3年に一度の『瀬戸内国際芸術祭2022
』を遊覧、美しい海と色彩豊かな春の
自然に映える214の現代アート

瀬戸内国際芸術祭2022 2022.4.14(THU)〜5.18(WED)瀬戸内海
自然豊かな瀬戸内海の島々で、現代アート作品を楽しむことができる『瀬戸内国際芸術祭(以下、瀬戸芸)2022』。「海の復権」をテーマに、2010年から3年ごとに春、夏、秋の3会期で開催。アート作品と島々の自然や文化、歴史を同時に体験できるイベントとして知名度を上げ、国内外から人気を博している。作品展示の舞台は島でありながら、母体となる市や街、本土との関わりを意識して、アートを軸に地域活性化や海外とのつながりや循環を生み出しているところが特徴だ。
5回目の開催となる今回は、33の国と地域から184組のアーティストが参加、214作品を出展している。春会期は4月14日(木)〜5月18日(水)まで。直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、沙弥島(春のみ)、高松港周辺、宇野港周辺を舞台に開催される。今回はSPICEの記者が、一般公開に先駆けて行われたプレスツアーに参加。新作を中心に、小豆島、豊島、直島、宇野港周辺の作品を紹介する。
━━ 小豆島 土庄港━━
小豆島に到着。右側に見えるのは、sd01:チェ・ジョンファ(崔正化)「太陽の贈り物」
宇野港からチャーター船に乗って約1時間15分。小豆島の土庄港では、作品No.sd01:チェ・ジョンファ(崔正化)「太陽の贈り物」が出迎えてくれる。そこからバスで向かった迷路のまち周辺には、いずれも『瀬戸芸』初参加の、3名の作家の新作がお披露目されている。
・sd42:土井健史「立入禁止」
sd42:土井健史「立入禁止」
迷路のまち一体には、土井健史の「立入禁止」が14点展示されている。旧土庄町役場にある「立入禁止1:一瞬ですか」は比較的わかりやすいが、透明のアクリル製のため、よく目を凝らさないと気づかないものも。「立入禁止」があることで、人は何かを想像し、どこにでもある普通の場所が、特別な場所になる。そこに存在することで日常の風景を変え、観る者の想像と感情を顕在化させる作品だ。迷路のまちはその名の通り、非常に入り組んだ構造。点在する全ての「立入禁止」を見つけてコンプリートすると、かなりの達成感が味わえるに違いない。ちなみに作家本人のオススメは9番、10番、12番。是非作品マップを片手に会いに行ってほしい。
・sd41:スタシス・エイドリゲヴィチウス「いっしょに/ともだち」
sd41:スタシス・エイドリゲヴィチウス「ともだち」
sd41:スタシス・エイドリゲヴィチウス「ともだち」
ポーランドの作家、スタシス・エイドリゲヴィチウスは、約2メートルの高さのオブジェ2体で参加。古井戸を囲うように設置された「ともだち」は鉄でできている。これからどんどん表情を変えるのだが、自分自身が動いて様々な角度から眺めることでも見え方が変化する。ドアのような人の横顔が印象的な作品だ。
sd41:スタシス・エイドリゲヴィチウス「いっしょに」
sd41:スタシス・エイドリゲヴィチウス「いっしょに」
「ともだち」からほど近い場所に展示されているのは、「いっしょに」。人間がもうひとりの人間を助ける「助け合い」をテーマにした作品。作家本人の指示に基づいて、高松の業者が組み立てたそうだ。2つの顔には表情がないが、木製で「人」という漢字のように見え、温もりを感じられる作品となっている。
・sd40:ソピアップ・ピッチ「La dance」
sd40:ソピアップ・ピッチ「La dance」
カンボジアの作家ソピアップ・ピッチの「La dance」は、現地のリサイクル販売店から買い集めたアルミ製品を継ぎ合わせて、伐採された百日紅の木の幹や根、枝の細部へ叩き込み、型どった作品。一度叩き込んだあと、剥がして元の木の形に組み直した。そのため中は空洞になっている。
sd40:ソピアップ・ピッチ「La dance」
カンボジアでは、アルミ製品は生活の中で昔から使われてきた非常に貴重なもの。カンボジアの物質的な歴史や記憶が刻まれた作品であり、貧富の差や格差社会を訴える作品でもある。展示場所は候補地の中から作家が希望した。本来は6本だったが、スペースの都合上5本の展示になったそうだ。青空に伸びるようにくねるアルミの百日紅から、何を感じとるだろうか。
━━ 小豆島三都半島━━
島の南側に位置する三都半島でも多くの新作が展示された。今回はその中から3点を紹介しよう。
・sd45:尾身大輔「ヒトクサヤドカリ
sd45:尾身大輔「ヒトクサヤドカリ」
