美弥るりか、花乃まりあ、剣幸らが紡
ぐ、よりよい世界への挑戦の物語 M
usical『The Parlor』ゲネプロ&取材
会レポート

Musical『The Parlor』は、脚本家・演出家の小林香が「女性たちの物語を描きたい」という思いで企画したオリジナル作品。ある一家の女性たちにより、時代と共に形を変えながら受け継がれてきた「パーラー」という場所を舞台に、人々が「なりたい自分」を見つける様子を描いた物語だ。作曲・編曲はアメリカで活躍する新進気鋭の作詞作曲家、アレクサンダー・セージ・オーエンが手掛けている。主演は宝塚歌劇団月組出身の美弥るりか。同じく元宝塚歌劇団花組でトップ娘役を務めた花乃まりあ、元宝塚歌劇団月組トップスター剣幸、植原卓也、舘形比呂一、北川理恵、坂元健児と、人気と実力を兼ね備えたメンバーが集合した。
取材会には、脚本・演出の小林香、主演の美弥るりか、花乃まりあと剣幸の4名が登壇した。
ーー今回、宝塚出身の3名が親子を演じます。小林さんから見た皆さんの印象を教えてください。
小林:素晴らしいキャストが集い、細やかな芝居を重ねて稽古を積み上げてきました。その中で、同じ場所で育ってこられた3人には共通する気品や知性、柔らかい雰囲気があると感じています。美弥さんは砂に水が染み渡るように朱里の感情を吸収し、とても自然に自分のものにされています。花乃さんは元々芝居と歌、ダンス、容姿の四拍子が揃った方ですが、そこに人生の年輪が加わり、さらに繊細なお芝居をされるようになった印象です。剣さんとは3作目。黙っていても相手のお芝居をしっかり受け、感じたことを返すことができる役者さんです。見えない部分も本当に細やかに表現してくださっていて、1カンパニーにひとり、剣さんがいたら良いなと思いますね。
ーーキャストの皆さんは、小林さんの演出を受けていかがでしょう。
美弥:香さんの演出を受けるのは今回が2作目。前回はスケジュールがタイトでしたが、今回はしっかり台本と向き合い、香さんのアドバイスを受けて一歩ずつ進む、充実した日々を送っています。自分の心と朱里の心をフルに動かし、キャストの皆さんが演じる一人ひとりの人生について考えて、丁寧に作品を作る幸せな時間でしたね。香さんは、私のことをすごく理解してくださっていて、ダメなところも包み込んでくださるようなあたたかさがあります。濃い時間を一緒に過ごせてとても嬉しいです。
花乃:香さんは、俳優としてはもちろん、一人の人間として大切にしたいこと、新たな気付きを見つけるきっかけをくださる方。私も香さんには弱点を含めて全部わかっていただいていると感じます。それゆえに稽古では痛いところをつかれたりもしますが、乗り越えるために一緒に戦ってくださるので、負けずについていこうと思います。飴と鞭の使い方がとても上手で、痛いところを突かれた後、一生懸命頑張ったら、できたかどうかに関係なく誉めてくださる。変わろうという意識を見逃さず、絶対に気付いてくださるのでやりがいを感じる稽古です。
剣:お稽古に関しては二人が言ってくださったように、全てに目を配ってくださいます。本作は、香さんがお書きになった台詞や歌詞の中に「なぜ」がたくさん出てくるんです。最初はその「なぜ」になぜ? と思いましたが、それは私が歳を重ねる中で、平穏に波風立てずに生きようとしているからだと気付いて。それじゃダメだとこの作品に教えられましたし、明日への勇気みたいなものをいただきました。
ーー改めて、小林さんが本作に込めた思いを教えてください。
小林:今、地球全体が暗い雲に覆われているような状況です。ある国では人口の半分以上の子どもたちが国を脱出しないといけなくて、その状況を作っているのは大人たち。でも、子どもたちに「どうして僕・私を産んでしまったの?」とは思わないでほしいんです。そのために今できることはなんだろうと。一人ひとりがささやかなことに気付いたり、何かあったときに無視しないで考えたり。そういった小さなことが繋がって大きな力になったらいいなと思っています。
