仁左衛門×玉三郎に見惚れ、幸四郎に
泣き、松緑が猿之助&愛之助とバトル
する! 歌舞伎座『四月大歌舞伎』観
劇レポート

歌舞伎座にて『四月大歌舞伎』が開幕した。公演は2022年4月2日(土)から27日(水)まで。全三部を紹介する。
■第一部 午前11時開演
通し狂言 天一坊大岡政談
江戸時代、徳川吉宗の落胤を偽り、天一坊と名乗った男がいた。多くの浪人を従え、金品を集めたことで投獄された。この出来事は天一坊事件と呼ばれ、講釈などで人気の題材となった。河竹黙阿弥が書いた『天一坊大岡政談』では、史実では出会うことのなかった天一坊と大岡越前守が対決する。
町奉行界のスター・大岡越前守を勤めるのは尾上松緑。天一坊を市川猿之助が勤め、その参謀となる山内伊賀亮を片岡愛之助が勤める。
第一部『天一坊大岡政談』左より、山内伊賀亮=片岡愛之助、法澤(後の天一坊)=市川猿之助 /(c)松竹
前半は、小坊主の法澤(後の天一坊)が、吉宗のご落胤の証を奪い、天一坊を名乗るまでが描かれる。法澤は、雪の日に、お三ばあさん(笑三郎)にお酒のおすそ分けを届ける優しさを持ちながら、ピンチやチャンスにはライトな感覚で人を手にかける。失うものを持たない強さなのか。「今」以外への執着のなさの表れか。大胆不敵な天一坊の元に、悪い仲間が集まってくる。はりぼての高貴さが厚みを増すほど、内側の俗っぽさとのギャップから色気が生まれていた。
芝居の後半は、越前守サイドから描かれる。三幕目は、奉行所の広書院。金地に老松が描かれた襖がスッと開き、越前守が登場する。立派で美しく、悪の決起集会状態だったここまでの物語に、光が射す瞬間だった。思わず、居ずまいを正した人は、客席にもたくさんいたはず。
いよいよ天一坊一味と越前守の対面で、存在感を見せるのが伊賀亮だ。どっしりとしながら、どこかミステリアス。越前守との「網代問答」と呼ばれる舌戦で、練り上げるように高まる緊張感。その中でも愛之助は、うっとりするような台詞回しで聞かせ、拍手を浴びた。
第一部『天一坊大岡政談』(前方)左より、天一坊=市川猿之助、大岡越前守=尾上松緑、(後方)左より、吉田三五郎=中村松江、近習新蔵=中村鷹之資、近習金吾=市川男寅 /(c)松竹
善悪のバトルに並び、観客が固唾をのんで見守ったのが四幕目。越前守は、天一坊の嘘を確信しつつも、吉宗公との面会をセッティングしなくてはならない状況となった。悪事の証拠をつかむべく、池田大助(坂東亀蔵)を調査に出しつつ、自身は切腹の覚悟を決めていた。大岡邸奥の間で、越前守は息子の忠右衛門(尾上左近)、妻の小沢(市川門之助)と死装束に身を包む。忠右衛門の健気さ、小沢の情愛がじんわりと描き出され、一方では介錯役の平岩治右衛門(中村歌昇)が観客の心境を明瞭に描き出す。クライマックスに向けて動き出すテンポ感は爽快で大詰めは鮮やか。松緑、猿之助、愛之助が揃う通し狂言に、歌舞伎をみた! と大満足の第一部だった。
■第二部 午後2時40分開演
一、荒川の佐吉
真山青果の『江戸絵両国八景(荒川の佐吉)』が、齋藤雅文の補綴・演出により上演される。主人公・荒川の佐吉を演じるのは、松本幸四郎。
第二部『荒川の佐吉』左より、荒川の佐吉=松本幸四郎、丸総の女房お新=中村魁春、相模屋政五郎=松本白鸚 /(c)松竹