高台から海の方向を見下ろすと、古民家から大きくはみ出た木彫の巨大なヤドカリが目を引く。「海近くに住み着くヤドカリの背は殻ではなく家だった」というテーマで、琉球の創世神話をもとに作られた作品「ヒトクサヤドカリ」。作家の尾身大輔がこの古民家を見た瞬間、インスピレーションでパッと浮かんだという。
sd45:尾身大輔「ヒトクサヤドカリ」
素材はクスノキの無垢材で、広島市立大学のアトリエでパーツごとに作成したものを現地で組み合わせた。制作中は一体が良い香りだったそうだ。作家の意向として着色はせず、防腐剤のみを使用。入り口のカーテンは後付けで、今にも動き出しそうな迫力を演出している。
・sd46:伊東敏光+広島市立大学芸術学部有志「ダイダラウルトラボウ」
sd46:伊東敏光+広島市立大学芸術学部有志「ダイダラウルトラボウ」
その巨大さ(高さ9.5m✕横幅17m)がひときわ目を引くのは、伊東敏光+広島市立大学芸術学部有志の「ダイダラウルトラボウ」。日本の山河を造った巨人の伝説をもとに、神浦地区の石や小豆島の流木、広島の厳島神社に関連した廃船を素材にして制作した。ウルトラマンのような顔は、作家の好みに基づいている。
sd46:伊東敏光+広島市立大学芸術学部有志「ダイダラウルトラボウ」
足の部分に使われた石は、昔から神浦地区で人の手により積み上げられ、集落の道として歴史を重ねてきた。2016年からこの地に入り、作品を作り続けてきた作家は、取り壊された道をなんとか再生したいと、役場に頼んで石を拾い出して積み直した。
作家の伊東敏光
制作期間は去年の10月から3月末まで。作家は、自然の厳しさに苦労したと口にしつつも「自然や地球は我々が作ったものでも、所有物でもない。人間の意志とは関係ないところで巨人を作ってみたかった。おそらくこの巨人が作ろうとしているものは、人間の意図とは別にあるもの、違う視点が持てたらいいなという気持ちで作りました」とコンセプトを力強く語った。
・sd48:フリオ・ゴヤ「舟物語」
sd48:フリオ・ゴヤ「舟物語」
沖縄の作家フリオ・ゴヤの「舟物語」は、漁船をそのまま利用した作品。三都半島では昔、漁業が盛んに行われていたが、漁師の高齢化と後継者不足により衰退。使われなくなった舟を、住民の協力を得て譲り受けたという。作家は「もともとは舟だが、イメージを変えて鳥(島をよく飛んでいるトンビ)に変身させた」と話す。
作家のフリオ・ゴヤ
テーブルや椅子は、実際に漁でタコを採るために使われていた道具や丸太、流木などを使用。「訪れた人が一休みできるように、せっかく来てくれたのだからゆっくり過ごしてほしい」との願いとアイデアが込められている。作品の奥にあるカラフルな漁船の中に入って座るのもOKとのことなので、森の中の船でひとときを過ごしてはいかがだろう。
━━豊島━━
アーティスト内藤礼と建築家、西沢立衛による豊島美術館や、美しい棚田が広がる豊島。
・te19:ヘザー・B・スワン+ノンダ・カサリディス「海を夢見る人々の場所」
te19:ヘザー・B・スワン+ノンダ・カサリディス「海を夢見る人々の場所」
島の南側に位置する甲生地区のドンドロ浜には、オーストラリアを代表する現代美術家と建築家のユニット、ヘザー・B・スワン+ノンダ・カサリディスの「海を夢見る人々の場所」が新作として展示されている。ベンチとして座ることができる同作品は、漁網や流木のような質感が鉄鍛造によって表現されている。手触りの良さとすっぽりと包まれる感覚はとても心地よく、いつまでも海を眺めていたくなった。時間を忘れて優しい波音に身を任せてほしい。
━━直島━━
・na23-B:三分一博志「The Naoshima Plan 「住」」
na23-B:三分一博志「The Naoshima Plan 「住」」
直島の宮ノ浦地区では、建築家の三分一博志の建築プロジェクトの新作が登場。古民家を改修し、福武財団の寮(長屋)を伝統工法と現代技術を組み合わせた工法で作るという、建築のプロセスそのものを「The Naoshima Plan 「住」」として展示している。
na23-B:三分一博志「The Naoshima Plan 「住」」
この長屋には、2011年から三分一が直島で取り組んでいる「The Naoshima Plan」を通して、直島町の地理、風土、暮らしなどの調査から導き出された「風、水、太陽」といった「動く素材」を地域の自然を最大限に取り入れた。
na23-B:三分一博志「The Naoshima Plan 「住」」
島を南北に吹き抜ける風が棚田の水面を撫で、民家まで涼しい風を運んでくれる「風のリレー」や、朝、太陽の光が真っ先に室内を照らす間取り、建物全体を冷却する足元に張られた水など。「先人の知恵やメッセージを次につないでいく必要がある」と三分一は語る。
