アート&建築の街・天王洲で出逢う2
つの展覧会 「WHAT MUSEUM」で芸術
とディープに戯れる

東京・天王洲にあるコレクターズミュージアム「WHAT MUSEUM」にて、現在ふたつの展覧会が開催されている。ひとつめは、2022年7月3日(日)まで開催されるOKETA COLLECTION『Mariage(マリアージュ)−骨董から現代アート−』展。
OKETA COLLECTION『Mariage(マリアージュ)−骨董から現代アート−』展 メインビジュアル
ふたつめは、10月16日(日)まで開催される『建築模型展 -文化と思考の変遷-』だ。
『建築模型展 -文化と思考の変遷-』エントランス
本記事では、両展覧会の内覧イベントでの様子や見どころなどをお伝えする。アートと建築をテーマにした、いずれも心躍る企画だ。この夏から秋にかけての、アート散策の背中を押す参考にしていただければ幸いである。
マリアージュ、すなわち幸福な出会い
まずはミュージアム2階で開催されているOKETA COLLECTION『Mariage(マリアージュ)−骨董から現代アート−』展から。「Mariage」とは結婚を意味するフランス語で、“上質な寿司と白ワインのマリアージュ”など、互いを引き立て合うカップリングという意味でもよく使われる。本展では日本有数のアートコレクター・桶田夫妻のコレクションが、「現代アート」「骨董」といったジャンルを横断して展示される。新たな取り合わせに挑戦することで、それぞれの作品の魅力を再発見しようという試みだ。
OKETA COLLECTION『Mariage(マリアージュ)−骨董から現代アート−』展 展示風景
展示は大きく3つのテーマで構成されている。入ってすぐの「身体」パートは立体作品のセクションで、独特な配置が面白い。各作品がバラバラの方向を向き、小さな仕切り壁に隠れるように配されているのだ。来場者は、壁の隙間からのぞく横顔に誘われて、次へまた次へ……と鑑賞を進めていく。結果、作品をさまざまな角度から眺めることになり、立体ならではのよさを存分に味わえるという設えだ。
OKETA COLLECTION『Mariage(マリアージュ)−骨董から現代アート−』展 展示風景
アート同士のマリアージュの例を見てみよう。前に立つと、鏡に映った自分が「TIME」誌の表紙を飾るというマンゴ・トムソンのユニークな作品《November14,2016(The End is Near)》と、その正面に置かれたVERDYの立体作品《VICK》。これは企画当初から桶田氏が構想していた取り合わせなのだそう。両作品の赤・黒がきれいにリンクしているのが目に心地よく、自分のハートを隠してピースサインをつくる《VICK》像が鏡の前に立つことで、さらに物語性が強くなっている。
OKETA COLLECTION『Mariage(マリアージュ)−骨董から現代アート−』展 展示風景
壁で目を惹くのはチャバララ・セルフ《Wash N’ Set 2》。3人の女性の顔が黄色のネオンで表現されており、だんご三兄弟的に順次点灯しては消えていく。文字通り、輝いている女性の数が増えるほど、空間は明るくなっていく。光の変化が、周囲の作品の印象に少なからず影響を及ぼしているのも象徴的だ。チャバララ・セルフはNYで活躍する黒人女性アーティストで、ドローイングや刺繍を組み合わせた作品が中心。本作は作家がネオン素材に初挑戦したものだという。
カラフルは心に効く
続いては「カラフル」のセクションへ。明るい色彩のペインティングが壁面を飾り、その間に陶磁器や民芸品のコレクションが言葉少なに展示されている。実際に展示室に足を踏み入れると、不思議なほど据わりがいいというか、調和がとれていることに驚いた。
OKETA COLLECTION『Mariage(マリアージュ)−骨董から現代アート−』展 展示風景
展示室出入り口付近(写真左手)には、ジェニファー・ロックリンによる陶器作品《Viva LasVegas》が。この “現代のツボ”という存在がさりげなく効いていて、現代アートと陶磁器、全く異なるように思えていたふたつのジャンルを橋渡ししてくれている。
左:岡部嶺男《灰釉窯変瓶子》1962、右奥:北大路魯山人《椿鉢》1940頃、右手前:加守田章二《曲線彫文壷》1970
当初は陶磁器の収集からスタートしたという桶田氏曰く「陶磁器の良し悪しは、たくさんの数を見なければなかなか分からない」とのこと。本展で出会えるのは北大路魯山人の《椿鉢》、岡部嶺男《灰釉窯変瓶子》など、そのお眼鏡にかなった優品揃いだ。これは、眼を育てるチャンス! 個人的な感想だが、現代アートとのマリアージュが成功しているポイントは、陶磁器であれ竹籠であれ“器”である、という点ではないかと思う。これが平べったい皿だったり日本人形だったりしたら、ここまでしっくりこなかったのではないだろうか。やっぱり容れ物は懐が深い。
クレイグ・クチア《a window as a painting as a painting is a window》2022 Craig Kucia, a window as a painting as a painting is a window, 2022, Oil on linen, 198.12 x 292.1 centimeters (78 x 115 inches). Courtesy of the Artist and MAKI Gallery.
こちらは開幕直前に完成したばかりというクレイグ・クチアの新作。桶田氏はコロナ禍での鬱屈とした気持ちを救うような、想像力を羽ばたかせる作品をリクエストしたのだそう。
描かれているのは、窓のようにも絵画のようにも見えるフレームが掲げられた部屋だ。テーブル上で個別に鉢に入れられた植物たちは倒れ、萎れ、どこか不健康そう……。そんな中、今まさにバリーン! と曇り空の“窓”を突き破って伸び上がる花々。青空をバックに、細い茎が何本も束になって力強い流れとなっている。もう少しで、このキャンバスもバリーン! と突き破って来そうだ。
静かなるモノクロ、そしてカーテンの向こうへ
3つ目のセクションは、一転して「モノクロ」。白黒の世界だからこそ粒立つ、質感やフォルムを楽しもう。
OKETA COLLECTION『Mariage(マリアージュ)−骨董から現代アート−』展 展示風景
中心には、緊張感をたたえたフォルムが見事な李朝の壺が。ちょうどその向こうには、2021年末に世を去った世界的デザイナー/アーティストであるヴァージル・アブローの《advertise here》が掲げられている。生前に親交があったという桶田氏曰く、本作は彼の遺作とも言える作品だという。ちなみに「advertise here」は「広告募集中」の意。
TIDE(タイド)《COMPO:L》2021 (c)TIDE / (c)HENKYO
個人的に気になる気鋭のアーティスト、TIDEの作品も見ることができた。漫画家の水木しげるに影響を受けたという独特な陰影を、近くで堪能しよう。まるでアニメのセル画を重ねているように見えるが、実際は背景の手前にネコ型のキャンバスが置かれている。一番2Dに見えるネコが実は思いっきり3D、という立体と平面について考えさせられる作品である。そして……、可愛い。
最後に、展示室奥の二重カーテンで区切られたスペースへ。ここには名和晃平の代表シリーズのひとつ《PixCell-Deer#48》が、ちょっと特別な環境で展示されている。真っ暗な中、円形ステージに強く照らし出される作品の姿に「おお!」と思わず声が出る。
名和晃平《PixCell-Deer#48》2017 (c)Kohei Nawa | Sandwich
《PixCell》シリーズの数ある鹿作品の中でも、本作はかなり大きい方に入るだろう。周囲をぐるっと歩いて眺めれば、ガラスビーズのひとつひとつが照明を反射し、覗き込むと拡大された毛並みが見える。作品の持つ不気味さと神々しさがさらに引き出されている展示だった。これは、アートと空間のマリアージュと言えるかもしれない。

