています。今回は、とにかく一番大事な台詞を忘れないように。どうしても他の台詞が出てこなければ、とりあえず「曹操様、あれがこうでござりまするでござりまする」とか言って、相手に渡しちゃう。オシマイ! って。
猿弥:ござりまするでござりまするって、本当に言ったことありますからね。オシマイ! って渡された方は、笑いをこらえるのが大変。台詞はドガチャカなのに、寿猿さんはすました顔をしているし、サブちゃんは笑い上戸だから、舞台にいたら平気で笑うだろうし(笑)。
寿猿の「オシマイ!」の顔を再現する猿弥。
ーー寿猿さん、華佗を演じる時のこだわりはありますか?
寿猿:今回は最初の台詞だけ、時代物の台詞回しにしています。前に明治座で、中村歌右衛門さんと新派の花柳喜章さんが『春琴抄』をやられまして。歌右衛門さんが「私の顔、見ないで」って言うと、喜章さんが「見ません見ません、見やいたしません」って答えるんです。その「見やいたしません」だけが、時代物の台詞回しだったんです。話の設定は明治なのに、そんなやり方があるのかと耳に残っていました。僕は(十七世中村)勘三郎さんの『暗闇の丑松』に出ていた月なので……いつ頃かな。
ーーその配役ですと……1962年2月の明治座ですね。60年前!?
猿弥:それを今回、思い出して、変えたんですか?
寿猿:前は思いつかなかったんだよね。今回はふっと浮かんできたから、やってみようと思って。
笑三郎:すごいです。
猿弥:寿猿さん、本当にすごい。変えようと思うことから、尊敬します。僕なら「前と同じでいいか」と思っちゃうもん。
寿猿:今回、私の出番は1カットだけですが、ちょっとでも芝居が変わった方がいいかなと思い、自分なりに研究してやっています。
短いながらも、強い印象を残す華佗。 『新・三国志』 (c)松竹
■曹操への忠誠心 根本には純粋さ
ーー笑三郎さんは、曹操の右腕となる軍師、司馬懿(しばい)役です。初演にはない役ですね。
笑三郎:四代目からは、「新作歌舞伎『NARUTO -ナルト-』の大蛇丸や、田村正和さんの『乾いて候』を綯い交ぜにした雰囲気」とコスチュームのリクエストがありました。それに合わせ、お化粧を考えました。司馬懿は、曹操の死後に天下を取る人物。歌舞伎座での上演ですから、顔は八剣玄蕃(『毛抜』)と同じ、青い筋を眉間に入れました。四代目も、すぐに「八剣玄蕃ですね。お役がくるかもしれませんよ?」なんて冗談を(笑)。
女方を中心に活躍する笑三郎の、ふだんとは異なる声と立ち姿に魅了される。 『新・三国志』 (c)松竹
ーー笑三郎さんは、本作の司馬懿をどんな人物だとお考えですか?
笑三郎:曹操への忠誠心がとても強い人物ですね。曹操の思いを実現するためなら、手段を選びません。その意味ではピュア。その“曹操様”が関羽の有能さを認めている。司馬懿も関羽を認めつつ、ライバル心を抱いていたのではないでしょうか。最後の独白では「反逆人と“言われるだろう”」と言いますね。それを承知で、曹操様の思いをすべて受け継いでいく。かつてスーパー歌舞伎にご出演くださっていた金田龍之介さんは、どっぷりとした大悪党をなさる時にも、必ず色気と言いますか、ピュアさを匂わす方でした。司馬懿も、根本に純粋さをもって演じたいです。
市川笑三郎。1986年4月、三代目猿之助(現・猿翁)に入門、三代目市川笑三郎を名乗る。1994年3月、部屋子となる。
ーー皆さんの衣裳は、初演の時に作られたものと聞きました。司馬懿の衣裳は?
