不思議の国のアリス×乙女かぶき、オ
ンライン配信へ! 『本朝不思議之國
 夢逢姫』公演レポート

寺子屋乙女かぶき『本朝不思議之國 夢逢姫(ほんちょうふしぎのくに ゆめあいひめ)』が、歌舞伎オンデマンドでオンライン配信される。配信期間は2022年4月22日(金)より5月8日(日)まで。本作は、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を題材とした舞台だ。松竹が主宰するこども歌舞伎スクール「寺子屋」の中学部門成果披露公演として、3月20日、21日に上演された。
脚本は松竹芸文室の戸部和久、振付・演出は宗家藤間流宗家の藤間勘十郎。勘十郎は、苫舟の名前で作曲も担当している。こども歌舞伎スクール「寺子屋」は、2014年に開校した子供向けのスクールだ。歌舞伎子役の育成や歌舞伎を通した和の礼儀作法の習得という主旨のもと、歌舞伎に関わるプロたちが指導を行っている。開校当初は、小学生までを対象としていたが、さらに学びを深めたいという生徒の声に応え、2017年に中学部門がスタートした。
後列左端に脚本の戸部和久、後列右端に演出・振付の藤間勘十郎
中学部門には、歌舞伎コース(男子生徒)と女子舞踊コース(女子生徒)がある。本作には、女子舞踊コースでのオーディションにより選ばれた13名が出演する。中学生を中心とした試みだが、コロナ禍による延期もあり、小学校5年生から高校3年生までの変則的な構成となっている。
衣裳やヘアメイクにも注目!
3月19日には、歌舞伎座ギャラリーに併設された木挽町ホールにて、関係者向けに本公演のゲネプロ(本番通り舞台稽古)が公開された。イギリスで生まれた児童文学を大枠にした、女性のみで演じる新作でありながら、そこにはたしかに歌舞伎の楽しさや美しさ、高揚感が詰まっていた。終演後、取材に応じた勘十郎のコメントとともに公演の模様をレポートする。
■うさぎ? を追いかけ、不思議の国へ
この日は藍姫(あいひめ)のお輿入れの日。しかし、藍姫は、いいなずけの信貴之助(しぎのすけ)との対面を前に、恥ずかしさのあまりどこかへ行ってしまった。腰元のお瑠璃(るり)とお伽羅(きゃら)が藍姫を探していると、信貴之助の奴・鏡太郎(かがみのたろう)が現れる。藍姫がいないと知るや、鏡太郎は「死んでお詫びを」と一本気に思いつめる。……が、腰元たちと「まだ死にたくない」と大らかな合意に至り、藍姫を探すことに。
藍姫に仕える腰元のお伽羅とお瑠璃奴の鏡太郎
その頃、藍姫はひとりで道に迷っていた。心細げに歩いていると、そこへ飛びだしてくる兎丹角丸(とにかくまる)。「とにかくとにかく」とせわしなく跳ねながら、あっという間にどこかへ。藍姫は、兎丹角丸が落としていった時計を拾ったことから、不思議の国へ迷い込んでいく……。
兎丹角丸
■招かれていないお茶会へ
その先で藍姫を待ち受けるのは、3つの季節の花が一斉に咲き誇る不思議な世界。春姫、夏姫、冬姫が華やかに踊る。さらに茶人の帽子屋永休と三月鼠も加わると、マッドハッターのティーパーティーならぬ、「和」の茶会がスタート。遊び心溢れる舞踊や掛け合いで楽しむ中、藍姫が現れると、一同はざわつきはじめる。
帽子屋永休三月鼠(左から)冬姫、三月鼠、帽子屋永休、夏姫、春姫
■猫が踊り、語り聞かせる
番傘を手に颯爽と登場するのは、どこかミステリアスな知恵者猫(ちえしゃねこ)。時計の秘密や不思議な世界を出る方法、“秋姫”や、雅樂皇子(うたのみこ)と女王・朱雀王(すざくのおおきみ)の関係を、藍姫に教えて聞かせる。藍姫は、もとの世界に帰るべく宮殿へ向かうのだが……。
知恵者猫
鳴物やツケ打ちは生で、衣裳やヘアメイク、美術や照明デザインなど、スタッフワークは完全プロ仕様。黒衣をつとめるのは歌舞伎俳優という贅沢なチーム編成だ。その強力なバックアップに応えるように、生徒たちは個性的なキャラクターたちに、踊り、声、台詞回しで歌舞伎の息を吹き込んでいく。
■藍姫✕朱雀王✕雅樂皇子
藍姫は、初々しさの中に気品を感じさせるお姫様。囚われの身の場面は本作の見どころのひとつ。後半には『不思議の国のアリス』に着想を得たダイナミックな展開もみせ、1人の人間としての成長を明るく描き出した。
藍姫(宿口 詩乃)
雅樂皇子は、朱雀王との舞踊での憂いのある表情から、勇敢な立廻りまで華があり、目を離せない二枚目ぶり。記者席からは「宝塚のトップスターのようだった」との声も聞かれた。
雅樂皇子(綾乃)
そして立ちはだかる朱雀王は、原作の女王様さながらの気高さをまとった魅惑の悪役。雅樂皇子との所作事はダークに艶やか。家来の蜂切草(はちきりくさ)と術密鞠(すべひめまり)とともに、モードな拵えを着こなし、ビジュアル的にも劇中のアクセントとなっていた。
朱雀王
舞踊あり、立廻りあり、連理引きあり、あっという間の91分(芝居のみ)。幕間をはさんで『歌舞伎國乙女三番叟(ふしぎのくにおとめさんばそう)』と題されたキャスト総出演の舞踊も披露された。「乙女かぶき」という新たな試みの始まりを寿ぐ華やかな空気の中、終演した。
『歌舞伎國乙女三番叟』本番はたくさんのお客様を前に。出演者全員での華やかな総踊り /(C)松竹こども歌舞伎スクール「寺子屋」
生徒の方々に才能があり、正しい指導があり、真摯にお稽古を重ねてきた成果に違いない。その努力の痕跡や一所懸命さ、10代ならではの初々しさは「乙女かぶき」の魅力かもしれない。それでも出演者たちは、その武器に甘えることなく、舞台人として丁寧にお芝居や舞踊と向き合い、舞台を創り上げていた。
■今の演劇にない、ひとつの形を目指して
ゲネプロが終わり、生徒を舞台に集めた勘十郎は、「本番で特別なことをやろうと思わず、今日までやってきたことを一生懸命やってください。そうすれば絶対に成功すると思います」と声をかけていた。13人の、ハイ! という瑞々しい返事がホールに響いていた。
その後、勘十郎は会見で笑顔を見せた。
「歌舞伎は長らく男性によって継承されてきました。その中で『乙女かぶき』と銘打ち、女性だけの公演をやらせていただきました。これは大きなことだと思います。今はまだ及びませんが、回数を重ねて近い将来、歌舞伎公演に出ている女方の歌舞伎役者さんたちに、“やばいんじゃないか? 追い抜かれたらどうしよう”と言われる時が来るかもしれません。私はそう確信をしております」(勘十郎。以下、同じ)
アリスと女方の大役が綯い交ぜになる場面も