佐吉は、元は腕の良い大工だったが、任侠の世界に憧れて、今は鍾馗の仁兵衛親分(松本錦吾)のもとで下っ端の子分をしている。ある日、両国橋のたもとの出茶屋の前で、騒ぎが起きていた。やじうまで賑わう中、佐吉が飛び込んでくる。いかにもヤクザに憧れそうな、若さゆえの勢いと屈託のなさ。そんな佐吉を「兄ぃ」と慕うのが、大工の辰五郎(尾上右近)。一部始終を見届けていたのが、影のある浪人の成川郷右衛門(中村梅玉)だった。
仁兵衛の姉娘・お新(中村魁春)は、日本橋の大店・丸総の若旦那の子をなした。妹娘・お八重(片岡孝太郎)は、仁兵衛の子分の一人・清五郎(市川高麗蔵)と思いあう仲。今回、お八重と清五郎は幕開きに登場した。限られたやりとりからも、それぞれの人柄、立場、ふたりの間柄が色濃く描き出されていた。
仁兵衛は縄張りを奪われ、以来、落ちぶれてしまう。ある雨の日、佐吉は成り行きから、仁兵衛の孫・卯之吉を預かる。夜のうちに雨はあがり、月の下で赤ん坊を抱き、仁兵衛の帰りを待つ佐吉。おかしみもありつつ、情緒に溢れた美しい場面だった。そこへ、かつて仁兵衛の子分だった徳兵衛(中村亀鶴)が、ある報せをもって現れる。7年後、佐吉は卯之吉とともに、辰五郎の家に身を寄せていた……。
第二部『荒川の佐吉』左より、荒川の佐吉=松本幸四郎、大工辰五郎=尾上右近、相模屋政五郎=松本白鸚、お八重=片岡孝太郎 /(c)松竹
佐吉と辰五郎は、この2人のスピンオフドラマを見たくなる、最高のバディぶり。辰五郎は、気持ち良いまっすぐな友情と愛情で、佐吉と卯之吉を支える。佐吉は後半、激しい立廻りをみせ、サナギから羽化するように飛躍を見せる。一幕目では別格に思えた成川と対峙しても、今や見劣りすることはない。そこへ、さらに大きな存在として大親分の相模政五郎(松本白鸚)も登場。規格外の風格をみせ、腕組みの間合いひとつで芝居にリズムを生む。佐吉が旅立つ朝は、向島の茶屋でも歌舞伎座の客席でも、多くの涙が流れていた。花道の引込みでは、こんな思いになるくらいならば見なければ良かった、とさえ思うほど胸を締めつけられる。それでも観ることができて良かったと思えるお芝居だった。
二、義経千本桜 所作事 時鳥花有里(ほととぎすはなあるさと)

第二部『義経千本桜 時鳥花有里』左より、鷲尾三郎=中村鴈治郎、源義経=中村梅玉 /(c)松竹
第二部『義経千本桜 時鳥花有里』(前方)左より、白拍子帚木=中村種之助、白拍子雲井=中村虎之介、傀儡師輝吉=中村又五郎、白拍子園原=中村壱太郎、白拍子伏屋=中村米吉、(後方)白拍子三芳野=中村扇雀 /(c)松竹

大物浦で平知盛の最期を見届けた後、吉野山へ向かう途中の源義経一行を題材にした『時鳥花有里』。1794年に初演された記録をもとに、2016年、新たな構成で復活し初演された所作事だ。初演に続き、義経を勤めるのは梅玉。幕間前のニヒルな浪人から一転し、高貴な義経となって舞台の格を上げる。従者の鷲尾義久に中村鴈治郎、傀儡師輝吉に中村又五郎、白拍子に中村扇雀、中村壱太郎、中村種之助、中村米吉、中村虎之介。古風な味わいの踊り、面を使った軽妙な踊りなど、見ごたえがあり、白拍子たちは満開の桜さえかすむような華やかさで場内を明るくする。真の姿となって、セリ上がりで再登場した時は、客席に、体温が上がるような高揚感が広がった。傀儡師も鮮やかに姿を変え、春の訪れを祝うような大きな拍手に包まれる中、第二部は結ばれた。