ーー楽曲も本作の大きな魅力です。お気に入りのナンバーや本作の見どころ、意気込みを教えてください。
美弥:アレクサンダーさんとは今日初めて顔を見てお話しました。やっと会えて嬉しいですとお伝えしたら、「今は離れていて国も違うけど、気持ちはいつもそっちにいるからね」と言ってくだったんです。本当にあたたかく、チャーミングで素敵な方だと思いました。彼が歌っているデモテープが本当にオシャレで、こんなふうに歌えたらどんなに気持ちいいだろうと感じました。彼の魂が自分にも宿っていると思って大切に歌いたいですね。これを歌ったら幕が降りていいんじゃないかと思うくらい壮大で物語のある曲ばかりなのでイチオシを選ぶのが大変ですが、まずは今回の主題歌であり、親子で歌う「The Parlor」。一人で歌う「Another World」も他と印象が違って好きです。電子音で、朱里の見ている世界を感じられる曲です。意気込みとしては、私たちを導いてくださった香さんを信じ、キャスト全員で生み出す繊細な空気と感情を丁寧にお届けできたらと思っています。
花乃:本当にどの曲も大好きで悩ましいですが、「The Parlor」はデモ音源を聴いて自然と涙が出ました。香さんが考えていることをアレクサンダーさんが理解し、音楽に乗せてくれた。素晴らしいチームだと感動しています。また、植原さんと歌う「Tシャツみたいな自分」。自分自身を何者でもないと思っている者同士が、お互いの存在や言葉によって、特別な存在になれるかもしれないという希望を見出していく曲です。ロマンスというか、この人と生きていこう、関わっていこうという素敵な感情の一番フレッシュで大切なところをぎゅっと絞ったような素敵な曲で、勇気をもらえます。作品に込められたメッセージは一言では語りきれませんが、色々な個性や事情を持つ人が集まり、小さな力を重ねて世界を変えようと奮闘する話です。稽古中に香さんから「本気で世界を変えるという思いをどこかで持っていてほしい」というお話をいただいた通り、演じながら世界を変えるつもりで頑張ります。ぜひ見届けてください。
剣:親子4世代にわたる膨大な時間を、アレクサンダーさんが豊富なバリエーションの曲で壮大に表現してくださっているんですよね。私も「The Parlor」の、一人ひとりの思いが最後にひとつのハーモニーになるところが大好きです。もうひとは、娘を亡くした阿弥莉が歌う「呼ばない名前」。亡くなってしまった子どもの名前を呼べない、孫が二人いるけどちゃんと呼べないという祖母の葛藤を優しく素敵に描いてくださいました。そして、この作品は観た方が色々な感じ方をしてくださると思います。見て見ぬ振りをしないで考えるとか、しょうがないと思わずに道を探すことで、自分の人生を決めていけることなどを感じ取っていただけたら嬉しいですね。心を込めて演じさせていただきます。
小林:意気込みは、間に合わせることです。……というのは冗談で(笑)。ゴールデンウィークですので、楽しいことはたくさんあると思います。ですが、劇場に行くというのも本当に楽しいことだと思いますし、色々なテーマを内包しつつ、エンターテインメントとして楽しんでいただける作品になっています。選択肢の中からぜひ観劇を選んでいただき、私たちが繰り広げる世界を観ていただけたら嬉しいです。
※以下、ネタバレと舞台写真あり。
【あらすじ】
