SUIREN『Sui彩の景色』

SUIREN『Sui彩の景色』

2020年7月より活動を開始した“水彩画のように淡く儚い音を描くユニット”SUIRENのヴォーカルSuiが、ヴォーカリストSuiになるまでのエピソードを描くコラム連載。Suiを彩るエピソード、モノ、景色をフィルムカメラで切り取った写真に乗せてお届けします。

文・撮影:Sui

何度目かの春を迎え、気付けば僕も小学校生活最後の一年を迎えていた。
部屋の隅っこで一人遊びをする事も無くなり、休み時間には友達とサッカーをするような活発な男の子になり、兄と比較されることもすっかり気にならなくなった。
むしろ、優等生の兄とはどんどんかけ離れていくことを楽しんでいたようにも思う。
僕は僕だ。
そして、僕には歌がある。
それだけで良かった。
合唱部の活動は相変わらずで、楽しく、ハードだった。
先生は今年こそ地区大会金賞をとって県大会に出場するのだと意気込んでいた。
当時の合唱部は部員数がそれなりに多かったのでスポーツで言えばレギュラーと控えのように、コンクールに立つ生徒と立てない生徒がいた。
僕と同学年の代は、僕を含め何人も小学4年生の時から上級生を抑えていくつかのコンクールの舞台に上がっていたため、この代なら県大会に行けるという空気感がどことなく漂っていた。
そのせいか先輩が引退した5年生の夏くらいから6年生の最後のコンクールまでの一年は、他校と合同練習するために遠征したり、著名な合唱部の先生を招いてレッスンを受けたり、追い込みの様にとにかく練習が増えて、お祭りや、小学校で開かれるバザー等の催し物と練習が被る度に文句を言っていた記憶がある。
それでも確かな充実感と手応えを感じていたし、なんだかんだ言って皆モチベーションも高かったように思う。とにかく部全体の空気が良かった。
先生の指導法の甲斐もあって、皆歌うことが好きだった事と、それを競い合う場所があって、共に頑張れる仲間がいて、同じ目標に向かっている。
その強い一体感が心地よかった。

そうして、迎えた小学6年生の夏。
僕たちは合唱コンクールの地区大会の会場にいた。
他の小学校の合唱部や、その親御さんたちで会場の駐車場は人がごった返していて、開場より少し前に到着したせいなのか学校毎に順番で受付をするせいなのか、蒸し暑い中外で少しの間待たされた。
普段なら汗をかいて喉が渇いて文句の一つでも言いたくなるシチュエーションだが、それでもこの時ばかりは気持ちが高揚しワクワクしていた。
部全体の雰囲気も例年以上にリラックスしていたように思う。
しかし、顧問の先生はそういう訳には行かないようだった。
コンクールの時の先生はいつもピリピリソワソワしていて明らかに緊張していた。
何だかその普段とは違う先生の姿が僕にとっては面白かった。

受付を済ませ会場に入りコンクールの幕が上がる。
指定された座席に座り、他校の演奏を聴きながら自分たちの出番を待つ。
そして、自分たちの出番が近づくと静かにホールを出て、用意されたリハーサル室で声出しや調整もかねて課題曲と自由曲の一番をそれぞれ歌う。本番前ともなると流石に、あのコンクール会場全体の雰囲気や静けさに飲み込まれ、張り詰めた空気が漂い始めていた。

そして、自分たちの出番の一つ前の学校の演奏が始まるタイミングでその部屋からステージの袖に通される。
だが、先生が余りにも緊張しているように見えたせいなのか、はたまた少しでも運営の人達に印象を残したかったのか、今思えば審査員はホールにいるので全く意味がないのだが、
「僕たち県大会に行きます!」
とそのリハーサル室でからステージ袖に行く扉の前で、その扉を開閉してくれるスタッフの方々に向かって僕は高らかに宣言をした。
それを見ていた生徒達は笑っていたが、先生は、
「やめなさい!」
と僕を叱り、
「すみません...」
とスタッフの皆さんに謝っていた。
我ながら痛い子供だったと思うのだが、それでもあの張り詰めた空気が少し緩んだので良しとしよう。