■第三部 午後6時20分開演
一、ぢいさんばあさん
片岡仁左衛門による美濃部伊織、坂東玉三郎による伊織の妻・るんで、名作『ぢいさんばあさん』が上演される。歌舞伎座では2010年以来12年ぶりの配役だ。キーパーソンとなる同輩の下嶋甚右衛門は、中村歌六。るんの弟・久右衛門は、中村隼人。久弥に中村橋之助、久弥の妻きくに片岡千之助。
物語は、江戸番町の美濃部伊織の屋敷からはじまる。春のはじめの繊細な陽の光の中、琴の音が聞こえ、うぐいすがさえずる。桜は、まだ蕾だ。伊織は明日から1年間、江戸を離れて京都へ行く。伊織とるんの間には、生まれたばかりの子どもがいる。るんのことも愛おしい。伊織は離れがたい様子をみせる。るんも凛とした物腰だが、伊織と向き合う時の距離感や眼差しに、愛しい思いが溢れていた。
第三部『ぢいさんばあさん』左より、伊織妻るん=坂東玉三郎、美濃部伊織=片岡仁左衛門 /(c)松竹
3か月後、京都の料亭にいる伊織。立派な刀を入手し、ささやかな披露目の場をもうけたのだ。単身赴任に慣れはじめてはいるが、同輩から帰りたいかと聞かれれば「帰りたい!」と頷き、るんのことが恋しいか問われれば「恋しい!」と即答する伊織。その愛すべき素直さに、一同の笑いがこぼれるが、招かれざる客、下嶋が泥酔状態でのりこんできて……。
伊織とるんは、見ているこちらが照れてしまうほどの、おしどり夫婦だ。劇中の久右衛門が、目を伏せたり退席するのが正しいリアクションに違いない。しかし仁左衛門と玉三郎の芸と美しさが、目を離すことを許さない。マスクの中に隠れたい気持ちと葛藤しながら、仲睦まじい2人に見惚れ、時には笑いながら、幸せな時間のおすそ分けにあずかった。
第三部『ぢいさんばあさん』左より、伊織妻るん=坂東玉三郎、美濃部伊織=片岡仁左衛門 /(c)松竹
時がたち37年後。訳あって離ればなれに年を重ねた2人が、屋敷で再会する。桜の木は見事に咲き誇っていた。ふたたび寄り添い手をとり合う2人の姿が涙を誘う。ハッピーともアンハッピーとも割り切れない結末は、物語にリアリティを刻む。美しいおとぎ話では終わらせない、心に余韻を残すお芝居となっていた。
二、お祭り
第三部『お祭り』左より、若い者=中村歌之助、芸者=坂東玉三郎、若い者=中村福之助 /(c)松竹
柝の音とともに、玉三郎の芸者、中村福之助と中村歌之助による若い者の3人が板付きで登場。江戸っ子たちにとっての一大イベント、赤坂・日枝神社の山王祭を題材にした賑やかな舞踊だ。多くの場合、鳶頭と芸者(または鳶頭のみ)で上演される本作を、今回は芸者のみで上演する。玉三郎だからこそ成立する一幕だ。若い者2人の勢いを、芸者は粋にいなす。かと思えば、心をよせる相手との馴れ初めを艶っぽく踊りはじめる。ふたたび若い者も登場し、大いに盛り上げたところで幕。4月に入り、お芝居に登場する見物人や与力の人数が増えたように感じられた。音声ガイドの歌舞伎座内の貸し出しカウンターも再開したようだ。しかし、大向うの掛け声はまだ再開していない。『お祭り』で「待ってました」の声がかかる日が近いことを、願うばかりだった。
出会いと別れに春を感じる、歌舞伎座『四月大歌舞伎』は、4月27日までの上演。
取材・文=塚田史香

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