気鋭のクリエイター・獅子志司が語る
、その来歴と新作『揺ら揺ら』、初の
ライブへの想い

具体例を挙げるまでもなく、ボカロPや歌い手などボーカロイド・シーン出身のアーティストたちが音楽業界を席巻するようになった昨今、その新たな旗手となり得る存在の一人が獅子志司だ。活動歴は長くないものの、つい先日にYouTubeで1000万再生を突破した「永遠甚だしい」をはじめ、ボカロ曲とそのセルフカバーを同時並行した活動スタイルが新しい。

本稿は、2021年4月には初のアルバム『有夜無夜』をリリースした彼が、1年のインターバルを経て放つミニアルバム『揺ら揺ら』について語る、SPICE初登場インタビュー。先人へのピュアな憧憬を感じさせつつも、決してそれだけにとどまらない懐の深さと鋭いセンスを感じさせる楽曲がいかにして生まれるのか、そして学生時代に組んでいたバンドからミュージシャンを志すようになり、数々の挫折を味わいながら現在の活動スタイルに行き着くまでの葛藤、初のライブへ抱く思いまで、余すところなく訊いていく。
――初のインタビューということで、まず活動を開始される出発点、経緯から振り返っていただけますか。
音楽をやっていきたいと意識して目指すようになったのは、高校の時にバンドを組んで人前で歌うことをした時です。そこですごく、生き甲斐じゃないですけど、こっちの道しかないかもしれないという気持ちになったのが転換期というか。そこから音楽学校に入って作曲を学んだときに、シンガーソングライターとして世に出ようという新しい目標を持つようになったんです。でも壁にぶち当たったというか……路上ライブをしてもほぼ誰も止まってくれないし、オリジナル曲を作っても成果が出ずに心が折れてしまい、憂鬱になったときに、音楽学校で学んでいたDTMがすごく楽しかったのもあって、オケを作り始めたら、「作曲家になりたいかも」っていう気持ちになって。オリジナル曲を作って作曲家の事務所に送ったり、賞品がもらえるようなコンペに出してみたんですね。
――はい。
でもそこでまた壁にぶち当たって。誰からも反応されないし……自分としてはすごく自信があったのに誰も見てくれないなと思ってたんですけど、そんなときにボカロシーンに飛び込んでみたら思いのほか視聴者が優しいというか(笑)、良い反応をくれて。「ここしかないかもしれない」っていう気持ちになりました。
――やっと見つけた、みたいな。
本当、その通りですね。
――もともとはバンドをやっていたところから、シンガーソングライターを目指すようになったという経緯を見るに、もともと全部自分一人で完結させたいという意思が強かったんですか?
そうですね。バンドを組んでいたときは自分が主体じゃなくて、コピーバンドみたいなところにボーカルとして誘われていたのもあって、誰かの決めた曲をやっていたので。あんまり僕は人にモノを言えないし、一人でやる方が楽だなというのは前からあるかもしれないです。
――「自分はこういうことをやりたいんだ」というイメージは、時期ごとの変化はあるにせよ、はっきり持っていたわけですか。
はい。結構自由にやりたいことをやっていたかもしれないですね。
――それに対して、周りからの評価を得られなかったり見つけてもらえないもどかしさがあったということは、自分の音楽に対して「良い物を作っている」という確信を持っていたということなのかなと。
そうですね。絶対に持っていたと思うんですけど、ボカロの界隈に入ってみてから気づかされることもすごくあって。今までは自分が主体で、自分が良いと思ったら「良いでしょ」って投げていたんですけど、それがあまりよくなかったりすると、視聴者が見てくれなかったりという形で顕著に出てくるんですよね。僕は獅子志司になる前、Choisauceっていう名前でボカロPをしてたんですけど、その頃は結構いろんな曲を試して成長する時間だったなって。自分に自信はあったんですけど、初めて気付かされたというか……。
――自信があった中でも、特にここが強みだったんだなとか、逆にここは足りなかったんだなって気づけたり。
その通りですね。視聴者はすげえなっていう感じでした。
――路上ライブで立ち止まってもらえなかったり、コンペに送っても反応がなかったりしたところから、生のフィードバックをもらえる環境になったことは、間違いなく大きいですよね。ちなみにボカロ曲自体はもともと聴いていたんですか?