「乙女かぶき」の理想のあり方を問われると、勘十郎は、身内の話題となることを恐縮しつつ、祖母・初世藤間紫の名前を挙げた。
「藤間紫が一番のイメージです。祖母は女方ができる女優であり舞踊家でした。古典をパッとやれて、新派のようなお芝居もでき、戦後まもなくは歌舞伎公演にも出ておりました。歌舞伎舞踊は、女性の舞踊ではなく女方芸で踊るもの。女方を演じるには、一度もともとの性別を捨てて性根から役になりきらなくてはならない。それが心得であると、祖母から母、そして私にも伝わっております。大変なことではありますが、もしそのような方がもっと出てきたら、今の演劇にない、ひとつの形を作れるのではないでしょうか」
『夢逢姫』稽古風景写真(藤間勘十郎師指導の様子) /(C)松竹こども歌舞伎スクール「寺子屋」
「祖母は六代目尾上梅幸に憧れ、この世界に入りました。こども歌舞伎スクール『寺子屋』は、男子生徒も女子生徒も、歌舞伎公演に携わっているプロや役者から直接教わることができる場です。女子生徒も女方さんに憧れ、何かひとつでも盗んでいってもらえれば。そして歌舞伎の舞台の空気をすったその経験を、舞台人として将来に生かしていただければ大変嬉しいです。松竹さんが始めた『乙女かぶき』。ひとつのジャンルとなり根付くよう、取り組んでまいります。せっかく出た船、すぐに引き返すのはもったいないでしょう?(笑)」
『本朝不思議之國 夢逢姫』の配信期間は、4月22日(金)12:00~5月8日(日)。「歌舞伎オンデマンド」にて、中学部門歌舞伎コース生徒による『菅原伝授手習鑑 車引』もあわせて視聴可能となる。
勘十郎と戸部の声掛けに、笑顔をみせる出演者たち
取材・文・撮影=塚田史香

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