笑三郎:前回登場していた程昱の衣裳の上に、続編で登場した司馬懿の打掛を。序幕の鎧は姜維がつけていたものです。それぞれ喜多村緑郎(当時、市川段治郎)さん、金田龍之介さん、市川段四郎さん、市川團蔵さん、市川右團次(当時、右近)さん、初演を創られた方々のものを身につけ、受け継いでいるんですね。
司馬懿役の笑三郎。 『新・三国志』 (c)松竹
■台本を読めば、自ずとそうなっていく
ーー猿弥さんは、呉の国の軍師、陸遜です。
猿弥:僕は特に、役作りとかはしていません。軍師に見えるようにやるだけかな。
ーー軍師が3人登場しますが、各々のキャラクターが際立っていました。
猿弥:他の軍師との関係から見せる感じですね。孔明の台詞に、「さすが、やり手だ」と反応すれば、孔明に一目おいているけれど、立場的に上でも下でもない人物になる。司馬懿の策に「なるほど」と反応しながらも、人質も殺すと聞いた時に「それ違うんじゃないの?」みたいな声を出すことで、陸遜は司馬懿よりは歯止めが利いてるって見えてくる。横内さんの台本がそうなってるから、自ずとそういう芝居になるんだと思います。
張飛(中車)と対峙するシーンは客席を大いに楽しませた。 『新・三国志』 (c)松竹
ーー台本に書かれた台詞から、意図をくみとり関係性を立ち上げる作業は、昔からできたのでしょうか。
猿弥:昔からできたのは、サブちゃんだけ(笑)。僕の場合は、師匠に「今の台詞、どういうつもりで言ったの? 伝わるようにやって?」と散々言われながら育てられて、おかげで考えなくても考えるようになったのかもしれない。たしかに古典歌舞伎なら、まずお手本がありますね。新作だと、自分で考えて作る部分が多い。師匠もお忙しいから、「自分の役は自分で作ってください」と、まずはやらせてくれた。それが楽しかったんですよね。
笑三郎:「どういうつもり? 伝わるようにやって?」は、師匠がよくおっしゃっていた言葉ですね。
猿弥:思えば四代目も、自分のお弟子さんには、「今のどういうつもり? 伝わるようにやって?」って言うね。まず本人にやらせてくれるところも、師匠と同じだ! 四代目はできる子だったから、師匠から怒られることはあまりなかったんじゃないかな。でも同じ稽古場にはいたからね。怒られ隊長は、僕でした!(一同、笑)
呉の国の孫権に福之助(右端)、母に門之助(右から二番目)。衣裳だけでなく、芝居の空気も国ごとにカラーが変わる。 『新・三国志』 (c)松竹
■怒鳴るというより諭すんです
ーーとくに印象にのこっているエピソードはありますか?
寿猿:やっぱり怒られたことは、印象に残っているものです。
猿弥:古典の演目だったりすると、芝居がかかるたびに、怒られたことを思い出しますね。
ーー猿弥さんは、小学4年生で猿翁さんの部屋子になられました。
猿弥:その月の舞台で、立て続けに2度、とちっちゃったんです。ふだんから終わったら楽屋に挨拶にいくのですが、きっと怒られるから行きたくない。でも今日は皆で焼肉を食べに行くと言っていたから謝りにいかないわけにはいかない……って子供なりに考えて。師匠は子ども相手でも敬語で、怒鳴るというより諭すんですよね。鏡台の鏡越しに「今日しか見れないお客さんもいます。ちゃんとやってくださいよ」って。それからは気をつけようと思いますよね。サブちゃんは内弟子だったでしょう? よほど色々あったんじゃない?