そこまでがっつりではないですけど、「Calc.」っていう曲がすごく好きで。「この曲良い曲だな」と思う曲があったり、バズったりした曲は聴いてました。
――それ以外にJ-POPやバンドシーンの音楽にも触れてきたと。
もう、全部聴きますね。自分はストライクゾーンが広いので全体的に聴いてる感じです。
――その下地が作る音楽にも出ていると思います。そして昨年、初のフルアルバム『有夜無夜』をリリースするに至ったわけですが、あれは今振り返るとどんな作品でしたか。
もう本当に獅子志司の最初というか、Choisauceだった頃の曲も入っているから、獅子志司が出来上がるまでや、獅子志司ってこういうものなんだろうなっていうのを想像しながら作り上げた感じですね。一曲一曲に全力投球してきたものを、「アルバムにまとめちゃおうか」と事務所の方が言ってくれて作ったので、アルバムを作るというよりも総集編というか……なんだろう?
――初期作品集みたいな?
そうそう、そうですね。
――それが高い評価を受けたことで、ずっと自信を秘めてやってきた身としては「やっぱりか」みたいな手応えはありました?
いや、ありがたいなって。……自信はあんまりなかったのかもしれないです。一応、動画の数字として出てるのは自信ではあったんですけど、オラオラな感じには思えなかったですね。言い方が難しいんですけど。
――そうだったんですね。その『有夜無夜』を作る中で、それまでのストックは全部吐き出したんですか?
出し切ってましたね。全くもう無かったです。作曲ペースがとても遅いので(笑)、今回の『揺ら揺ら』も本当に絞りだしたような感覚です。ペースはもっと早めにしたいなって思います。
――ストックが無い状態からスタートしたということは、初めて「アルバムを作るぞ」という意識のもと制作に向かっていったわけですよね。そうなるとスタンスややり方に変化もあったんではないかと。
今までは一曲ずつ、「このジャンルは大丈夫?」みたいに、みんなの反応を見ながらまた作り始めてっていうやり方だったのが、今回は先に作ったものを一気に出すので怖いですね、ちょっと。でも、やってみるとできるもんだなと思いました。
――全体として「こういう作品にしたい」っていうイメージはありました?
「鬣犬新書」と「日進月光」を作ったあたりで、自分としては、前のアルバムと全く同じようなものにはしたくないし、ちょっと新しいことをしたいなと思いつつも、どうなんだろうなぁと気持ちがユラユラしている状況や思いそのままのタイトルを、アルバムのタイトルに付けて伝えようと思って。そこから、次の3曲「らんだ」「忘憂」「橙一点」を作ったんです。
――前作が“うやむや”、今作が“ゆらゆら”と、どちらもフワッとした精神状態を表す言葉だと思うんです。
そうですね(笑)。
――ご自身としてはまだ習作期であり模索中という感覚なんですね。
そこは一作目から変わってないのかなと。まだ定まりきれてない感じがあって、でもちゃんと答えを見つけ出そうとしているという、その抗いみたいなのを伝えられるのが獅子志司なのかなという思いで作っています。
――とはいえ、音楽的には1作目でできなかったことにも挑戦していますよね?
やってますね。「らんだ」とかは結構攻めたなと。自分的には『有夜無夜』でいう「lielie」と「喰らいながら」っていうダーク寄りの曲の間を取るような曲を作りたいなと思って、でももうちょっとHIP-HOP寄りのダンサブルなものにしたいのもあって。結構攻めたものを作ったので、これがみんなにどう聴こえるんだろうな?っていう気持ちが、「らんだ」は特にあります。
――使っている音の種類からはバンドサウンド要素も感じますけど、ダブステップとか、それこそK-POPのダンス系トラックのような要素もあって。
もともと聴いてる曲の中にそういうものも多くて。K-POPとか、海外のアーティストの曲も以前から好んで聴いているので、自然とそっちに寄ったような感じです。でもボカロ曲にしたときにどうなんだろう?っていう部分も考えつつ作りました。
――そこなんですよね。獅子志司さんは所謂“ボカロらしい”タイプの曲じゃないものでも、初音ミクの歌うバージョンを作っているじゃないですか。で、そっちを聴いてもちゃんと成立させている。そもそも、自分で歌う音源とボカロ音源を並行して作ろうというこだわりがあるわけですよね。
そうですね。僕は人に歌ってもらうのがすごく好きで、ボーカロイドもやることによってみんながカバーしてくれたりするので、これはずっと続けていきたいなと思ってますね。今は『プロジェクトセカイ』とかでも一緒に歌ってたりするし、人間とボカロが一緒に歌うのもありなんじゃないかなって。それこそ米津さんの「砂の惑星」とかも良いなと思うので。
――特にそこに垣根は感じていない。
そうですね。どっちでも大丈夫ですっていう感じです。
――なるほど。アルバムの話に戻りますが、公開順からするとまず最初に作ったのは「鬣犬新書」ですか?