桶田俊二・聖子夫妻。ちなみに「WHAT MUSEUM」公式アプリをダウンロードして行くと、桶田夫妻自身による音声ガイドを無料で楽しめる! Photo by Aya Kawachi
これまで陶磁器なら陶磁器、現代アートなら現代アートにしか関心が無かった鑑賞者でも、ここで作品同士のマリアージュに触れることで、新たな分野に興味を広げていけるのではないだろうか。幸せな結婚が、新郎新婦の友人同士の新たな出会いにつながることは多々あるものだ。

OKETA COLLECTION『Mariage(マリアージュ)−骨董から現代アート−』展は、2022年7月3日(日)まで開催。その後、8月6日(土)からは後期展覧会OKETA COLLECTION『YES YOU CAN−アートからみる生きる力−』展が開催予定だ。
まだまだ行きますよ!
続いては、1階で開催中の『建築模型展 -文化と思考の変遷-』へ。こちらの展覧会では、古代〜現代のさまざまな建築模型を展示し、それらが果たしてきた役割や意義に迫る。建築について専門知識が無くても、フラリと立ち寄ればきっと何かが心に引っかかるはず。学術的な理解より先に、感覚で楽しむことができる展覧会だ。うーん、どうして模型ってこんなに心が躍るのだろう……?
『建築模型展 -文化と思考の変遷-』展示風景
会場内は建築模型がゆるやかに連続するように配置されていて、壁のところどころに「模型なるもの、縮減のはじまり」「復元という対話」などの章タイトルが記され、道しるべとなっている。全作品についての丁寧な解説は、場内に置いてあるハンドアウトにも載っているので、鑑賞のおともとして入手するのをお忘れなく。
模型はあらゆるボーダーを超える
家形埴輪〈奈良県磯城群三宅町赤丸出土〉
展示冒頭で、時代はなんと古墳時代にまで遡る。こちらは奈良県から出土した家形埴輪。このような埴輪は3世紀〜7世紀にかけて作られたそうで、生前の住まいをかたどったミニチュアだ。死者とともに埋葬することで、死後の世界でも住む場所に困らないように、との祈りが込められていたと考えられている。
茶室起こし絵図(複製)藤村庸軒好「澱看席」
一方こちらは、江戸時代の茶人・藤村庸軒の好みで造立された茶室「澱看席(よどみのせき)」の、茶室起こし絵図(複製)である。茶室起こし絵図とは、折り畳んで持ち運べるペーパークラフト的な間取り図のこと。これには茶室のイメージを立体的に認識するためや、日本各地に写しを建てるための設計図といった役割があったという。不動産のマイソクや折り込みチラシも、起こし絵図にしたらいいのに……。