ステージ袖で前の学校の演奏を聴きながら、気持ちを整える。
この時の感覚は今でも忘れられない大切な感覚だ。
不安や恐れは全くなかった。
早くステージに立ちたい、歌いたい、と逸る気持と、ほんの少しの緊張。
その感情の配分が絶妙だった。
この時の感覚を持ってステージに上がれる時が多分自分の最高のコンディションなのだと今でも思う。


本番はとにかく気持ちが良かった。
4年生の時や5年生の時には感じられなかった喜びがそこにはあった。
沢山の人の前で歌い、観て聴いてもらえることが本当に幸せだった。
あっという間に2曲歌い終え、僕たちはステージから降りた。

その後は全ての学校の演奏が終わってから審査結果発表という流れなのだが、僕たちの小学校は毎年部長や副部長以外の生徒は出番が終わったら帰らされるのが恒例だった。
先生としては、もしかしたら生徒が大人しくしていられなくて悪目立ちするのが怖かったのかもしれない。残りたい子は残っていた気もするが、僕は部長副部長でもなかったし、多分悪目立ちするタイプの子だったし、何より県大会に行けるだろうという根拠のない確信があったので、帰って友達と遊ぶ約束をしていたので意気揚々と会場を後にしたのだった。

審査結果を知ったのは家の玄関だった。
家に帰って着替え、ご飯を食べて、よし出かけようとスニーカーを履こうとしたその時、携帯電話を片手に持った母からこう言われた。
「県大会出場おめでとう。」
「ほらね。」心の中でそう呟いた。
「行ってきまーす。」
僕は友達の待つ場所へ出掛けていった。

歩きながら、
「やっぱり俺たち最強だな」なんて思っていた。
そして、すぐにまだ夏休みも練習が続く事に気付いて少しだけ溜息が漏れた。
でも、心は晴れやかだった。
地区大会で金賞を取って、僕たちは県大会に駒を進めた。
県内有数のコンサートホールで演奏することになるのだが、正直県大会の記憶の方があまり残っていない。恐らく目標が県大会出場だったからなのだろう。
今思えば所詮は地区大会金賞。
そんなに大した事ではない。
でも、もし全国大会を目指すような強豪校だったなら、もしかしたら今僕は音楽を続けていなかったかもしれない。
楽しめる範囲で取り組めた事と、小さな、しかし、この時の僕にとっては大きな成功体験を得た事が今に繋がっている気がするのだ。
記憶は曖昧なものだ。
美化している部分もあると思うが、それはつまり僕の人生におけるハイライト。紛れもなく美しい瞬間だった。
合唱部での活動を通じて学び感じたことは間違いなく今の僕の人生に影響を与えている。
歌う喜びをこの時期に知ったのだから。






P.S
そんな幼少期から時は過ぎ…2022年。
前回の投稿から今日までの間に、初ワンマン、レコーディング、撮影、マスタリング...etc
有り難いことに、この一ヶ月目まぐるしい日々を過ごしています。
もう、先日のライブが遠い昔の事のようです。
SUIREN プロフィール

スイレン:ヴォーカルのSuiとキーボーディスト&アレンジャーのRenによる、水彩画のように淡く儚い音を描くユニット。2020年7月に最初のオリジナル楽曲「景白-kesiki-」を動画投稿サイトにて公開すると同時に突如現れ、数々の作品を公開し続けている。Suiの独特な歌声から生まれる淡く儚いメロディーと、Renが作り出す美しく洗練されたサウンドが交じり合い、唯一無二の世界を構築している。2021年より、EP2枚、シングル4枚を、配信にてリリース後、22年3月にワンマンライヴを開催。5月にTVアニメ『キングダム』の第4シリーズ・オープニングテーマ「黎-ray-」を含む自身初のCDシングルを発売する。SUIREN オフィシャルHP

【連載】SUIREN / 『Sui彩の景色』一覧ページ
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