はい。この曲が『揺ら揺ら』の最初だったので、一番「どうしようかな」って思っていた曲です。(前作と)同じようなものにはしたくないけども、ちゃんと獅子志司を出さないとなって。メロディアスなんだけどラップにも聴こえるような感じで、言葉数をいっぱい入れたいと思ってました。特に2Aとかはラップ調のように聴こえるように意識しています。
――韻を踏んだりダブルミーニングのワードがあったり。あとは言葉のチョイスも、一般的にはあまり歌詞で使わないような言葉も乗せています。
ちょっと難しすぎたかなって自分では思うんですけど(笑)、でもこれが獅子志司かなっていう感じですよね。
――音として入ってくる情報と、歌詞を読んでわかる情報との二段階で理解が深まる面白さがあって。ただ逆に、「日進月光」や「忘憂」あたりは比較的シンプルな書き方なのかなとも思いました。
うんうん。こういう優しい曲も作りたいなと思っていたので。「日進月光」は、「これまで明るい曲があんまりないな」「もうちょっと明るい曲を作りたいな」という思いで作りました。
――それって、以前を振り返って気付いたら明るい曲があまりなかったのか、意図的に明るいものを作ってこなかったのか。
意図的に、あんまり明るい曲を作りたくない派の人でしたね。Choisauceの頃には明るい曲を作っていたんですけど、全然反応がもらえなくて「これじゃないな」と感じていたので。だから「日進月光」にしてもそんなに明るすぎず、ちょっと切ないような感じを入れたくて。
――たしかに切なさやカッコよさもちゃんとあって。リスナーとしては明るい曲も好んで聴きます?
ああ、明るい曲は今あんまり聴いてないかもしれないですね。クール系、カッコいい系、あとはお洒落系なものを好んで聴いているし、全体的にも、そんなに明るい曲って無くなってる気がしますよね。「忘憂」も、明るくても歌詞が結構メンヘラチックじゃないですけど(笑)、憂鬱なことを歌っていたりするので、そういうところを重視してます。少し前向きなメロディを置きつつ、歌詞はダークっていうのが自分の中で響くなと思って。
――「橙一点」からは往年のボカロシーンへのリスペクトのような要素も感じました。
これはもう、獅子志司の「永遠甚だしい」と「絶え間なく藍色」を混ぜたような曲で、このアルバムの顔となる、これがみんなに届いてほしいという気持ちをつぎ込んだ勝負曲として作りました。
――サビがキャッチーですし、アニソンとかにも合いそうな曲ですよね。
ありがとうございます。疾走感があってダークな曲はめちゃめちゃ好きで、こういう曲が自分の根本にあるかもしれないです。
――という5曲を作り終えてみて、あらためて感じたことや気づきもありました?
これからかもしれないですね。(未発表の)3曲が世に出てみんなに聴かれたときに、数字やらコメントで「ここが良かったのか」「ここはうまく伝わらなかったな」とかが分かるかなって。
――今回はリリース後にライブも控えてます。獅子志司としての初ライブなんですよね?
初ですね。もう、ライブはトラウマになっているのですごい怖いですね(苦笑)。
――それは路上時代の?
そうですね。高校の頃はテンションでいけてたんですけど、路上ライブで心折れてしまってからは一切やっていないので、ライブは怖いなと思いつつも、この前演出の方々と話して「すごいカッコいいものになりそうだな」って感じたので、ちゃんと自信を持って、恥じないようにしようと思いました。あと、自分がライブしていた頃って“ファン”という存在は知らなかったので、獅子志司を観に来てくれるっていうのが新鮮すぎて。
――ああ、そうか。
その人たちに「あなたたちに救われました」っていう気持ちを伝えたいですね。
――理想とするライブ像みたいなものもあります?
やっぱり、Eveさんのステージングとかカッコいいなってすごく思いますし、憧れがあります。でも自分はライブの知識とかないから、あんまりイキれないなって感じなんですけど(笑)。
――実際にやってみることで得られるものもきっと多そうですよね。
不安半分、楽しみ半分です。とにかく感謝と、良いもの――良い歌を届けたいなっていう思いに尽きますね。

取材・文=風間大洋

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