「東京都新都庁舎計画」断面模型 磯崎新
そして本展の目玉のひとつは、磯崎新《「東京都新都庁舎計画」断面模型》である。1985〜1986年にかけて実施された新都庁舎コンペは、戦後日本最大と言われる大規模な建築コンペだ。結果、丹下健三による現在の都庁ビルが誕生したのだが、候補のひとつとして大きな話題を呼んだのがこの磯崎案だった。見ての通り、縦に長い超高層ビルではなく、横に長いビルを提案したのである。法規上問題があるため実現は困難だそうだが、日本の「アンビルト建築(建てられていない建築)」の代表として知られるデザインだ。

本展で展示されているのは、1991年の磯崎の世界巡回展に際して、元の模型を職人の手で緻密に作り直したもの。素材に選ばれた朴(ほう)の木は狂いが生じづらく、実際に建てられた建物よりも寿命が長くなることもあるのだという! 時を超えていく、建築の記憶装置のような模型である。
模型の持つ「語り」の力
会場内には、東日本大震災によって失われた街の1/500サイズのジオラマ模型も展示されている。近くで見ると「〇〇さんの家」「酒屋」「貝が取れる」など、被災住民による手書きの旗があちこちに。これは現在50以上の地域で実施されてきている「失われた街」模型復元プロジェクトの一環で、模型に人々の「記憶の旗」を立てていくことによって、街や暮らしに宿っていた記憶を取り戻し、継承していくことを目的としているのだそう。模型には、こんなふうに人々の心の再生をサポートする役割もあるのか、と驚いた。
「失われた街」模型復元プロジェクト「大島・長崎・小田の浜」模型
そして強く心に残ったのは、建築家の相田武文が企画する建築積木「AIDA BLOCK」の展示だ。「AIDA BLOCK」そのものは写真左手のスリムな箱に入った状態で販売されているものだが、本展では相田自身の手で構築された作品を見ることができる。
AIDA BLOCK“祈り” 相田武文
タイトルは“祈り”。瓦礫の中に佇むウクライナの聖堂をかたどった作品だという。考えてみれば、積木は建てる/壊すという行為の模型とも言えるかもしれない。同じ手を使って、破壊ではなく創造を……そんなメッセージが発せられているように感じた。
世界と接続するために
『建築模型展 -文化と思考の変遷-』展示風景
会場では他にも、ARを使ったデジタルな展示や、構造の仕組みや作り方を理解するための「構法模型」、実際に触って添景(人物や家具などの模型)を設置できる「育てる模型」など、様々な建築模型が登場する。模型を作ることは、世界と自分との関わりを把握して、再解釈することにつながる。それって、もはやアートとも言えるのではないだろうか。
『建築模型展 -文化と思考の変遷-』展示風景
展示室とミュージアムショップの間の通路には「模型年表」なるものが展示されている。さらっと通り過ぎてしまいそうなところだけれど、「日本史」「建築的な歴史」「時代・年」「建築模型」「模型につながる歴史」が並記され、関連性や因果関係がとてもわかりやすくて感動した。「WHAT MUSEUM」の建築模型への愛とこだわりを感じるポイントだ。
『建築模型展 -文化と思考の変遷-』は、10月16日(日)までの開催。また「WHAT MUSEUM」では、チケット予約時に申し込みをすると、オプショナルツアーとして隣接する模型保管庫を見学することもできる。模型の世界にさらにどっぷりと浸りたい方は、そちらもお見逃しなく。
眼福&ご満悦
「WHAT MUSEUM」エントランス
OKETA COLLECTION『Mariage(マリアージュ)−骨董から現代アート−』展と『建築模型展 -文化と思考の変遷-』、ふたつの異なる魅力を持った展覧会が開催されている「WHAT MUSEUM」。ハシゴすれば、感性の充電完了間違いなしだ。右脳も左脳もフル稼働で楽しむアート体験が、天王洲で待っている。

文・写真=小杉美香

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