作家の三分一博志
また、三分一は現代の建築物が、古くなった建物や設備を新しく作り替える「スクラップアンドビルド」手法が取られ、寿命が短いことに触れ、長持ちする建物として、伝統的な工法と現代の工法の良いところを組み合わせた「平間柱貫工法」を取り入れたと説明。災害にも強い建物が出来上がった。
春会期は内部構造が見える状態での展示、秋会期には完成状態が公開される。会期が終わると鑑賞できなくなってしまうので、是非訪れたい。
さらに直島では、「ベネッセアートサイト直島の新しい取り組み」として、安藤忠雄設計の新しいギャラリー「ヴァレーギャラリー」と、「杉本博司ギャラリー 時の回廊」がオープンした。こちらも見逃せない。
━━宇野港周辺━━
・un10:ムニール・ファトゥミ「実話に基づく」
un10:ムニール・ファトゥミ「実話に基づく」
40年前まで実際に使われていた廃病院を会場にしたのは、ムニール・ファトゥミの「実話に基づく」。作っては壊す、スクラップアンドビルドの現代社会に疑問を投げかける作家が約20年前にパリ郊外で撮影した、破壊される建築物のドキュメント映像と写真を、廃病院の内部で展示する。
un10:ムニール・ファトゥミ「実話に基づく」
設置はコロナ禍ゆえ、完全にリモートで行われた。驚くべきは、病院の中をスタッフが全く触っていないこと。スタッフは作家から送られてきた映像を映したモニターを置いただけ。机の上に置かれた薬瓶なども一切手をつけていないそうだ。ディレクターの北川フラム曰く「リモートの傑作」とのこと。
un10:ムニール・ファトゥミ「実話に基づく」
夜の廃病院で見る映像と写真のインスタレーションは、その雰囲気から、ついぞわりとしてしまうが、訴えかける力も非常に強い。病院が廃業したあとも、大家さんが綺麗に掃除をしていたという診察室や調剤室からは、人の息遣いも聞こえるようだ。昼と夜では見える景色が全く違うのもおもしろい。
・『瀬戸内国際芸術祭2022』は、オフィシャルツアーを利用しよう
どのように『瀬戸芸』を楽しむかだが、各島々への移動は当然船を使うことになる。岡山宇野港発か高松発の、添乗員とガイド付きのオフィシャルツアーを利用するのが、最もハードルが低いだろう。もちろん、自分でスケジュールを組んで島を回るのも醍醐味。バスや船の運行時刻に留意して、しっかり計画を練ろう。船の運行状況を考慮すると、スムーズにいって1日で3〜4島ほどが妥当だろう。しかし、かなり早足で回らないといけない可能性もあるので、作品や島の空気をじっくり味わいたい場合は、宿泊することをオススメする。
汐まち玉野食プロジェクト たまのの塩 UNO HOTELの「白桃を食べて育った桃鯛と瀬戸内パエリア弁当」
なお、宇野港発のオフィシャルツアーの中には、食プロジェクトとして地域の食材をふんだんに使ったお弁当が提供されるプランも。今年度は「汐まち玉野食プロジェクト たまのの塩」と称し、宇野港の2つのホテル(KEIRIN HOTEL 10とUNO HOTEL)のレストランが作った「桜海老と瀬戸内海苔の2色のしおさい弁当(KEIRIN HOTEL 10 レストランFORQ)」、「白桃を食べて育った桃鯛と瀬戸内パエリア弁当(UNO HOTEL 瀬戸内レストラン BLUNO)」がついてくる。
・「瀬戸芸デジバス」でスマートに島巡り
スマートに『瀬戸芸』をまわるには、「瀬戸芸デジパス」のアプリがオススメだ。アプリから作品鑑賞チケットを購入すると、各作品の窓口でスマホの2次元バーコードを提示するだけで受付が完了する。全会期有効の「3シーズンパスポート」と春、夏、秋それぞれの会期のみ有効の「会期限定パスポート」がある。紙の「デイチケット」も販売されているが、アプリだと『瀬戸芸2022』の有料イベントに割引価格で参加できたり、香川県と岡山県の文化施設や飲食店の割引などの特典も受けることができる。
・フェリー6航路限定3日間乗り放題乗船券
会場となる12島のうち、5島を結ぶフェリーが3日間乗り放題になる「フェリー6航路限定3日間乗り放題乗船券」も非常に便利だ。イープラスでも購入できるので、チェックしてほしい。
コロナ禍での開催となった『瀬戸内国際芸術祭2022』。リモートで工夫を凝らして展示した海外作家の作品をはじめ、国内作家のクオリティの高い作品たち、そして春の瀬戸内海の豊かな自然と文化を感じに行ってみよう。
取材・文・撮影=ERI KUBOTA

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