笑三郎:16歳で上京して、「右も左も分からないだろうから」と師匠の家に置いていただきました。師匠はとにかく忙しい人でした。そのすべての指示を聞き、各所に連絡するのが僕の役目。その上で先回りして動いていないと、「なんでできていないの?」と言われてしまうので、なかなか大変(笑)。
笑三郎:当時、澤瀉屋の稽古は深夜まで続くことが多かったんです。24時をまわって家に帰り、そこから師匠の稽古がはじまります。相手役を深夜2時、3時まで勤めたあと、「あの衣裳を白に変えたい。明日までに用意してもらって」と。「皆さん、もう寝ていますから」と言っても、「僕は起きています。今連絡して」っておっしゃるんです(笑)。結局、深夜に職人さんのお宅に電話をして「師匠が衣裳を白に……」と伝えるのですが、「何時だと思ってるんだ! 無理だよ!」って怒鳴られ、電話を切られて。当然ですよ(笑)。
その状況はもちろん大変でしたが、不思議と辛くはありませんでした。師匠はすごい人ですから……曹操に対する司馬懿の性根に通じるものがありますね。当時の経験が役に立っています(笑)。ちなみに深夜の電話の翌日、職人さんたちは「これでいいのか?」と衣裳を揃えてくださっていたんです(一同から「おお~~!」と歓声)。勉強になりましたし、職人さんたちに顔を覚えてもらえました。
■かすくっちゃった、寿猿さん
猿弥:師匠は怒鳴らないで、諭すんですよね。
笑三郎:我慢強い方ですから。
寿猿:怒鳴りませんね。いや……、怒鳴られたことありましたね。『奴道成寺』で。
猿弥:明治座で、それまでやってらっしゃった先輩に代わって、寿猿さんが初めてお面の後見をやった時ですよね? 僕、それ見ていました!
寿猿:30秒で7回くらい、3つのお面をパッパッと変えていくところがあるんです。旦那がすっと回った瞬間に、後見は次のお面をパッと渡す。その日はテンポが速まって、僕は違うお面を渡しちゃったの。違うよ! と言われて一瞬考えてしまったら、もう動けなくなって。ほっぽり出しちゃった。
猿弥:寿猿さん、お面を床に並べてすまし顔で、師匠は自分で拾ってとっかえひっかえしていたもんね(笑)。あれは怒鳴られますよ!
寿猿:僕は「カスくっちゃったな(怒られちゃったな)」と反省して一所懸命練習しました。その後、御園座で再び後見をやらせてくださった。終わって楽屋へ挨拶にいくと、旦那から言われました。「さっき中村屋(十七代目勘三郎)が『舞台袖から見たけれど、あんたのとこの後見、上手いね』と褒めていたよ」って。嬉しかったですね。ちょっと浮かれた天罰か、あくる日にまた……。
猿弥:え! 『奴道成寺』で2回失敗していたの!?
寿猿:前回は考えてしまったせいで動けなくなったでしょう? 今回は、違うと言われても考えずに渡し続けたんだけどね、全然違ったみたい。旦那は渡すお面にあわせて振りを変えていました。終わってからが大変。だいぶ怒っていましたよ。
猿弥・笑三郎:寿猿さん!(笑)
猿弥:もしかして師匠が、僕らをまるで褒めないのは、それがきっかけじゃない? 弟子はほめるもんじゃないって思っちゃったんだよ!
寿猿:そう?
笑三郎:たしかに師匠に褒められたことはありませんね……。
寿猿:そうかしら(笑)。
■『新・三国志』は3月28日まで
ーー最後に一言ずつお願いします!
笑三郎:魏、呉、蜀の軍師を、師匠の部屋子である私、猿弥さん、青虎さんの3人が勤めています。新しい『新・三国志』を、軍師という立場から見守る構図はお芝居を越えて、面白いと感じました。その中で異彩を放つのが、初演から続く市川笑也さんの劉備。笑也さんにしかできない世界観です。新しい『新・三国志』をぜひご覧ください。
猿弥:正直はじめは、スペクタクルを期待したお客さんをガッカリさせてしまうのでは……とも思ったんです。でも大事なのは「スーパー歌舞伎かどうか」ではなく、出来あがったお芝居で楽しんでもらえるか。大ヒットした初演だって酷評されることもあったんです。面白いかどうかはお客様が決めること。僕らは、ただただやるだけです!
寿猿:一所懸命にやらせていただきます。よろしくお願いします!
取材・文・撮影(クレジットのないもの)=塚田史香

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