多様な技法やジャンルに圧倒される 
『VOCA展2022 現代美術の展望─新し
い平面の作家たち』内覧会レポート

2022年3月12日(木)から3月30日(月)まで、上野の森美術館で『VOCA展2022 現代美術の展望─新しい平面の作家たち』が開催されている。「The Vision of Contemporary Art」の略称をタイトルとし、全国の美術館学芸員、研究者、キュレーターなどに推薦された40才以下の若手作家による平面作品の新作を展示するVOCA展。29年目の開催を迎える今年も、全国各地から優れた才能が集結し、多彩な作品を鑑賞できる。以下、気鋭のアーティストたちによる、見ごたえある力作を紹介しよう。
『VOCA展2022 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─』展示風景

VOCA展2022受賞者。手前左より堀江栞、鎌田友介、川内理香子、谷澤紗和子、小森紀綱。

絵の力に圧倒される経験
作品からあふれ出る生命力を体感
VOCA賞に輝いた川内理香子の《Raining Forest》は、上部で月や星々が輝き、空の下で植物や動物がひしめき、動物の口から吐き出された何かが大地に浸透している。中央の大きなジャガーは人間に「火」をもたらした者であり、自然と人間を結びつけ、また分断する両義的な媒介者として描かれている。これらは文化人類学者のレヴィ・ストロースによる神話の構造分析で見出されてきたものたちだ。火や肉体、血などのイメージを喚起するさまざまなトーンの赤い色からは、熱いエネルギーがほとばしるようだ。
有機的な生態系や生命のダイナミックな循環を連想させる本作は、作者が今まで制作した中で最も大きい絵画とのことだ。物理的な大きさと世界観のスケールの大きさが相乗効果を生み、観る者を圧倒する大作である。
川内理香子《Raining Forest》油彩、カンヴァス
近藤亜樹の《ぼく ここにいるよ》も生命の力を感じさせる作品である。笑みをたたえてこちらをまっすぐに見つめる子どもの眼差しは強く、好奇心や意志の力を感じる。もう一枚の絵はコーヒーやホットミルク、動植物やたくさんのオモチャ、ホットケーキといったカラフルで楽しいイメージで占められ、明るく前向きな印象だ。この作品を観ていると、目の前の生命や、繰り返される日常がかけがえのないものだと実感できるだろう。
近藤亜樹《ぼく ここにいるよ》アクリル、木製パネル
時代や国境を越えたモチーフ
さまざまな手法で示される豊かな展示
絵画だけではなく、インスタレーションなどが多いのもVOCA展の特徴だ。谷澤紗和子の《はいけい ちえこさま》は、高村智恵子をめぐる切り紙の作品である。
洋画家、紙絵作家である高村智恵子は、詩人、彫刻家である夫・高村光太郎の詩集『智恵子抄』の影響か、薄幸の女性としてイメージされることが多いが、雑誌『青鞜』を発行した女流文学社・青鞜社の女性たちと交流があり、洋画家・紙絵作家として自らも表現を追い求めるアーティストだった。谷澤は、高村智恵子が『青鞜』の表紙絵として描いた鈴蘭の絵をはじめ、高村智恵子の紙作品をモチーフに取り入れて制作した。作品が納められている額は古い家屋の廃材で、消え去りつつある家父長制と、未だに根強く残っている家制度を両義的に示唆しているように見える。
谷澤紗和子 《はいけい ちえこ さま》アクリル、紙・解体された家屋の廃材・アクリル板
《Japanese houses (Taiwan/Brazil/Korea/U.S./Japan)》の作者、鎌田友介は、海外にある(もしくはあった)日本家屋を調査してきたという。床の間を模した構造をとる本作は、台湾・朝鮮半島・ブラジルで建てられた日本家屋の写真や図面がコラージュされている。作中の図面は、日本を愛した建築家のアントン・レーモントが、第二次世界大戦時に日本家屋を焼夷弾で破壊するために米軍に提供したものがもとになっているそうだ。日本家屋に関する複数の歴史を再構成する本作は、歴史や記憶の消失に抵抗する試みであるように思った。
鎌田友介《Japanese houses (Taiwan/Brazil/Korea/U.S./Japan)》アクリル塗料・インク・鉄・アクリル板・インクジェットプリント・紙・韓国に存在した日本家屋の部材、木材
豊かで奥深い世界に驚嘆
もっと見たい、もっと知りたいと思わせる作品の数々
小森紀綱の《絵画鑑賞》は、グイド・レーニやジョルジョ・デ・キリコ、アルフォンス・ミュシャや葛飾北斎、俵屋宗達や尾形光琳など、古今東西のさまざまなアートや物語の痕跡が見える。作者の豊かな知識と、物語を解釈する洞察力や想像力、それらを総動員して一枚の絵に落としこむ卓越した技量が結集した本作は非常に見ごたえがあり、絵の中の人物やモチーフに込められた意味や背景に思いを巡らすと、絵の前から離れられなくなる。本作には多くの要素がひしめいているにも関わらず全体が調和しており、抑制された美しさがある。それは恐らく、ものごとの差異を受け入れる作者の精神的な柔軟性によるのだろう。
小森紀綱《絵画鑑賞》油彩・アクリル・膠、麻布・ 木製パネル

堀江栞の5枚の作品《〈後ろ手の未来〉#2、〈後ろ手の未来〉#3、〈後ろ手の未来〉#4、〈後ろ手の未来〉#5、〈後ろ手の未来〉#6》は、背景などの描写が抑えられており、描かれた人物の印象が際立つ。絵の中からこちらを見つめる人物が画面いっぱいに描かれているのは、作家がモチーフに近い場所で真摯に向き合っているからだろうか。人々の表情は痛ましいが、苦難や抑圧の中でも強くあろうとしている人間の普遍的な姿のようにも思え、崇高さが漂う。
堀江栞 《〈後ろ手の未来〉#2、〈後ろ手の未来〉#3、〈後ろ手の未来〉#4、〈後ろ手の未来〉#5、〈後ろ手の未来〉#6》岩絵具・膠、綿布・和紙・木枠

「1924年に生まれ1987年に没した架空の画家であるユアサヱボシ」(ヱはわ行の『え』の音)に擬態し、その生涯を想像して描く画家、ユアサエボシ。本展に出品されている《夢》は、病で兵役を逃れたという「ユアサヱボシ」による、夢の中の戦場が描かれている。
「ユアサヱボシ」には、福沢一郎絵画研究所へ通いシュルレアリスムと出会ったという略歴があり、《夢》にもシュルレアリスムの影響が色濃く表れている。大正に生まれたとされる架空の画家の夢を、現代の画家が夢見て描くという嘘を経て描かれた絵には、昭和という時代の記憶が示されているようだ。
ユアサエボシ《夢》アクリル、カンヴァス
その他会場では、CG技術の不確かさや虚構に可能性を見出して制作する多田圭佑の《trace / dimension #16》や、力強いストロークと色彩が印象的な武藤江美奈の抽象画《5 paintings》など、多様性を実感できる作品を存分に鑑賞することができる。
左:武藤江美奈《5 paintings》油彩・ラッカースプレー・合成樹脂塗料、綿布 右:多田圭佑《trace / dimension #16》アクリル・油彩、綿布・木製パネル
技法やジャンル、モチーフなどにおいて実に多種多様な作家の作品が集結しているVOCA展は、全ての作品に強い才気と個性があり、観る側も感性を刺激されるように思った。今まさに旬のアートの力に圧倒される貴重な本展を、是非お見逃しなく。
文・写真=中野昭子

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