世代を越えて受け継がれ、さまざまな人の思いが交差してきた「パーラー」。アメリカ・ロス在住のゲームクリエイター円山朱里(美弥るりか)は、祖母の阿弥莉(剣幸)に呼ばれて数年ぶりに帰国する。母の千里(花乃まりあ/2役)の死をきっかけに、朱里はゲームの世界にのめりこむようになっていた。そんな朱里に対し、継ぐ者のいなくなったパーラーを閉店すると告げる阿弥莉。しかし、常連たちは反対する。幼い娘を育てるシングルファーザーの巧(植原卓也)、クロスドレッサーのザザ(舘形比呂一)、ゲーマーの主婦アリス(北川理恵)にとって、パーラーは自分らしくいられる大切な場所だった。そこへ、千里そっくりな女性が現れる。彼女は千里の死後、大手おもちゃメーカー・トイッスルの社長である草笛遊史(坂元健児)に引き取られていた朱里の妹の灯(花乃まりあ/2役)。灯は朱里に、トイッスルの人気ボードゲーム「Toi・Toi・Toi」のPCゲーム版の制作を依頼するが、事態は思わぬ方向に進んでいく。
Musical『The Parlor』ゲネプロより 舞台写真
冒頭から感じるのは、身の回りにある違和感や課題を繊細に描いているということ。朱里はひとりきりでインディーゲームを作り、世界中にファンを持つクリエイターだ。彼女が生み出すゲームは現実世界からの逃避先であり、誰もが自分らしくいられる自由な世界であり、身分や立場に関係なく交流できる場。だからこそ、朱里は“王道”のレールに沿った人生ゲームのような「Toi・Toi・Toi」に疑問を投げかける。「男の子はヒーロー、女の子はプリンセス」「子供が産まれて家を買って立派な大人になっていく」というゲームを子どもたちが遊ぶのは本当にいいことなのか。その“王道”から外れた子はどこを歩けばいいのか。観ている側も、彼女の言葉に共感したり、作中のキャラクターたちと同じように彼女の問いかけに戸惑ったり、心や価値観を揺さぶられるだろうと感じた。
美弥はクリエイターとして成功していながらも、現実世界に諦めや憤りを感じ、孤独を抱える朱里の苦悩を繊細に表現。周囲に対して壁を作りながらもストレートに言葉をぶつけることで強さと弱さの両方を感じさせ、朱里という人間を魅力的に作り上げている。花乃は明るく溌剌とした朱里の母・千里となんの不自由もなく育ってきたお嬢様・灯という、全く違う個性を持つ二人を好演。舞台上をパッと明るくするようなあたたかさのある千里に惹きつけられ、朱里たちとの出会いで変わっていく灯を応援したくなる。そして朱里の祖母、千里の母である阿弥莉を演じる剣は、歴史を感じさせるパーラーに相応しい穏やかで品のある佇まいで、多くの人にとっての憩いの場を生み出している。
そんな親子3代の周りを固めるキャラクターたちも個性豊かで魅力的。千里の同級生・龍之介は、阿弥莉のヘアカットで「ザザ」に生まれ変わる。モデルは『ラ・カージュ・オ・フォール』のアルバン(ザザ)だと思うが、舘形はそのイメージを損なうことなく、非常にチャーミングに演じている。シングルファーザー役の植原は、周囲のフォローを受けて娘に対する理解を深め、父親として成長していく様子を丁寧に描写。北川は、夫の望むままに生きてきた専業主婦・アリスの苦しみと変化を熱量たっぷりに見せてくれる。
また、朱里たちの前に立ちはだかる壁である遊史だが、ただの敵という描かれ方ではないのも印象的だ。「男たるもの」という言葉とともに押し付けられてきた重圧、その中で培われた価値観のもとで灯の幸せを願っていたことなど、彼なりの事情と思いを坂元が丁寧に届けている。マイノリティや社会的弱者に寄り添うために現在“王道”にあるものを切り捨てるのではなく、それぞれの立場に目を向けたうえで、よりよい世界をつくるにはどうしたらいいかが示されていると感じた。
楽曲はいずれも魅力的で、キャスト陣の歌唱とダンスを堪能できるナンバー揃い。考えさせられる台詞やグッとくるシーンも随所にあり、エンターテインメント性と社会性が両立されていると感じた。この物語を通して朱里たちの人生がどう変わっていくのか、ぜひ劇場で見届けてほしい。
取材・文・撮影=吉田沙奈

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